松山地方裁判所 昭和48年(行ウ)5号 判決 1978年4月25日
《目次》
略語表《省略》
当事者の表示
主文
事実《省略》
(当事者の求めた裁判)
一 原告ら
二 被告
1 本案前の申立
2 本案の申立
(原告らの請求の原因)
第一章本件許可処分と原告らの立場
第二章本件許可処分の手続的違法性
一 はじめに―原子力発電所設置許可手続の概略
二 基本法二条違反
三 基本法及び規制法は憲法違反
1 規制法二四条は白地規定である
2 規制法及び基本法の適正手続条項違反
四 本件許可処分手続の規制法等違反
1 規制法の解釈から導き出される原子力発電所の設置許可手続の内容
2 本件許可処分は法的手続を履践していない
3 本件審査手続の概要と個別的瑕疵
4 手続上の個別的瑕疵に基づく本件許可処分の違法性
5 形式的側面から見た適正手続保障義務違反
五 手続的実質審理上の違法―安全評価過程における適正手続保障義務違反
1 手続的実質審理の違法
2 本件安全審査の手続的実質審理上の違法を示す事実
六 結語
第三章本件許可処分の内容の違法性(その一)
第一 はじめに―原子力発電所の危険性の根源
一 核分裂生成物等の産出とその毒性
1 核分裂生成物等の産出とその毒性の特質
2 放射線の危険性
3 許容被ばく線量や線量目標値などの生物学的医学的危険性
4 プルトニウムの危険性
二 原子力発電所の危険性
第二 平常運転時の危険性
一 平常運転時被ばく評価値の危険性
二 平常時の放射性気体廃棄物に関する審査の違法性
1 気体放射性廃棄物の放出過程、放出量及び被ばく評価の非現実性
2 放射性ヨー素による被ばく評価の欠如及び許容被ばく線量違反
3 その他の微粒子状放射性物質の被ばく評価の欠如
4 気体廃棄物処理設備の無審査
三 平常時の放射性液体廃棄物の無審査
1 液体放射性廃棄物の放出過程、放出量及び被ばく評価の非現実性
2 原子力発電所周辺における実測値は、本件被ばく評価をはるかに超える
3 外部被ばく線量評価の欠如
4 ヨー素による被ばく評価の欠如
5 トリチウムの影響の無視
6 液体廃棄物による被ばく評価値の違法性
四 放射線管理システムは機能しない
1 環境放射線監視設備の不備
2 分析、測定方法の未確立
3 環境放射線監視体制の欺瞞性
五 原子力発電所内での作業者被ばくの無視
1 作業者被ばくの実態
2 作業者被ばくの危険性
3 結語
六 原子力発電所周辺における被ばくの実態
1 浜岡原子力発電所周辺におけるムラサキツユクサを用いた実験
2 線量目標値を大幅に上回る環境放射線増加実測値
3 環境放射線実測値と実際の被ばく線量との大きな隔たり
4 人体への影響
七 固体廃棄物の廃棄についての無審査
1 固体廃棄物の危険性
2 固体廃棄物の最終処分の方法は本件許可処分の審査対象である
3 固体廃棄物の「最終処分」の不可欠性
4 固体廃棄物の「最終処分」についての審査の欠如による本件許可処分の違法性の明白性
5 固体廃棄物の「最終処分」の方法の不存在と規制法二四条違反
6 固体廃棄物の廃棄設備ないし敷地内への「貯蔵」「保管」の無審査
八 使用済燃料及びその再処理(核燃料サイクル)の無審査
1 使用済燃料、再処理、核燃料サイクル
2 使用済燃料についての審査
3 核燃料サイクルの確立の不可欠性とその現状―再処理の危険性
4 使用済燃料の再処理の危険性
5 再処理により排出される廃棄物の貯蔵の不可能性
6 規制法二四条一項二号、四号違反
7 使用済燃料の貯蔵設備及び貯蔵能力の無審査
九 廃止された原子力発電所の施設についての無審査
第三 温排水についての審査欠如
第四章本件許可処分の内容の違法性(その二)―本件原子炉の構造の欠陥
第一 はじめに―本件原子炉の構造の概略
第二 伊方原子力発電所に使用される燃料の危険性
一 炉心の構造と役割
二 平常運転時の危険
1 安全設計審査基準
2 本件炉心核設計の不確かさに由来する危険
3 本件炉心熱設計の不確かさに由来する危険
4 続発している燃料棒事故の危険性
三 事故時における危険
1 安全審査の対象
2 一次冷却材配管の破断事故
3 LOCA時の燃料挙動
4 結論
第三 蒸気発生器細管事故
一 蒸気発生器の機能と構造
二 問題の所在―蒸気発生器細管事故の重大性と現実性
1 蒸気発生器細管事故の重大性
2 多発する細管事故
三 ずさんな安全審査
1 審査の経緯
2 審査基準について
3 蒸気発生器細管の非健全性
4 妥当性を欠いた「設計上の配慮」
四 妥当性を欠いた「試験および検査」
五 審査のずさんと欠如
六 蒸気発生器細管事故による災害の評価
第四 原子炉圧力容器及び一次冷却系配管の危険性
一 安全設計審査基凖について
二 圧力容器の中性子照射による脆化
三 応力腐食割れと疲労き裂
四 ASMEの規格及び我が国の技術基準
五 結論
第五 緊急炉心冷却装置(ECCS)―安全装置は働かない
一 本件原子炉ECCSがまつたく無効な一次冷却材喪失事故(LOCA)
二 本件原子炉ECCSの性能は実証されていない
三 本件ECCS審査基準
1 安全設計審査指針
2 三項目基準
3 本件原子炉ECCS審査基準の不当性
四 安全設計審査指針違反
五 本件原子炉ECCSの基準不適合性
1 基準項目①違反
2 基準項目②違反
3 基準項目③違反
第五章本件許可処分の内容の違法性(その三)―立地選定の誤り―
第一 立地条件の重要性及び原子炉立地審査指針
一 天災で大事故は起り得る
二 立地条件における基準
第二 立地選定の誤りと安全設計の誤り
一 本件審査における原則的立地条件違反
1 中央構造線の存在と無審査
2 敷地付近が特定観測地域に指定されている事実の無視
3 過去における地震歴評価は誤つている
4 震源の深さの推定の誤り
5 敷地内断層の活動性評価の誤り
6 地すべりの多発地帯であることの無視
二 安全設計審査指針違反(その一)
1 地震入力の過小評価
2 敷地地盤の性状に関する過大評価
三 安全設計審査指針違反(その二)
第三 社会的条件の不適合性等
一 原子力発電所用淡水
二 社会的条件の無視
三 瀬戸内海沿岸に設置される原子力発電所の危険性
第四 本件原子炉事故による災害の過小評価
一 災害評価の基準
二 災害評価に対する被告の基本的考え方
三 本件安全審査における事故想定及び災害評価の基本的な誤り
1 「重大事故」及び「仮想事故」の恣意的な選定
2 事故経過の恣意的な想定
四 本件災害評価の具体的誤り
1 本件災害評価で想定されている事故経過は恣意的かつ非科学的である
2 本件災害評価で用いられている様々な仮定は恣意的で根拠がない
3 本件安全審査における推定災害の不当性
五 予想し得る災害の評価
1 本件安全審査における事故想定の誤つた前提
2 本件安全審査における「予想最大地震動」の不当性
3 想定すべき事故と災害の評価
六 結論
第六章本件許可処分の内容の違法性(その四)
第一 四国電力の技術的能力の欠如
第二 本件許可処分の違法性
一 許容被ばく線量とめやす線量の危険性と違法性
二 本件許可処分は規制法違反
1 本件許可処分は違法な基準によつて安全審査がなされた違法がある
2 本件許可処分は安全設計審査指針、立地審査指針及び告示にも違反して違法
3 本件許可処分は規制法二四条一項四号に違反する
4 本件許可処分は規制法二四条一項一号ないし三号にも違反
三 基本法及び規制法は憲法違反である
第三 原子力発電は必要でない
一 「エネルギー危機」論の欺瞞性
二 日本におけるエネルギー事情とその対応策の誤り
第四 結論
(被告の答弁及び主張)
第一章本件許可処分と原告適格の問題
一 本件許可処分と原告らの関係について
二 原告適格について
1 はじめに
2 本件訴訟の特質と問題点―原告らの訴の利益について
3 原告適格を基礎付ける事実の具体性について
三 本件許可処分の法的効果について
1 原子炉設置許可処分の法律上の位置づけ
2 本件許可処分の法的効果
3 原子炉設置許可処分の公定力
4 原告適格を裏付ける事実の立証
第二章本件許可処分手続の適法性
一 はじめに―原子力発電所設置許可処分手続の概略について
二 基本法二条について
三 基本法及び規制法の合憲性
1 規制法二四条の白地規定性について
2 原子炉等規制法及び原子力基本法と適正手続条項について
四 本件許可処分の手続的適法性
1 はじめに
2 行政手続の法的規制
3 本件審査手続の概要とその個々の問題点について
4 手続上の個別的瑕疵に基づく本件許可処分の違法性について
5 形式的側面から見た適正手続保障義務違反について
五 手続的実質審理の適法性
六 結語
七 本件許可処分の裁量処分性
第三章本件許可処分の内容の適法性(その一)
第一 はじめに―原子力発電所の危険性の根源について
一 核分裂生成物等の産出とその毒性について
1 核分裂生成物等の産出とその毒性の特質について
2 放射線の危険性について
3 許容被ばく線量と線量目標値について
4 プルトニウムの危険性について
二 原子力発電所の安全性
第二 平常運転時の安全性
一 本件原子力発電所の平常運転時における放射性物質の放出管理における安全性の確保
二 平常運転時被ばく評価値の安全性
三 平常時の放射性気体廃棄物に関する審査の適法性
1 気体放射性廃棄物の放出過程、放出量及び裁ばく評価について
2 放射性ヨー素による被ばく評価について
3 その他の微粒子状放射性物質の被ばく評価について
4 気体廃棄物処理設備の審査について
四 平常運転時の放射性液体廃棄物の審査について
1 液体放射性廃棄物の放出過程、放出量及び被ばく評価について
2 原子力発電所周辺における被ばくの実測値について
3 外部被ばく線量評価について
4 ヨー素による被ばく評価について
5 トリチウムの影響について
6 液体廃棄物による被ばく評価値の適法性について
五 放射線管理システム
1 環境放射線監視設備について
2 分析、測定方法について
3 環境放射線監視体制
六 原子力発電所内での作業者被ばくについて
七 原子力発電所周辺における被ばくの実態について
八 固体廃棄物の廃棄について
1 固体廃棄物の危険性について
2 固体廃棄物の最終処分方法の審査対象性について
3 固体廃棄物の「最終処分」の不可欠性について
4 固体廃棄物の「最終処分」の審査の欠如による違法性について
5 固体廃棄物の「最終処分」の方法の不在と規制法二四条
6 固体廃棄物の廃棄設備ないし敷地内への貯蔵保管の審査について
九 使用済燃料及びその再処理について
1 使用済燃料、再処理、核燃料サイクルについて
2 使用済燃料についての審査について
3 使用済燃料の再処理について
4 使用済燃料の再処理の危険性の問題について
5 再処理により排出される廃棄物の貯蔵について
6 規制法二四条一項二号、四号違反について
7 使用済燃料の貯蔵設備及び貯蔵能力について
十 廃止された原子力発電所の施設の措置について
第三 温排水の審査について
第四章本件許可処分の内容の適法性(その二)―本件原子炉の構造の安全性
第一 はじめに―本件原子炉の構造の概略
第二 燃料棒と炉心の構造の安全性
一 本件原子炉に使用される燃料の健全性
二 炉心の構造と役割
三 平常運転時の安全性
1 安全設計審査基準
2 炉心核設計について
3 炉心熱設計について
4 燃料棒事故
四 事故時における炉心
1 安全審査の対象
2 一次冷却材配管の破断事故について
3 LOCA時の燃料挙動について
4 結論
第三 蒸気発生器細管の健全性について
一 本件原子炉において使用される蒸気発生器細管の健全性に対する配慮
二 蒸気発生器の機能について
三 蒸気発生器細管事故の重大性と現実性について
1 蒸気発生器細管事故の重大性について
2 細管事故の発生について
四 蒸気発生器細管の安全審査について
1 審査の経緯
2 審査基準について
3 蒸気発生器細管の健全性
4 設計上の配慮について
五 試験及び検査について
六 審査の適正
七 蒸気発生器細管事故による災害の評価について
第四 原子炉圧力容器及び一次冷却系配管の健全性
一 本件原子炉において使用される原子炉圧力容器及び一次冷却系配管の健全性
二 安全設計審査指針について
三 圧力容器等の中性子照射による脆化について
四 応力腐食割れ及び疲労き裂
五 圧力容器に関する規格について
六 結論
第五 本件原子炉における安全防護設備
一 安全性確保に対する配慮と事故対策
1 はじめに
2 異常状態の発生防止
3 異常状態の拡大防止
4 四つの安全防護設備
二 一次冷却材喪失事故(LOCA)について
三 本件原子炉ECCS性能の実証性
四 本件ECCS審査基準について
五 安全設計審査指針適合性
六 本件原子炉におけるECCS評価について
1 基準項目①適合性
2 基準項目②適合性
3 基準項目③適合性
第五章本件許可処分の内容の適法性(その三)―立地の適合性
第一 立地条件の重要性及び原子炉立地審査指針について
一 立地条件の重要性について
二 立地条件における基準について
第二 立地の適合性と耐震設計
一 自然的立地条件の適合性の確認
二 地盤
三 地震及び耐震設計
四 本件審査における立地評価
1 中央構造線
2 敷地付近が特定観測地域に指定されている点について
3 過去における地震歴について
4 震源の深さの推定について
5 敷地内断層の活動性について
6 地すべりについて
五 安全設計審査指針について(その一)
1 地震入力について
2 敷地地盤の性状について
六 安全設計審査指針について(その二)
第三 社会的条件の適合性
一 原子力発電所用淡水について
二 社会的条件について
三 本件原子力発電所が瀬戸内海沿岸に設置されることについて
第四 想定事故について
一 災害評価の基準について
二 災害評価の基本的な考え方
三 万一の事故に備えての立地条件
1 はじめに
2 重大事故を想定した災害評価
3 仮想事故を想定した災害評価
四 本件安全審査における事故想定及び災害評価について
1 事故の選定について
2 事故経過について
五 本件災害評価について
1 事故経過の想定について
2 本件災害評価で用いられている仮定について
3 本件安全審査における推定災害について
六 災害の予想について
七 結論
第六章本件許可処分の内容の適法性(その四)
第一 四国電力の技術的能力
第二 本件許可処分の適法性
一 許容被ばく線量とめやす線量について
二 本件許可処分の規制法適合性
1 本件許可処分における基準について
2 本件許可処分と安全設計審査指針等について
3 本件許可処分と規制法二四条一項四号
4 本件許可処分と規制法二四条一項一号ないし三号
5 「本件許可処分は規制法違反」との原告らの主張の不当性
6 本件許可処分の規制法適合性
三 基本法及び規制法の合憲性
第三 原子力発電の必要性
一 世界におけるエネルギー資源をめぐる状況
二 エネルギー確保の努力に関する世界のすう勢
三 日本におけるエネルギー事情とその対応
四 電力の必要と安定供給の確保
第四 結語
(被告の主張に対する原告らの答弁及び反論)
第一 原告適格について
一 訴の利益の存在
二 本件許可処分の法的効果について
第二 本件許可処分手続の違法性について
一 安全審査の対象
二 原子力基本法二条違反について
三 基本法及び規制法の違憲性について
四 本件許可処分の手続的違法性について
五 手続的実質審理の違法性について
六 本件許可処分の非裁量処分性について
第三 原子力発電所の危険性の根源について
一 核分裂生成物の産出とその毒性について
二 原子力発電所の危険性について
第四 平常運転時の危険性について
一 平常運転時における放射性廃棄物による被ばくについて
二 使用済燃料の再処理について
三 温排水について
第五 本件原子炉の構造の欠陥について
一 燃料棒と炉心の構造の危険性
二 蒸気発生器細管事故について
三 本件原子炉圧力容器及び一次冷却系配管について
四 本件原子炉における安全防護施設について
第六 立地について他
一 立地選定の誤りと耐震設計について
二 万一の事故に備えての立地条件について
三 四国電力の技術的能力について
第七 必ず起こる破壊的な大事故
一 はじめに
二 本件原子炉がその事故によつて、周辺住民に災害を与えることはないとの被告の主張の誤りと不当性
第八 本件訴訟において「原子力発電所の必要性」を主張することは許されない
第九 結語
(原告らの反論に対する被告の答弁)
(証拠)
一 原告ら
1 書証
2 人証
3 検証
4 鑑定
5 乙号証に対する認否
二 被告
1 書証
2 人証
3 検証
4 鑑定
5 甲号証に対する認否
理由
第一 本件許可処分の存在及び原告適格について
一 本件許可処分の存在及び本件許可処分と原告らとの関係
二 原告適格について
第二 本件許可処分における手続の違法性の主張について
一 原本炉設置許可処分手続の概略
二 基本法二条違反の主張について
三 基本法及び規制法の憲法違反の主張について
四 本件許可処分が規制法に違反するとの主張について
1 原子炉設置許可手続の特殊性から一定の手続が必要である旨の主張について
2 本件原子炉設置許可手続における個別的瑕疵について
五 手続的実質審理上の違法―安全評価過程における適正手続保障義務違反の主張について
六 本件許可処分が裁量行為である旨の主張について
第三 平常時被ばくの危険性について
一 許容被ばく線量の危険性の主張について
二 本件原子炉の平常運転時における放射性物質管理
1 平常運転時における被ばく評価値とその危険性について
2 気体廃棄物の放出過程、被ばく評価について
3 液体廃棄物の放出過程、被ばく評価について
4 固体廃棄物の貯蔵、保管等について
5 放射線管理システムについて
6 原子力発電所内の作業者被ばの問題について
三 使用済燃料の再処理について
四 原子炉の使用を廃止した後の措置について
五 温排水について
第四 事故防止対策
一 原子炉における事故の危険性とその発生の可能性について
1 原子炉における事故の危険性
2 原子炉における事故発生の可能性
3 原子炉の安全確保の技術について
二 本件原子炉の安全性確保に対する配慮について
1 本件原子炉の安全性確保に対する配慮
2 燃料及び炉心の健全性について
3 蒸気発生器細管の健全性について
4 原子炉圧力容器及び一次冷却系配管の健全性について
三 本件原子炉の立地選定及び耐震設計について
1 原子炉の設置と自然的立地条件
2 地盤について
3 地震について
4 耐震設計について
四 社会的立地条件について
1 発電所用淡水の取水について
2 社会的条件の不備について
3 本件原子力発電所が瀬戸内海沿岸に設置される点について
五 四国電力の技術的能力について
第五 事故対策
一 工学的安全防護設備について
1 事故対策と工学的安全防護設備の健全性について
2 ECCSについて
二 万一の事故に備えての立地条件
1 災害評価に基づく立地条件について
2 推定事故について
第六 本件許可処分の違法性の問題について
1 手続上の違法性の問題について 2 本件許可処分の内容上の違法性の問題について
第七 結語
〔別紙〕
別紙一 当事者の表示
〃 2 原告居住地表示地図<省略>
〃 三 サンオノフレ、コネチカツトヤンキー各発電所の液体廃棄物放出量<省略>
〃 四 第八六部会委員名等<省略>
〃 五 第八六部会の審査会への報告及び協議の日程、内容<省略>
〃 六の1 第八六部会の調査審議の日程及び内容<省略>
〃 六の2 第八六部会の現地調査の日程及び内容<省略>
〃 七 第八六部会の各委員の加圧水型原子炉の審査経験<省略>
〃 8 放射性物質を閉じ込めるための障壁<省略>
〃 9 放射性物質の発生・検知・処理の説明図<省略>
〃 10 加圧水型原子炉の構造<省略>
〃 11 燃料構造説明図<省略>
〃 12 蒸気発生器構造説明図<省略>
〃 13 原子力発電所施設とLOFT実験装置<省略>
〃 14 工学的安全施設系統説明図<省略>
原告
川口寛之
同
井田與之平
外三一名
原告ら訴訟代理人
新谷勇人
同
浦功
外一七名
右訴訟復代理人
井門忠士
被告
内閣総理大臣
福田赳夫
被告指定代理人
仙田富士夫
同
岩渕正紀
外一五名
被告訴訟代理人
高津幸一
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実《省略》
理由
第一 本件許可処分の存在及び原告適格について(被告の本案前の申立についての判断)
一本件許可処分の存在及び本件許可処分と原告らとの関係
(一) 四国電力の申請を受けて被告が昭和四七年一一月二八日本件原子炉の設置許可処分をしたこと、原告らが右許可処分に対して、行政不服審査法所定の異議申立をなし、被告が昭和四八年五月三一日右異議申立を棄却する旨の決定をなしたことについてはいずれも当事者間に争いがなく、原告らが昭和四八年八月二七日当裁判所に対し、右許可処分取消訴訟を提起したことは本件記録により明らかである。
(二) 原告らが、いずれも右許可にかかる本件原子炉の設置場所である愛媛県西宇和郡内の別紙一当事者の表示記載の肩書地に居住することについては当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により書き入れ部分は原告ら代理人が作成したものと認められ、その余の部分については<証拠>によれば、本件原子炉と原告らの右居住地との地理的関係は別紙2記載のとおりであることが認められる。
ところで、本件原子炉の運転によつて多量の核分裂生成物等が産出され、一年後には、約一〇億キユリーもの放射能を含む核分裂生成物等が原子炉内に蓄積されるものと見られること、右核分裂生成物等より放出する放射線は人身に重大な障害を与えるものであること、なお、本件原子炉はすでに営業運転を行つていることは、いずれも後記のとおりである。そして、前掲事実と<証拠>を総合すると、本件原子炉の平常運転時において、放射性物質を告示所定の規制値(0.5レム)以上に多量に放出する事態が発生すれば、気象、退避その他の諸条件に伴い、原告らのうち、本件原子炉の近辺に居住する者は、放射線障害により発病する蓋然性があること、また、本件原子炉で炉心溶融等の事故が発生して、格納容器の破損が生ずると、原子炉内に蓄積している核分裂生成物の多くが、環境中に放出され、前記諸条件に伴い、原告らは、いずれも、核分裂生成物からの放射線に被ばくし、急性放射線障害により、死亡又は発病する蓋然性を有する者らであることが認められる。
二原告適格について
(一) 行訴法九条所定の「法律上の利益を有する者」とは、法律上保護されている利益を当該行政処分によつて侵害された者をいい、右行政処分の名宛人でない第三者も含まれる。そして、右の法律上保護されている利益の存否は、当該行政処分の根拠となつた実体法規(本件では規制法二四条二項)が右利益の保護を図る趣旨を含むか否かによつて決せられる。
(二) ところで規制法一条によれば、同法律の目的は、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の利用による災害を防止して公共の安全を図るために必要な規制を行う」というものであり、同法二四条一項四号の規定も「原子炉等による災害(ここにいう「災害」とは、多数人の生命、身体、財産に損害を及ぼすことをいうものと解される。)の防止」を目的としていることが明らかである。しかし、右の点から、規制法、特にその二四条が、公共の利益のみを保護の目的としていると解するのは相当でない。すなわち、規制法二四条一項四号は、原子炉の施設の位置等が、原子炉等による災害の防止上支障のないものであることを要する旨を定めること、規制法の付属法規である規則一条七号、一条の二第二項六、七号、一〇号、告示二条、九条及び規制法二四条一項四号の解釈について、事実上重要な意義を有する安全設計審査指針、原子炉立地審査指針、気象手引は、いずれも原子炉施設周辺における放射線被ばくを軽減し、かつ、原子炉施設周辺住民が原子炉事故による災害を被ることを防止することを重要な目的としていると解されること、なお、仮に、原子炉等の災害が発生した場合、公共の安全が害される結果が生ずるのはもちろんであるが、同時に、多くの場合前記のとおり原子炉施設周辺の住民の生命、身体、財産等が侵害される虞れが生ずること、しかも、<証拠>によれば、原子炉施設に近接する場所に居住する者程、被害を受ける蓋然性が多いことが認められることに鑑み、規制法、特にその二四条一項四号は、公共の安全を図ると同時に、原子炉施設周辺住民の生命、身体、財産を保護することを目的としていると解さなければならない。もし、そうでないとするならば、原子炉の災害によつて生命、身体及び財産を侵害される蓋然性のある原子炉施設周辺に居住する住民は、現実に損害を受けない限り、原子炉設置許可処分の違法性を追及することができないという不都合な結果を招くことにもなる。
しかるところ、前記のとおり、原告らは本件原子炉施設の周辺に居住し、原子炉事故が発生した場合等には、その生命、身体等を侵害される蓋然性のある者である。したがつて、以上のことから考察すれば、原告らは本件訴の原告適格を有するものというべきである。
(三) なお、付言するに規制法二四条一項三号(ただし経理的基礎についての規制部分を除く。以下同じ。)についても、その所定の要件の判断に過誤、欠落があり、その結果なされた行政処分によつて原告らの利益が侵害される蓋然性がある限り、前叙の同条一項四号の場合と同様と解されるが、同条一項一、二号の規定は原子炉施設周辺住民の利益保護を目的とするものではなく、国家の原子力についての基本政策の規定及び広く公共の安全を図る趣旨の規定であることが、その文理上からも明らかであるから、原告らが主張する如く右一、二号違反を理由として原子炉設置許可処分の取消を求めることはできない。
(四) 被告は、原告らの主張する原子炉の平常運転時における微量放射線の被ばくによる人身の損傷や、原子炉の炉心溶融を引き起こすような原子炉事故は、いずれも発生することがあり得ないところであるから、原告らの主張は論理的、経験的な根拠を欠き、具体性のない仮定的なものである旨主張する。しかし、証人藤本陽一、同槌田劭、同久米、同市川の各証言に照らせば、原子炉の平常運転時における微量放射線の被ばくによる障害の発生の危険性の存在や、原子炉の炉心溶融に至る事故の発生することを指摘する専門家の見解があることが認められ、したがつて、原告らの主張が直ちに、論理性、経験性、具体性を欠いた仮定的な見解であると即断することはできない。
そして、前顕各証拠によれば、原告らが主張するところの平常運転時における微量放射線の被ばくによる危険性の存在、原子炉の炉心溶融事故の発生により、原告らの生命、身体等が損傷される蓋然性の存在は、いずれも明らかに否定されるが如きものではないから、原告らの本件訴の利益が否定されることはない。
(五) 被告は、原子炉設置許可処分は原子炉の設置許可のみを目的とする処分であるところ、原子炉の運転に至るまでには各種の認可、検査等、後続の処分がなされる。したがつて、これら後続する各種の処分の後になされる原子炉の運転によつて、原告らが被害を受けるとしても、それは本件許可処分の効果に関係のないところであるから、右被害を受けることを理由として本件許可処分の取消を求めるための原告適格を基礎づけることはできない旨主張するが、原告らの主張の趣旨は、本件許可処分に際しなされる原子炉の安全審査に過誤、欠落があることから、それによつて原告らが本件原子炉により被害を受けるというものであると解される。したがつて、本件許可処分に後続する各種の処分があり、かつ、原告らの主張する被害は、原子炉の運転という事実行為より発生するものであるからといつて、原告ら主張の被害が本件許可処分によるものでないとすることはできない。
(六) 原告らが、本件訴訟において主張する権利・利益が侵害されることを理由として、本件原子炉の設置者である四国電力を相手として、防害予防の訴など民事訴訟提起の可能性は否定しえない(それが理由ありとして許容されるか否かはもちろん別問題である。)としても、このことから直ちに、原告らに本件許可処分の取消を求める利益が存在しないとする理由は見い出し難い。
(七) 以上の次第で、原告らは、本件訴を提起すべき利益を有するものであり、したがつて、本件訴訟の原告適格があるというべきである。
よつて被告の本案前の申立は理由がない。
第二 本件許可処分における手続の違法性の主張について
一原子炉設置許可処分手続の概略
被告が原子炉の設置許可処分をするには、被告において規制法二三条所定の設置許可申請を受けることを必要とすること、右申請を受けると被告は原子力委員会の意見を聞かなければならないこと、意見を求められた原子力委員会は設置法一四条の二によつて設けられ、科学専門家によつて構成されている安全審査会に原子炉の安全性に関する調査を指示し、その調査結果を得たうえで、原子力委員会の意見を確定して被告に答申するという手続がとられていること、本件原子炉設置許可に当たつても、右諸手続が経由されたこと、なお、原子力委員会は専門の事項を調査審議させるために専門部会を設けることができ本件原子炉の安全審査に当たつては、第八六部会を設けて調査審議させたこと、原子力委員会の意見を受けた被告はこれを尊重しなければならないことについては、いずれも当事者間に争いがない。
なお、右安全審査においては、設置法二条五号の規定及び同法一四条の三第三項において、審査委員は非常勤とされていることから、主として当該原子炉の基本設計の審査がなされることと解され、かつ、その審査の対象事項は、原子炉設置許可処分が申請による許可主義をとつていること(規制法二三条一項)及び規制法二三条二項、規則一条の二に、申請及びその添付書類への記載事項が定められていることから推して同各条項により定まるものと解すべきである。
二基本法二条違反の主張について
基本法は、その名の示すように原子力の研究、開発及び利用全般にわたる法規範として機能しているものの、それぞれの法的規制の具体的内容については、ほとんどすべて他の法律にこれを委ねている。したがつて、基本法が他の法律を通さずに、直接国民の権利、義務に影響を及ぼしたり、国民と国家との間の具体的な法律関係を形成することはないと解される。また、基本法二条所定のいわる原子力三原則中「民主の原則」は、主として原子力における平和利用を担保するために、我が国における原子力の研究、開発及び利用は民主的な運営の下に進めなければならないとしているものであり、また、いわゆる「自主の原則」は、我が国における原子力の研究、開発、利用が自主的に進められるべく留意しているものであり、いわゆる「公開の原則」は、平和利用に限られるべき原子力の研究、開発及び利用の推進が、右以外の方向に向けられることを、原子力の研究等に関する成果の公開によつて抑制しようとするものである。換言すれば、いわゆる原子力三原則は原子力の平和利用を担保しようとする原則であるから、この三原則が、原子力の平和利用方法である発電用原子炉の設置許可処分手続を直接規制するものと解することはできない。
したがつて、右と異なる見地に立ち、基本法二条に基づき、原子炉設置許可手続においては、原告ら周辺住民に対し、原子炉の安全性に関わる資料を事前にすべて公開すべきこと、原告ら周辺住民に原子炉設置許可手続に参加し得る機会を確保し、かつ、究極的には周辺の全住民の同意を得ること、設置許否の判断は、原子力委員会又は安全審査会の自らの調査、研究あるいは検証に基づく資料等を基礎としてなすべきこと等が原子力委員会に義務づけられているのに、原子力委員会はこれを怠たり違法な手続に基づいて本件原子炉設置許可処分をなした旨の原告らの主張は理由がない。
三基本法及び規制法の憲法違反の主張について
原告らは、国民の権利を制限し、又は国民に義務を課する法規は国会によつて制定された法律であることが必要であるところ、原子炉はその事故発生の際はもちろんのこと、平常運転時においても多量の放射性物質を周辺環境に放出し、周辺住民の生命、身体、財産等に甚大な損害を与え、もつて国民の権利を侵害するものであるにもかかわらず、原子炉設置許可の要件を定める規制法二四条一項、特にその四号は白地規定に等しいものであり、更に、告示、安全設計審査指針、原子炉立地審査指針、気象手引等の原子炉設置許可処分に際し、審査の基準となるものはいずれもその法的根拠を欠くものであり、したがつて、右規制法等は憲法三一条、四一条、七三条一号に違反する。このような違憲の法規に基づいてなされた本件許可処分は無効である。また、原子炉は事故時はもちろん平常運転時においても、その放出する放射性物質によつて原告らの生命、身体、財産等を損傷し、刑事手続における基本的人権の侵害とは比較にならないほどの大量、深刻に基本的人権を否定するものであるから、その設置許可手続については憲法三一条に従い、適正手続を保障し①処分庁が当該根拠法自体においてはもちろん、他の法規との関係でも公正であること②原子炉設置予定場所周辺住民の同意を得ること③公聴会の開催④周辺住民に対する告知、聴聞の機会の設定⑤周辺住民に対し安全審査に関する全資料を公開することが要求されていると考えなければならないのに、基本法及び規制法のどこにもこのような事項が規定されていないから、基本法及び規制法は憲法の要求する適正手続条項に違反する旨主張する。
しかしながら、第一に、第三者に危害を及ぼす危険性のある施設等の設置、製造を許可するに当たつて、法律又はその委任する命令に明確な基準を設け、その基準適合性を少数の、しかも必ずしも高度の専門家とはいえないものに判断させる方法をとるか、右のような基準を設けることなく、多数の高度の専門家の判断に委ねる方法をとるかは、当該施設等に基準を定立できるだけの定型性があるか否か、基準を定立することと多数の専門家の判断に委ねるのとでは、いずれが安全性確保の見地から妥当であるか等を総合的に考慮したうえで、立法機関が判断すべき事柄である。したがつて、原子炉設置許可における安全審査のために規制法二四条一項四号掲記のように抽象的な基準が定められているに過ぎなくても、原子炉の安全性審査に右後記の方法をとつた立法機関の判断に特に不合理性の認められない本件では、本件許可処分の根拠となつた右規定等をとらえて、それが憲法三一条、四一条に違反するものとはいえない。
第二に、第三者に危害を及ぼす危険性のある施設等の設置許可処分手続に、当該施設により被害を受けるかもしれない第三者を関与させるか否か、関与させるとしてどの程度の関与をなさしめるかは、当該行政処分の性質、当該施設の危険性の程度、第三者を手続に関与させることの必要性の程度等を総合的に考慮したうえで、これまた立法機関が判断すべき事柄である。そして、基本法、規制法が原子炉設置許可手続に周辺住民を関与させるべき規定を設けていなくても、右立法機関の判断に特に不合理性の認められない本件では、右規定がないことをもつて、右各法規が憲法三一条に違反するとはいえない。
第三に、告示所定の許容被ばく線量が危険なものとはみられないことは後記のとおりである。そして、告示は規則に、規則は規制法及び同法施行令にとそれぞれ根拠を置くものであり、規則は規制法のいわゆる執行命令としての性格を有するものとみられる(告示、規則、規制法施行令の各前文参照)から、告示が法的根拠のないものであるとはいえない。
第四に、安全設計審査指針、原子炉立地審査指針、気象手引は、いずれも法規範性をもたないものであることは、その各形式に照らし明らかであり、これらの指針、手引は、原子炉設置許可処分における安全審査に際し、その判断にできる限り安定性と確実性とを持たせようとするものであるに過ぎず、その法規範性の存在しないことは前記第一の原子炉の安全審査の方法に照らし、憲法三一条、四一条、三七条一号違反の問題の生ずる余地はない。
以上の次第で原告らの前記主張はいずれも理由がない。
四本件許可処分が規制法に違反するとの主張について
1原子炉設置許可手続の特殊性から一定の手続が必要である旨の主張について
原告らは、原子炉は極めて危険性が多く、原告らの基本的人権を侵害する可能性の多いものであるから、その設置許可処分をなすには、規制法に何らの明文がなくとも、憲法三一条及び基本法の趣旨に照らし①原子炉設置予定周辺住民の同意を得ること②当該原子炉の安全審査に関する全資料を公開すること③公聴会を開催すること④周辺住民に対する告知、聴聞の機会を設定すること⑤原子力委員会の自主性ある審査⑥他事考慮の排除が解釈上認められるのに、本件原子力発電所の設置許可手続においては、こうした手続が全くなされなかつた違法がある旨主張する。
しかし、規制法の解釈上原告ら主張の①ないし④の如き手続が原子炉設置許可処分手続上要求されているとみることはできないところである。また、原告は右⑤について、更に、請求の原因第二章の四の2掲記の如く主張するが、右主張がいずれも理由のないことは後記のとおりであり、右⑥については、更に、エネルギーの必要性の見地から安全審査をしているとして、請求の原因の右同項掲記のとおり主張する。しかし、原子炉の安全審査が適正になされる限り、原子炉設置許可処分をなす際に、エネルギー事情を考慮することは何ら差し支えなく、安全審査そのものがエネルギー事情を考慮してずさんになされたことを認めるに足る証拠はないから、原告らの右主張はいずれも理由がない。
なお、付言するに、行政処分をなす場合において、当該行政法規が行政処分をなす手続の全部又は一部を定めていない場合に、右手続の規定のない点においていかなる手続をとるかは、行政庁の裁量に委ねられているものと解される。そして、その行政庁である被告において、本件許可処分に当たり、公聴会等を開催する必要を認めなかつたと主張するのであるから、本件許可処分をなすに当たり、被告が原告ら主張の①ないし④の手続をとらなかつたことについては当事者間に争いがないが、本件原子炉設置許可処分手続には原告ら主張の違法性は存在しない(なお、原子炉の安全性については、本件訴訟記録上明らかなとおり、学界にも意見の対立があり、その結果、原子炉設置予定場所周辺住民の間でも、賛否の意見が鋭く対立することは十分予想されるところである。したがつて、原子炉を設置するに当たつては、その安全性に関する資料をできる限り公開し、公聴会を開催したうえ、憲法、地方自治法等の定めるところに従つて、住民の意見を集約することが望ましい。しかし、本件原子炉の設置に当たつては、公聴会の開催等がなされなかつたことについては当事者間に争いがなく、かつ、原告本人川口寛之、同井上常久、同佐伯森武、同矢野濱吉の各尋問の結果に照らすと、住民の意見を集約すべき機関が十分その機能を果たしていたかについて疑問なしとしない。しかしながら、このことは本件許可処分を違法ならしめる理由にはならない。)。したがつて、原告らの右主張は理由がない。
2本件原子力設置許可手続における個別的瑕疵について
(一) 請求の原因第二章の四の3の(一)の、被告から原子力委員会に対する諮問、原子力委員会における事務局からの説明聴取、原子力委員長から安全審査会宛に安全性の検討をなすべき旨の指示がなされたこと、同(二)のうち、安全審査会は原子力委員長よりの指示を受けて、第一〇一回審査会において、本件原子炉の安全性を審査するために第八六部会を設置し、その部会員を選任したこと、その後安全審査会は第一〇七回審査会において、本件安全審査報告書を了承し、原子力委員会に対する右報告書同旨の報告をすることを審議決定するまで約六か月の間に合計七回審査会を開いたこと、右安全審査会の第一〇六回会合(昭和四七年一〇月一一日開催)において、第八六部から中間報告を受け、第一〇七回会合(同年一一月一七日開催)において、第八六部会からの報告書を審査して了承したこと、審査会には、ほぼ毎回審査委員の代理が出席したこと、第一〇五回審査会では二名の審査委員の代理が出席し、これと会長を除く委員の出席者は一三名であつたこと、第八六部会選任に当たつた第一〇一回審査会における同出席委員は一四名であつたこと、恒見、松田両調査委員の追加指名が第一〇六回会合において了承されたこと、右同(三)のうち、昭和四七年五月一七日付第一回第八六部会における確認内容として施設関係の審査を担当するAグループ六名(高島、安藤、大崎、村主、三島、藤村)と環境関係の審査を担当するBグループ八名(高島、大崎、木村、左合、浜田、宮永、伊藤、福田)とに分かれて調査審議することとし、各委員の特定専門分野についての調査審議、分担を定めたうえ、その各担当委員による調査審議を適宜行うこととされた(なお、高島委員は部会長となつた関係で、大崎委員は耐震工学分野の担当委員となつた関係で、各A・B両グループに属することとされた。)こと、第一回第八六部会には部会員一二名中七名の出席を得たのみであるうえ、木村委員においてはその代理として山田某を出席させたこと、同部会は爾後の審査について先行炉の審査を参考として調査、審議を進めることを確認したこと、現地調査を除く第八六部会は、昭和四七年五月一七日の第一回第八六部会以降、同年一〇月末日の第七回第八六部会までの毎月一回(同年一〇月のみ二回)の会合が開かれたこと、第一四部会に欠席した木村委員は同部会のその後の全会合にも欠席しており、第二、第五及び第六回の各会合においては、山田某を代理として出席させたがこれを黙過されたこと、その余の委員でも、例えば大崎委員が計六回、藤村委員が計五回の欠席をしたこと、Aグループの第三回会合は村主委員、Bグループの第一、第四及び第六回会合はいずれも大崎委員の各々ただ一各の委員が出席して開かれたこと 各グループ会合のうち一応二名以上の出席が認められるのはAグループの第一回会合(ただし六名中二名欠席)、同第二回会合(同上)の二回と、Bグループの第二回会合(八名中四名欠席)、同第三回会合(同じく二名欠席)、同第五回会合(同上)の三回のみであつたこと、Bグループの一員である木村委員などは右グループ会合にもすべて欠席し、第三回及び第五回Bグループ会合には、代理として山田某を出席させ、これが黙過されたこと、第八六部会の議事録が存在しないことについてはいずれも当事者間に争いがない。
(二)(1) 原告らは、部会については、議事運営上の手続的規定が全く存しないため、部会の審査は恣意的審査がなされやすい状況を生ぜしめ、特に部会員をA・Bグループに分けたうえ、各グループ内の特定専門分野につき、担当委員による個別的審査を適宜行うという個別的分担審議の方法をとつたことは、合議制の長所を失なわせ、委員相互間による審査上の恣意や誤謬の発見、抑制を不充分にさせ、審査をずさんに流れさせる原因を生ぜしめた旨、また、先行炉の審査を参考として調査審議を進めることは、本件原子炉の審査を手抜きにし、形骸化させた旨主張するが、右各主張事実を認めるに足る証拠はなく、却つて、原本の存在並びに<証拠>を総合すれば、部会員間には適宜接触があり、更にA及びBグループの各会合を開いて関連事項を審査、検討し、部会によつて関連事項を審査したこと、先行炉の審査は参考にされたが、その審査後に明らかになつた事項について検討がなされるなど、先行炉の審査結果をそのまま流用したものではないことが認められる。
(2) 次に、部会員の代理が許されていないことは、後記審査委員の代理の場合と同様に考えられるが(なお、原子力委員会専門部会運営規程参照)、<証拠>によれば、最終報告書の決定の際には、部会員の代理出席者はいなかつたことが認められ右認定に反する証拠はないから、本件部会の最終決議には、部会員の代理が参加した違法はない。なお、右決議に至る過程において、部会員の代理が出席したとしても、原子力委員会専門部会運営規程八条の趣旨及び証人児玉勝臣の証言によれば他の部会員から何ら異議は出なかつたものと認められ、右認定に反する証拠はないことに照らし、右代理出席があつたことが右部会の最終決議を違法ならしめるものとは即断し難い。
(3) なお、A・B各グループは部会の調査を効率的に行うための手段として作られたもので、決議機関としての性質をもつものではないから、そのグループ会合における出欠席者の多寡は、その調査審議の手続的違法を構成するものとは必ずしもいえず、これが直ちに調査審議のずさんさを示すものともみられない。これに対し、部会は決議機関としての性格を保持するものの(原子力委員会専門部会運営規程四条参照)、その主たる目的は、やはり専門事項を調査審議することであり(設置法施行令三条一項参照)、その出欠席者の多寡は、議事を開き決議をなす場合を除いては、その手続の違法性の問題とはならないものというべきである(原子力委員会専門部会運営規程参照)。
しかして、<証拠>によれば、部会において、議事を開き、議決をした場合においては、前記運営規程所定の定足数が確保されていることが認められ、右認定に反する証拠はない。
そうすると、前示部会出席者数の点から本件審査手続の瑕疵をいう原告らの主張は理由がない。
(4) 前示、第八六部会にA・Bグループが作られた理由から考えて、AグループがECCS検討会と合同して審査会を開いたことは何ら違法不当とはいえないものであり、原子力委員会専門部会運営規程八条の趣旨及び前示垣見、松田両調査委員の後記委嘱行為の効力から考えて、Bグループの第六回会合に、当時まだ正式に調査委員に委嘱されていなかつた垣見、松田両名が参加していたことをもつて、右グループ会合が違法であるということもできない。
なお、垣見調査委員が担当した中央構造線の問題の審査の点については、その調査に重大な違法が存したとの原告らの主張は理由がないものであることは後記(第四の三の2の(二)の(7))のとおりである。
(5) 第八六部会の議事録が存在しないことをもつて、第八六部会の手続に違法があつたということはできない。けだし、原子力委員会議事運営規則六条が安全審査会の会合に類推される根拠として、安全審査会運営規程一条があるのに対し、原子力委員会専門部会運営規程には同旨の規定が存在しない。このことは、その反対解釈として部会については議事録の作成を不要とする趣旨とみられるからである。
(三)(1) 次に、審査委員の代理出席の点について検討するに、証人児玉の証言によれば、代理出席のなされた審査委員は、官公庁の職員であり、代理出席をした者はその部下職員であつて、従来からこのような代理出席は許される慣行となつていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。しかしながら、設置法及び原子炉安全専門審査会運営規程(以下安全審査会運営規程という)には、いずれも審査委員の代理を認める趣旨の規定はないこと、原子炉の安全性という高度に専門的な事項の審査には、審査委員の学識経験が重要な要素をなしているものであつて(このことは、審査委員の任命資格の根拠が関係行政機関の職員である場合でも、安全審査に政策的要素を加味すべきでないことから考えれば、別異に解すべき理由はない。)、行政庁内の地位の上下関係をもつて代替することができるとすることの合理性はないことに鑑みると、右代理出席は法の許容するものとはみられない。
しかしながら、審査委員の代理出席等があつたことから、直ちに当該審査会の決議が違法となるものといえない。すなわち、前記第八六部会を選任した第一〇一回審査会、第八六部会の報告書を了承し、かつ、原子力委員会への報告を決定した第一〇七回審査会に、いずれも審査委員の代理が出席したことは、前記のとおりであるが、いずれも原本の存在並びに<証拠>に照らすと、右各審査会は、代理出席者を除いても、いずれも法定の定足数を割ることなく(安全審査会長も審査委員としての資格を有することは、設置法一四条の四により明らかであり、したがつて当然定足数中に含まれると解される。)、かつ、前記各決議をなすについて、異議、反対者はいなかつたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はないから、代理出席者が右決議に参加したことが、右決議の結果に影響を与えたとは認め難く、ひいては右各決議が違法となるものではない。なお、右認定の審査会を除くその余の定足数割れ又は代理出席者の参加の下になされた審査会の会合は、後記認定事実によれば、いずれも、審査経過の報告等がなされたに過ぎず、これが第一〇七回審査会の決議の結果に影響を与えたものとは認め難い。
(2) 原告らは、審査会における審査手続は極めて形式的になされ、本件安全審査は第八六部会委員によつてなされたに等しい旨、また、審査会から同部会への格別な指示等はなされず、すべて部会任せの審査がなされた旨主張する。なる程、いずれも原本の存在並びに<証拠>によれば、第一〇六、一〇七回審査会においては比較的短時間のうちに多数の案件が処理されていることは認められるが、このことから右各審査会の審議が形式的になされ、本件原子炉の安全審査は第八六部会委員によつてなされたに等しいとは認め難いのみならず、却つて右同証拠によれば、右各審査会における審議は、安全審査委員によつて必要と認められる審査がなされたことが推認され、また、<証拠>によれば、第八六部会から第一〇三回、第一〇五回等の各審査会に対して、適宜審査経過の報告がなされたことが認められる。
(3) 証人児玉の証言によれば、垣見、松田両調査委員の委嘱について、審査会に図つた趣旨は、右両名を委嘱するために、安全審査会運営規程八条による審査会の諮問が必要であつたためであること、右両名の調査委員委嘱辞令は、右両名が事実上調査委員として執務する以前の昭和四七年八月に準備されていたが、事実上のミスで決済が遅れたこと、そして、同年九月一八日頃委嘱手続がとられたことがいずれも認められ、右認定に反する証拠はない。そうだとすると、垣見、松田両名を調査委員に委嘱するに当たり、審査会の諮問を得ることは、両名の委嘱行為の重要な部会を構成するものでなく、したがつて、右諮問がなされる前に右両名がなした行為は、瑕疵あるものとはみられないのみならず、右両名の追加指名を了承することが審査会において決定された以上、右両名の委嘱については何等違法はないものというべきである。
(4) 原告らは、本件原子炉の立地条件審査上、早期に最も重点的かつ、慎重に、取り組まねばならなかつた地盤、地震関係分野の審査手続については、当初これを専任担当すべく選任された木村耕三審査委員が、全く審査に関与しなかつたため、ようやく部会審査終了の一か月前に、垣見、松田両委員をその公正に多大の疑義ある選任手続の下に追加指名したところ、その後はなんらの現地調査もなされず、右両名のうち、垣見委員のみが二回の部会審査に参加したのみで、わずか一か月後に部会報告がまとめられ、最終決定をしたものであつて、右手続的瑕疵は極めて重大である。しかも、木村委員に、選任当初から部会審査活動をなし得ない特段の事情が存したというのであれば、第一〇一回審査会における委員選任手続上の不注意として責められるべきものであり、他方、かかる不都合が判明した段階において、直ちに同委員を解任した上、新らたな審査委員ないしは調査委員を早期に選定すべきであり、また、垣見、松田両調査委員についても、審査会において正式に選任手続をした上で、慎重、かつ、責任ある現地調査を実施せしめ、部会審査の適正を期すべきである。しかるにこれをしないで前記主張の如く恣意的な手続を進めたのは、審査会ひいては原子力委員会自体が本件原子炉設置許可基準適合性の意見答申をなすべきことに強い先入観をもち、答申を急いだことによるものである旨主張する。
確かに、前記木村耕三委員の審査会、部会への出席状況、垣見、松田両名を調査委員に選任した時期、その選任手続等を総合すると、原告ら主張の如く審査会において答申を急いだ点がうかがえなくもないが、このことが安全審査会ひいては原子力委員会が本件原子炉の設置許可基準適合性の意見答申をなすことについて強い先入観を持つていたことによるものであるとは即断できず、他に右主張事実を認めるに足る的確な証拠はない。
(5) 証人内田の証言によれば、本件原子炉の安全審査の段階では、美浜一号炉の蒸気発生器細管の漏洩の原因はまだ十分判明していなかつたこと、しかしながら細管の構造上、蒸気泡の発生離脱が適切でないということと、水処理の問題が適正でないということの二つが主な原因であることの判断はなされていたこと、そして、本件安全審査においては、右二つの原因を考慮して審査がなされたこと、審査会としては、美浜一号炉の蒸気発生器細管の欠陥の問題は大きな原子炉事故に結びつくものではないと判断したこと、基本設計を審査する安全審査会としては右の判断で足りると考え、将来の建設までの段階に十分に調査して慎重を期すべきことを工事計画等の認可をする通産省に申し送つたことがいずれも認められる。
一方、当事者間に争いのない美浜一号炉における蒸気発生器細管事故の発生の事実及び<証拠>により、第八六部会が一次冷却系統について審議したのは、美浜一号炉の事故発生後一三日目であることが推認されること、なお、本訴における文書提出命令の結果によれば、参考資料、報告資料中には美浜一号炉の事故についての資料が存在しなかつたことは当裁判所に職務上明らかなところであるが、以上をもつても前示認定を左右するに足らず、他に前示認定を左右するに足る証拠はない。
しかして、美浜一号炉で発生したのと同種の蒸気発生器細管事故により、原子力発電所周辺住民に未だかつて被害を及ぼしたことのないことについては、当事者間に争いがない。したがつて、本件原子炉の基本設計を審査すべき安全審査会において、美浜一号炉の蒸気発生器細管事故を、前記認定の程度にしか参考としなかつたことをもつて、原告ら主張の如くそれが違法であるとはいえない。
(6) 本件原子炉用淡水を保内町から取水するということで本件許可申請がなされ、本件安全審査においてもこの点について相当とする判断がなされたこと、その後右計画は変更され、保内町からの取水は取り止めになつたことは、いずれも当事者間に争いがない。
したがつて、仮に右保内町からの取水を認めた点に手続的瑕疵があつたとしても右瑕疵は治癒したものとみられる。
(7) <証拠>によれば、審査会の議事録には議事の概要が記載されているのみで、具体的な審査の状況、経過は記載されていないことが認められ、右認定に反する証拠はない。
しかしながら、右議事録作成について類推される原子力委員会議事運営規則六条一項にも、議事経過を摘録して作成すべきことが規定されているにすぎないから、右審査会議事録は、原告らの主張するが如き違法又は不当なものとはみられない。
(四) 原子力委員会の事務局でもある科学技術庁原子力局が原告ら地元住民の原子炉設置反対意見を聴取し、更に、その主張する用地問題、漁業問題、関係地方公共団体の決議の当否についての事情調査をしなかつたことについては当事者間に争いがないが、原子力委員会事務局には、原告ら地元住民の原子炉設置反対意見を聴取すべき義務及び原告らのいう不当性があるとの問題について、これを調査し、原子力委員会に報告しなければならない義務はいずれも存在しないから、原子力委員会事務局において、右所為に及ばなかつたことは、何ら本件許可処分手続の違法事由にはならない。
また、原子力委員会事務局が、原子力委員会に対し、本件原子炉設置反対運動等についての一般的事情に関する一面的な報告をし、同委員会の判断に、不当な影響を与えた旨の原告らの主張事実は、これを認めるに足る証拠がない。
(五) 昭和四七年二月、被告において電源開発調整審議会の議を経て、伊方原子力発電所一号機の建設を電源開発基本計画に組み入れることを決定済であること、第八六部会の調査審議は、昭和四七年五月一日の第一〇一回審査会の決定に基づくとして、すべて通産省技術顧問会と合同で実施され、右合同審査がなされなかつたのは、同年九月二九日の会合だけであつたこと、第八六部会委員中、審査委員九名全員が右顧問会委員を兼任していること、原子力委員会及び安全審査会が、独自の事務局を持たず、原子力行政の実施担当機関である科学技術庁原子力局がすべてその事務を統轄していることについてはいずれも当事者間に争いがない。
(1) 原告らは、電源すなわち原子力発電所を含めた発電所の設置を促進することを図る電源開発促進法に基づき、電源開発調整審議会の長となつて、伊方原子力発電所を設置するとの計画を承認した被告が、その計画に基づいて申請された本件許可申請の処分庁として、否と答えるはずがない。このことは、規制法二四条二項において、被告が原子炉の設置許可をする場合に、原子力委員会の意見を聞き、これを尊重しなければならないと規定していても、原子力委員会も被告機関であるから変わるものではない。電源開発促進法により原子力発電所の設置を促進する立場にある被告が、規制法により原子炉の設置許可を与える行政庁となつていることは誰が考えても不公正、不合理である旨主張する。
しかしながら、法律制度上、発電用原子炉を設置するには、水力、火力発電所と同様、まず電源開発促進法に基づいて、内閣総理大臣の策定する電源開発基本計画に組み入れることが必要とされている。この電源開発基本計画は、内閣総理大臣が、国土の総合的な開発、利用及び保全、電力の需給その他電源開発の円滑な実施を図るという広い観点から自然及び社会的諸条件を総合的に考慮して立案し、決定されることになつている(電源開発促進法三条一項参照)。
そして、発電所の設置は右の基本計画に組み入れられても、更に、これとは異なる観点からの、各種の関係法令に基づく審査を経なければ、具体的な設置は許されない。発電所原子炉についていえば、原子炉施設としては、規制法に基づく規制を受け、他方、発電施設としては電気事業法による規制を受ける。しかも、電源開発基本計画の策定と個々の原子炉の具体的な設置許可とは、それぞれ全く異なる目的と、異なる法令上の根拠、要件とをもち、それぞれ別個の観点から決定されるものである。
更に、被告に対し意見を答申する原子力委員会の委員の任免及びその服務については、厳格な規制がなされており(設置法八条ないし一〇条、一三条、一四条)、また、安全審査委員、部会員の資格も法定されている。したがつて、被告が、電源開発調整審議会の長となつて、本件原子力発電所の設置計画を承認したことと、規制法二四条二項に基づいて本件原子炉の設置許可をしたことは、必ずしも不公正、不合理であるとはみられず、問題は原子炉の安全性を確保できるか否かの審査が、真に公正になされたか否かということのみにかかる。原告らの前記主張は理由がないというほかはない。
なお、右に関連して、原告らは、原子力委員会は、単に原子炉設置許可処分について権威づけのためのだけの存在に過ぎず、安全審査会も、第八六部会の委員も、すべて原子炉の安全性の審査を片手間にしているもので、実質は科学技術庁の役人が主導権をもつた官僚による審査である旨主張するけれども、右主張事実を認めるに足る証拠はない。
(2) 次に、原告らは、安全審査会委員には、内閣総理大臣と立場を同じくする通産省の技術顧問会委員との兼任者が多数を占め、また第八六部会が、右顧問会と合同審査をしたことは、審査会、第八六部会の中立性、独立性を失わしめるものであつて、かかる合同審査を許容する法的根拠及び合理性は皆無であり、かつ、第一〇一回審査会において、右合同審査をするについての決議はなされていないし、また、かかる決議自体が違法である旨主張する。
しかしながら、証人内田の証言及び弁論の全趣旨によれば次の事実を認めることができる。すなわち、通産大臣は、原子力発電に係る電気工作物の変更許可をなすに当たり、その設備の安全性について、必要に応じ、右顧問会の意見を聴いて審査する。内閣総理大臣は規制法に基づき、通産大臣は電気事業法に基づき、それぞれ、発電用原子炉に関する各々の行政事務を行う。この場合、内閣総理大臣は原子炉の「規制」のみを行い、通産大臣はその開発の「促進」のみを行つているというように、両者の立場に全く共通するところがないということではなく、通産大臣の審査事項のうち、発電用原子炉の設備の安全性に係るものは、原子炉の安全性と密接不可分のものであるから(例えば、発電用原子力設備に関する技術基準参照)、本来、両者の判断が区々になることは考えられない。したがつて、安全審査会又は第八六部会と通産省技術顧問会とが、合同審査を行い、又は委員の兼任を認めることは、むしろ審査を効率的ならしめるのであり、しかも両者の判断が不当に影響し合うというようなことはない。以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。したがつて、前記委員の兼任又は合同審査が安全審査の主体性、独立性を損なう違法なものとは認められない。
なお、証人児玉の証言によれば、第八六部会と通産省技術顧問会とが合同審査をすることについては、従来から暗黙の了解があつたことが認められるので、<証拠>には、右合同審査をなすことについて、決議がなされた旨の記載はないが、このことは本件審査手続を違法ならしめる瑕疵とはならない。
(3) 原告らは、更に、原子力委員会及び安全審査会が独自の事務局を持たず、原子力行政の実施担当機関である科学技術庁原子力局がすべてその事務を統轄しているため、審査の全過程において、事実上、同庁行政官僚の強い影響を受ける体制となつている。特に、科学技術庁が一貫して原子炉設置推進の考え方を有してきたこと、及び科学技術庁長官が原子力委員長でもある事情とあいまつて、同庁が原子力委員に対しても、事実上の強い影響力を与え続けてきたことが看取される。こうした欠陥ある体制の下でなされた本件安全審査は、主体性、独立性(ないし中立性)を喪失しているものとみられる旨主張する。
しかしながら、事務局の独自性のないことから、原子力委員会ないしは安全審査会、部会が他機関等から不当な影響を受けたと即断はできない。もちろん、このことは基本法二条所定の自主の原則とも直接関係しない。更に、現在の法律制度上においては、例えば原子力委員会及び安全審査会がすべての原子力の積極的利用に賛意を有する者から構成されていても、そのことが原子炉設置許可手続の不公正につながるということもできない。けだし、原子炉設置許可という制度自体、原子力の利用を前提とするものであるからである。要は、前記のとおり正当な判断が担保される手続がとられているかどうかの問題である。
したがつて、原告らの右各主張も理由がない。
(六) その他請求の原因第二章の四の3掲記の如く原告らは本件許可処分に違法、不当ありとして種々の主張をするけれども、これらの主張は、いずれも本件許可処分手続の違法事由に当たらないものである。また、原告らの前記(一)ないし(四)の主張事実及び右の原告らのその余の主張事実が仮に存在するとし、かつ、これらの事実を総合しても、原子力委員会、安全審査会及び第八六部会において、基本法二条に反してその自主性を失い、本件原子炉を設置することを当然のことと前提し、形式的な審査をなしたものと認めることはできないし、また、前記原告ら主張事実が設置法に違反しているとみることもできない。したがつて、本件設置許可手続が、基本法二条、設置法に違反し、規制法二四条二項の原子力委員会の意見答申が、適法に行われなかつた旨の原告らの主張は理由がない。
五手続的実質審理上の違法――安全評価過程における適正手続保障義務違反の主張について
(一) 原告らは、規制法一条の目的規定と、これに応じた必要な規制を具体的に実現すべき権限が、設置法二条、五条により、原子力委員会に与えられていることに照らし、原子力委員会は、原子炉による重大な災害の危険から国民の基本的人権を護るために、原子炉設置許可手続においては、右設置法で与えられた権限を積極的に行使し、公正かつ適正な安全審査を尽くすべき義務があるとし、右義務の具体的内容として請求の原因第二章の五の1の(一)掲記のとおり主張する。
(二) よつて按ずるに、まず、原子炉の安全性の問題は、すべて原子炉設置許可処分の際に判断されるものではなく、細部にわたる具体的ないし実際上の技術的事項については、後続する原子炉施設に関する設計及び工事の方法についての認可(規制法二七条、電気事業法四一条)、原子炉施設の工事及び性能についての使用前検査(規制法二八条、電気事業法四三条)等の一連の規制手段があり、原子炉設置許可処分における安全性に関する審査は当該原子炉の基本的設計方針ないしは基本計画において、十分安全性が確保されるものかどうかを確認すれば足りると解される。
そして、原子炉の実際の面における安全性の確保は、直接原子炉を設置、運転する原子炉設置者が、第一次的にその責を果すべきものであるから、審査会の安全審査は、申請者の提出する資料に基づいて、当該原子炉の安全性確保のための申請者の設計及び考え方につき、それらが適切であるか否かを確認するという形のものになる。したがつて、原子炉の安全審査において、原子力委員会又は審査会自らが資料を収集し、調査研究した上で、その安全性を確認しなければならないものではない。
(三) 安全審査は、右のような形で行われるのであるから、当然それは原子力発電等に関する既存の知識、知見を基本として行われる。なお、証人児玉の証言によれば、申請者が過去の技術でとらえられない全く新しい技術に基づく原子炉について申請した場合には、通常、その技術の安全性がほかの場において確認ないし実証されない限り、審査会が申請者の提出する資料のみに基づいてその安全性に対する結論を示すことはないことが認められ、右認定に反する証拠はない。そうだとすると、審査会は原子炉の技術に関して自らが研究ないし実験をする必要はなく、また、設置法の解釈上も審査会にそのような任務は与えられていないものとみられる。
(四) なお、我が国において設置されるほとんどの原子炉が、燃料として濃縮ウランを使用し、冷却材及び減速材として軽水を使用する、いわゆる「アメリカ型」といわれるものであること、その結果、その安全性を判断する資料・データの多くをアメリカに求めることはやむを得ないことについては、当事者間に争いがない。しかし、アメリカの資料・データに基づいて安全審査がなされていることの一事によつて、安全審査の自主性を損なつたり、形骸化をもたらしたりしているとは即断できないところであり、審査会の各委員が自らの意見と判断に基づかず、アメリカの資料を鵜呑みにして安全審査をしていることを認めるに足る証拠はない。のみならず、証人内田、同村主、同三島の各証言によれば、我が国の安全審査はアメリカの資料・データのみに依存しているわけではなく、同国以外の外国及び我が国自身における経験や研究成果等も活用されていること、アメリカのものを含め、これらの資料・データについて、各委員が自らの専門的な知識経験に基づき、これを評価するばかりではなく、必要に応じてその解析のやり直しを行うなどしていることが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。したがつて、アメリカの資料・データを安全審査に活用していても、その判断の自主性は確保されているものということができる。
(五) 安全審査に当たり、原子炉設置に反対する原告ら地元住民や、右設置に批判的な技術者、研究者等の反対意見を十分調査は握し、これを採用せぬ場合には科学的、合理的理由と実験的根拠を明示すべきである旨の原告らの主張にはその法的根拠がない。なお、請求の原因第二章の五の2掲記の保内町からの取水、事務局からの事情聴取、電源開発基本計画の先行が、本件安全審査手続の瑕疵となるものでないことは前記のとおりである。
その他本件安全審査において恣意的評価がなされ、また過誤があつた旨の主張事実を認めるに足る証拠はない。
(六) 以上により、原子力委員会は本件安全審査において、規制法一条、設置法二条、五条に違反し、その結果、本件安全評価過程には実質審査上の瑕疵がある旨の原告らの主張は理由がない。
六本件許可処分が裁量行為である旨の主張について
原子炉の安全審査については、高度の専門的知識を必要とすること、他方、原子炉に事故が発生した場合には周辺住民の生命、身体等が損傷されることから、原子炉設置許可処分が、周辺住民との関係で、被告の裁量処分であるか否かが問題となる。
よつて按ずるに、原子炉の事故等から周辺住民の安全を確保するために、その安全保護施設のすべてについて、完全ともいうべき実験、実証を経たうえ、危険が全く存在しないとみられるに至つた段階で、はじめて原子炉の建設を認めるべきだとする見解は、後記原子炉の最悪の事故発生の際における被害の甚大性に鑑み、望ましい方法ではあるが、規制法二三条、二四条、設置法二条五号、一四条の二以下の規定によれば、右各法規所定の手続によつて、規制法二四条一項の要件が充たされるとの判断が得られたならば、原子炉の設置を許可する趣旨であることは明らかであり、なお、右各法条、更に規制法二七条以下の諸規定の趣旨と、弁論の全趣旨を併せ考えるならば、原子炉の安全保護施設の効力について、現在の科学的見地から相当と認められる程度の実験、実証を経て、周辺住民等に被害を及ぼすことはないとの結論を得た段階で、原子炉の設置を許し、ただ、その建設、運転について厳重な規制を加え、異常な状態が発見された場合には、直ちにその運転停止等所要の措置を講ずるという方法が許されているものと解される。
原告らは、原子炉のような危険性の大きい、かつ未知の部分の多い技術については、右後者の如き方法をとることは、原告ら周辺住民の生命、身体等を侵害する蓋然性が極めて高いから許されない旨主張し、証人藤本、同佐藤進、同星野芳郎も右主張に添う証言をするけれども、証人内田、同村主の各証言及び弁論の全趣旨によれば、現在の原子炉はその安全性が十分確保されているとする専門学者、技術者も多数存在することが認められるから、右原告らの主張に添う証拠は直ちに採用できない。なお、右原告らの主張は設置法、規制法の解釈と相容れないものであるとは明らかであり、したがつて、当裁判所のとり得ないところである。これを要するに、規制法二四条は、原子炉設置許可処分は、周辺住民との関係においても、その安全性の判断に特に高度の科学的、専門的知識を要するとの観点及び被告の高度の政策的判断に密接に関連するところから、これを被告の裁量処分とするとともに、慎重な専門的、技術的審査によって、一定の基準に適合していると認めるときでなければ、その設置許可をすることができないとして、被告の裁量権の行使に制約を加えているものと解すべきである。
なお、付言するに、以上のことは、当然に右許可処分の違法を主張する者が、当該原子炉の危険性、換言すれば、その安全に関する判断の不相当性を立証すべきであるとの結論を導くものではない。けだし、被告は当該原子炉の安全審査資料をすべて保持しており、かつ、安全審査に関わつた多数の専門家を擁しているが、右許可処分の違法性を主張する原告らは、安全審査資料のすべてを入手できることの保証はなく、また、その専門的知識においても、被告側に比べてはるかに劣る場合が普通である。
したがつて、公平の見地から、当該原子炉が安全であると判断したことに相当性のあることは、原則として、被告の立証すべき事項であると考える。
第三 平常時被ばくの危険性について
一許容被ばく線量の危険性について
(一) 放射線が与える障害と放射線量との関係について、昭和三五年(一九六〇年)ころまでは「一〇〇レムを超えると人体に影響を及ぼす」と考えるのが通説であつたこと、昭和三〇年(一九五〇年)代にマウスを用いた実験により、数十ラドから数百ラド程度までの放射線量と遺伝的効果との間に、また、昭和三六年(一九六一年)にシヨウジヨウバエを用いた実験により、五ラドから数千ラド程度までの放射線量と遺伝的効果との間に、いずれもほぼ直線関係が成立するとの報告がなされたこと、また、ムラサキツユクサのおしべの毛に対する二五〇ミリラドのエツクス線や一〇ミリラドの中性子線の人口照射によつて、その体細胞における突然変異が有意に増加するという報告が公表されていることについては、いずれも当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すれば、(1)放射線が体細胞(生殖細胞又はその原基細胞以外の細胞)に与える障害に起因する身体的障害には、放射線被ばく後短時間で現われる急性障害と、数か月ないし数十年を経過して現われる晩発生障害とがあること、人類を含む哺乳動物で見られる急性障害には、(ア)けいれん、運動失調等の神経系の障害、(イ)骨髄の新生能力喪失、白血球減少等の造血系の障害、(ウ)食欲不振、消化不良、下痢、腸内出血等の消化器系の障害、(エ)脱毛、紅紫班、皮膚剥離、水疱、皮膚炎、色素沈着等の皮膚の障害、(オ)結膜や鼻腔粘膜等の粘膜の炎症、(カ)血管内膜損傷並びに出血、(キ)放射線肺炎、(ク)精子減少、排卵異常、流産等の生殖器障害等があること、晩発生障害としては、(ア)慢性白血球減少症、(イ)白血病、(ウ)さまざまな悪性ガン、(エ)白内障、(オ)寿命短縮等があること(急性障害として、下痢、白血球減少、脱毛、水疱等を生じ、多量に被ばくしたときには死亡に至ること、晩発性障害として、白血病その他のガン、白内障等があることについては当事者間に争いがない。)、遺伝的障害としては、(ア)胎内致死(死産)、(イ)幼児期致死、(ウ)異常形態(いわゆる奇形)、(エ)機能障害、(オ)不妊、(カ)精神病、(キ)生命や健康維持に直接関係しない形態、色、数量等の変化をもたらす突然変異等があること、(2)ムラサキツユクサのおしべの毛を実験材料に用いると、個々の細胞に与えられた放射線の影響を、それぞれの細胞家系(一連の子孫細胞)において、直接的にしかも隠されることなく検出でき、また、障害の発生時期も知ることができるが、特に花色(おしべの毛色も同じ)について遺伝子型がヘテロ(青/ピンク、青が優性形質)のものを用いると、その優性遺伝子の突然異変の生起が、通常は青色であるおしべの毛細胞の間に現われるピンク色細胞によつて、容易かつ確実に検出され、突然変異の誘発時期も知り得るし、しかも膨大な数の標本について調査することが容易であるから、この実験材料から得られる突然変異率の知見は精度の高いもので、精度の高さは、多数の標本を取り扱うことが困難であつたり、他細胞によつて突然変異の大部分が隠されたり、調査に長時間を要し、そのため他の要因の影響を受けやすい他の実験動植物の場合とは、比肩できない程のものであり、ちなみに、一個の突然変異の結果を検出するのに、数年ないし数十年を要する人類や、同じく数か月ないし数年を要するマウス等に比べて、ムラサキツユクサの場合は、一〇日ないし一四日位で検出でき、しかも人類や哺乳動物等では、突然変異の一部分しか検出されないのに対し、ムラサキツユクサでは漏れなく検出できるので、これらムラサキツユクサのおしべの毛の特徴は、この実験材料による微量放射線の影響の検出を可能にし、アメリカではスパロー博士らによつて、エツクス線、中性子線照射によつて前記のとおり突然変異の増加が検出され、線量と突然変異率との関係も正確に決定されたこと、我が国では市川定夫によつてガンマ線やその散乱放射線に関して、ほぼ0.7レム程度まで同様な結果が得られたこと、また、スパロー博士らは、昭和四二年(一九六七年)、ウイルス、バクテリヤ、カビ、藻類、シダ類、高等植物、両棲動物、鳥類、哺乳動物等の放射線感受性を、細胞レベル若しくは核酸レベルで比較した研究結果を発表し、その中で、ムラサキツユクサのおしべの毛細胞と哺乳動物の細胞の放射線感受性が類似していること、すなわち、人類、ハムスター、モルモツト等哺乳動物の細胞の生存率を三七パーセントに低下せしめる線量が一〇〇レムないし一八〇レムであるのに対し、ムラサキツユクサのおしべの毛細胞の同様な線量は一七〇レム(二倍性、同一染色体を一対ずつ有するもの)又は一九〇レムないし三〇〇レム(四倍性、同一染色体を二倍ずつ有するもの)であつて、二倍性ムラサキツユクサと哺乳動物とはほぼ同程度の放射線感受性、四倍性ムラサキツユクサでは哺乳動物と同程度若しくは若干抵抗性ですらあつたことを示したこと、遺伝子の可変性に関する比較も、スパロー博士らによつて昭和五一年(一九七六年)に行われたが、それによれば、特定遺伝子の自然突然変異率を一〇万個の細胞当たりの突然変異数で求めると、ハムスターの細胞では0.4ないし二六であり、一方ムラサキツユクサのおしべの毛細胞では3.7ないし二三(標準株)であつて、両者の遺伝子の可変性もほぼ同程度と結論されたことがいずれも認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
そして、原告らは①右ムラサキツユクサ等の実験結果に照らし、人類の場合にも放射線の被ばく線量が、これ以下では障害が起こらないという、いわゆる「しきい値」の存在は極めて否定的となる。②スタングラス博士により、アメリカのイリノイ州のドレスデン原子力発電所周辺地域で幼児死亡率が右原子力発電所からの放射性気体廃棄物の廃棄と平行関係を示すという結果が報告された。③昭和三〇年代(一九五〇年代後半)、イギリスのスチユワート博士らが妊娠中に下腹部若しくは骨盤部に診断用照射を受けた母親から出生した幼児が、対照群に比して高い白血病死亡率を示すと報告し、続いてアメリカのフオード博士も同様な調査結果を発表した。④更に、アメリカのヤクホン博士は昭和三七年(一九六二年)にアメリカの北東部の大きな病院における計約七〇万組の母子(うち約七万組が医療用放射線を妊娠中の下腹部に数レム以内の被ばくをした。)についての記録を統計的に調査した結果、被ばくと白血病発生率とに関連性がある旨発表した。⑤広島、長崎に投下された原子爆弾による晩発性障害についても、昭和四六年(一九七一年)までに低線量被ばくの影響に関する新しい知見が得られた。すなわち、石丸博士らの調査によれば、被爆者における白血病の発生率と推定被ばく線量との関係がほぼ直線的であり、両市の結果を合わせると、いわゆる「しきい値」が認め難いことを示した。⑥千葉県市原市で起こつたイリジウム被ばく事故では一〇ラドないし二五ラド程度の被ばく者に造血機能異常、染色体異常、精子減少症、皮膚炎等の障害が発生した。⑦以上の事実に照らせば、人類には「しきい値」は存在しないと考えねばならない旨主張し、証人市川も右主張に添う証言をする。なお、<証拠>は右主張に添うものである。
しかしながら、<証拠>によると、(1)前記動物実験の場合は、いずれも照射線量が自然放射線の量に比べて極めて高いものであり、また、植物実験の場合も、最も照射線量が少ないものでも、自然放射線の数倍程度の線量を極めて短時間に照射したものであること、なお、前記人類とムラサキツユクサとの放射線の感受性の同一性を示した実験も微量放射線に対する感受性ではなく、一〇〇レムを超える線量に対する感受性であること、そして、植物の細胞と人間の細胞とでは代謝条件や反応条件も異なり、遺伝機構の回復及び淘汰能力も異なること、したがつて、動植物での実験のデータをそのまま人間に適用することはできないこと、現在のところ、どの程度の放射線を被ばくした場合に人類に障害が発生する可能性があるかは必ずしも詳らかではなく、動物についての実験データを参考人として人の障害について推論がなされているのが一般であること、(2)スタングラス博士の報告については、データの取り方等に問題があり、必ずしも信頼できるものではないこと、(3)スチユワート博士、フオード博士、マクマホン博士の各調査報告は、いずれも胎児、乳幼児の放射線被ばくについてのものであるが、これらの被ばく者の放射線感受性は、成人の場合と同視できないし、更に、これらの被ばく者が受けた放射線量も正確には握したものとはみられないので、右各調査結果を直ちに微量放射線の被ばくの場合に適用できるとはいえないこと、(4)石丸博士らの原子爆弾被爆者の調査については、同一資料の解析の結果、広島においては二〇ラドないし五〇ラドの被ばく者において白血病が有意に上昇し、長崎では一〇〇ラド(ほとんどすべてガンマ線)にしきい値があるとする見解が同じ研究グループによつて発表されていること、しかるに原告ら主張の如き異なる解析の結果がでたことについての理由の説明がなされていないこと、(5)千葉県でのイリジウム事故は一点のイリジウム線源の至近場所で起居して、被ばくした事例であり、被ばく者の被ばく線量も平均全身線量を推定したものであるに過ぎないもので、特定の組織や臓器だけが多量の被ばくをした、いわゆる不均等照射であつた蓋然性の強い状況にあつたこと、したがつて、右事故において、被ばく線量と障害との関連に多大な意味をもたせることはできないことがいずれも認められる。したがつて、前記原告らの主張に添う証拠は直ちに採用できず、他に原告らの前記主張を肯認できる証拠はない。
(二) 人類の突然変異の倍加線量の推定値について、昭和三三年(一九五八年)の国連科学委員会報告では三〇レム、昭和三七年(一九六二年)の同報告では、一五レムとされていること、昭和三一年(一九五六年)のイギリス医学会議は一五レムないし二〇レムとしたことについては、いずれも当事者間に争いがない。
また、<証拠>によれば、ムラサキツユクサのおしべの毛の突然変異倍加線量は多くの場合数レム程度であり、最小の値はスパロー博士が得たほぼ一レムにすぎず、最高値でも十数レムであること、シヨウジヨウバエの精原細胞の場合の八レムという値があることが認められる。右認定に反する証拠はない。
原告らは、更に、広島、長崎における原子爆弾被爆者の白血病の発生に関する石丸博士らのデータに、数学的に最適な直線を求めると、ほぼ9.5レムの白血病倍加線量が計算され、ヘンペルマン博士の一九六八年の報告によれば、二〇ラド程度が甲状腺瘤の倍加線量とされている旨主張し、証人市川が右主張に添う証言をする。なお、<証拠>は右主張に添うものである。しかしながら、前記のとおり広島、長崎における原子爆弾被爆者の白血病発生については、同じ研究グループの解析の結果、広島では二〇ラドないし五〇ラド、長崎では一〇〇ラドにしきい値があるとする報告がなされていることに照らし、広島、長崎の原子爆弾被爆者の白血病の発生に関する倍加線量についての原告らの主張に添う証拠は、直ちに採用できない。また、<証拠>によれば、ヘンペルマン博士が報告した事例は、胸腺肥大症のエツクス線治療の際の散乱線によつて、甲状腺が二次的に被ばくしたものであり、その被ばく線量は右治療に際して実測されたものではなく、種々の仮定に基づく計算により、求めたものであることがうかがわれるから、ヘンペルマン博士の示す甲状腺瘤の倍加線量の正確性を直ちに認めることは困難である。その他原告らの右主張事実を認めるに足る証拠はない。
ところで、原告らは、右倍加線量の考え方に基づき、遺伝的障害や晩発性障害の発生が一〇レム前後の放射線被ばくにより倍加し、また、倍加線量以下でもその線量に応じた遺伝的障害や晩発性障害が発生するから、許容被ばく線量等は極めて危険である旨主張する。そして、<証拠>によれば、当事者間に争いのない昭和四五年(一九七〇年)にアメリカのゴフマン、タンプリン博士が発表したアメリカ国民の放射線被ばくによるガン死亡者数の推定及びアメリカ原子力委員会(AEC)から委託されたアメリカ科学アカデミー(NAS)の電離放射線の生物効果に関する諮問委員会(BEIR委員会)が、昭和四七年(一九七二年)一一月に発表した「低線量電離放射線被ばく集団に対する影響」と題する報告(BEIR報告)も、右原告らの考え方と同じ立場でなされたものであることが認められる。
しかしながら、倍加線量の考え方は、放射線障害の発生率が自然発生率に対して二倍になる放射線被ばく線量をもとにして、ある被ばく線量での障害の発生率を算定できるとするものであり、これが適用されるためには、右のある被ばく線量を含む線量域において線量と障害との発生率の関係が、直線性を示すことを前提とするものであることについては当事者間に争いがない。しかるところ、前示のとおり人類については、まだ「しきい値」の不存在が確認されていないから、ひいては低線量域においては、右の直線性の存在が確認されず、したがつて、人類について低線量域における放射線障害発生率を倍加線量の考え方によつて算出することは困難である。
そして、<証拠>によると、アメリカ原子力委員会は、右ゴフマン、タンプリン説はアメリカ国民の全部が年間〇一七レムの放射線の被ばくを受けるという仮定に立つばかりでなく、低線量の放射線の影響をも過大に評価しているとして、年間平均線量限度の引き下げは必要でないものとしていること、また、アメリカ放射線防護測定審議会(NCRP)も、BEIR報告のリスクの推定値は、実際のリスクより過大な値になつているものとして、年間平均線量限度の引き下げは必要でないとしていることが認められ、これに前記人類についての低線量被ばくによる障害の発生について線量と障害発生の関係とが明らかでないことを考えるならば、右ゴフマン、タンプリン説、BEIR報告のとつた立場が、いずれも実際の放射線障害発生を推定したものであるとの前提に立ち、更に、これと同じ見地に立つ倍加線量の考え方から、後記のICRPの勧告値や、我が国の許容被ばく線量が極めて危険なものであるとする原告らの主張は採用しがたい。
しかしながら、人類について低線量、微量線量等における放射線被ばくによる影響が判明せず、しかも、動植物において低線量、微量線量域における放射線被ばくの影響が判明している以上、人類の安全のためには「しきい値」が存在しないとし、倍加線量の考え方に立つて、できる限り放射線による被ばくを防止し、もつて放射線による障害からの防護を図るのが望ましいことであり、<証拠>により認められるICRPの勧告もその趣旨に基づくものであるが、立法又は行政機関において、電力の供給その他の公共の必要があることから、その危険性の証明があつた線量の最低値よりも更に数十分の一の低い線量の限度を、許容被ばく線量として定めることは、望ましくはないとしても、違法の問題は生じない。
(三) 我が国における一般人に対する許容被ばく線量は、告示二条により一年間につき0.5レム(五〇〇ミリレム)と定められていることについては当事者間に争いがなく、右許容被ばく線量は前記(一)、(二)により人類に対する危険性の証明のない線量であることは明らかであり、<証拠>によれば、電力需要者に対する安定した電力供給のためには本件原子炉が必要であることが認められる。右認定に反する証拠は採用しない。
原告らは、我が国の許容被ばく線量は、公的機関でないICRPの勧告した線量限度を採用したものであるが(右については当事者間に争いがない)、ICRPは昭和四〇年(一九六五年)以来生物学的、医学的見地に基づき線量限度を勧告する姿勢を放棄し、原子力産業の要請に合致する方向へと変質して、現在では原子力産業が経済的に成り立つ範囲で許容基準を定め、被ばくを不当に正当化している旨、しかも、我が国の許容基準はICRPの勧告よりも緩やかである旨、アメリカでは一九七七年一月六日環境保護局(EPA)によつて新しい基準が設定され、この基準は一般人の年間被ばく線量を全身0.025レム、甲状腺0.075レムに抑えようとするもので、違反者には法的制裁を加えうるものとしている旨、したがつて、我が国の許容被ばく線量は高基準であり、不当、違法である旨主張し、証人市川が右主張に添う証言をする。なお<証拠>も右主張に添うものである。なお、また、アメリカの環境保護局(EPA)が新しい基準を設定したとの点については当事者間に争いがない。
しかし、<証拠>によれば、ICRPは昭和三年(一九二八年)に発足したもので、放射線医学、物理学、生物学、遺伝学等放射線防護に関する権威者によつて構成されており、科学的立場から放射線防護に関する勧告を行つている機関であること、ICRPは公衆に対する線量限度を勧告するに当たつては、放射線による障害について、しきい値があるかもしれないことを認めながらも、どんなに低い線量でも障害が発生するかも知れないという仮定の下に、原子力の利用によつて得られる利益からみて、社会が容認できる程度の放射線量を線量限度とし、具体的には、エツクス線やラジウムその他の放射性物質の使用経験、人類その他の生物の放射線障害に関する知識に照らして、身体的障害、遺伝的障害の発生する確率が無視し得る程小さい線量を社会的に容認できる線量限度として勧告していること、そしてこれと同時に、ICRPは、いかなる不必要な被ばくも避けるべきであること、及び経済的社会的な考慮を計算に入れた上、すべての線量を、容易に達成できる限り低く保つべきである旨を併せて勧告していること、ICRPが定めた許容基準は、アメリカ、カナダ、ソ連、西ドイツ、イギリス等の諸国において採用されていること、アメリカの環境保護局(EPA)が定めた基準は、ウラン燃料サイクルからの放射性排出物によつて生ずる虞れのある一般公衆の被ばくの防護基準を明確に規定することによつて、現行の連邦放射線防護指針を補うもので、数値的には右指針より低い値であるが、右指針の改正を求めているものでないことがいずれも認められる。また、前記争いのない事実によれば、ICRPは一般公衆に対する基準について「線量限度」という概念を使用し、我が国の告示は、「許容線量」という概念を使用していることが認められるが、しかし、我が国の告示の解釈としては、許容線量を超える被ばくを与えることは違法とし、しかもその線量内での被ばくもできる限り少なく抑える趣旨と理解すべきであるから、我が国の基準がICRPの勧告より緩やかであるとはいえない。以上により前記原告らの主張に添う証拠は採用できず、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。
したがつて、原告らの前記主張は理由がない。
二本件原子炉の平常運転時における放射性物質管理
1平常運転時における被ばく評価値とその危険性について
(一) 本件原子炉の設置許可処分に当たりなされた安全審査において、本件原子炉から平常運転時に放出する気体廃棄物による被ばく評価は、周辺監視区域(予定)外において、ガンマ線被ばくが最大となるのは、原子炉から南約七五〇メートルの地点であり、年間の被ばく線量は、約0.6ミリレム(ベータ線被ばく線量約1.5ミリレム)であり、また、液体廃棄物については、全身被ばく年間約0.01ミリレムとされたことについては当事者間に争いがない。
(二) 原告らは、右について、全身被ばく線量を評価する場合には、ガンマ線による被ばくと、ベータ線による被ばくとは区別すべきではなく、これらの被ばくは合算すべきであり、ICRPもそのように勧告している旨及び右平常時被ばく評価値程度の被ばくでも、倍加線量の考え方からして周辺住民にとつて極めて危険な線量である旨主張するが、ICRPが体外被ばくについて、原告ら主張の如き勧告をなしたことを認めるに足る証拠はないのみならず、証人黒川の証言によると、原子力発電所から放出される気体廃棄物に含まれる放射性物質から放出されるベータ線のほとんどは、低エネルギーのものであり、透過力が小さいため、右ベータ線によつて被ばくするのは皮膚のみであるから、右ベータ線による被ばくと透過力の大きいガンマ線による全身被ばくとは、区別して評価すべきであつて、これを合計したものを全身の被ばく線量と考える必要はないことが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。なお、前記本件原子炉の平常運転時における被ばく評価値は、現在の知見の下では、人類に対して何らかの障害を与えると考えられる放射線量ではないこと、したがつて、倍加線量の考え方に立つてその危険性を評価すべき数値に当たらないことは前記一での認定に照らし明らかである。以上のとおりとすると、本件安全審査において右評価値をもつて安全と評価したことは相当であると認められる。
2気体廃棄物の放出過程、被ばく評価について
(一) 本件許可処分に際しての安全審査の結果、本件原子炉の平常運転時における気体廃棄物の放出量、放出過程、被ばく評価方法、被ばく値が、被告の主張第三章の第二の一、本件原子力発電所の平常運転時における放射性物質の放出管理における安全性の確保の(三)の(1)記載のとおり評価されたことについては当事者間に争がない。
(二) ①一次冷却水中に放射性物質が現われる原因としては、燃料の燃焼に伴つて、燃料棒中に生成される放射性物質(主として、クリプトン、キセノン等の希ガス)が、燃料被覆管に生じたピンホール等から一次冷却水中に漏洩することによるものと、一次冷却水中に含まれている空気や、容器、バルブ等の材料の腐食生成物(コバルト、マンガン等)が、中性子の照射を受けて放射化され、放射性物質になるものとの二つがあること②燃料の燃焼に伴つて生成する放射性物質が、一次冷却水中へ漏洩することを防止するため、燃料の二酸化ウランの粉末を小さな円柱状に成型したうえ、高温で焼き固めて燃料ペレツトにしたうえ、これをジルコニウム合金製の燃料被覆管中に挿入し、右燃料被覆管は溶接によつて端栓されること③本件原子炉から放出することとなる放射性物質には、放射性希ガス、放射性ヨー素、粒子状放射性物質があること④補助建家からの気体廃棄物の放出による被ばく評価については気象手引に定める簡便法を用いたこと⑤本件被ばく評価に当たり気象等をは握するための現地実験はしていないこと⑥本件被ばく評価で利用した風洞実験は、縮尺一〇〇〇分の一のものであつて、その風洞に毎秒一メートルの風速で風を送つて実験がなされ、高森、平碆、伊方変電所の三地点の風向、風速特性の相関関係をみたが、右実験の結果排気口出口の風速が高森地点の0.6倍となつたこと⑦大気安定度はD型として本件被ばく評価がなされたこと⑧微粒子状放射性物質による被ばく評価はなされなかつたことについてはいずれも当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、(1)燃料ペレツトは二酸化ウランを千数百度以上の高温で焼き固め、物理的にも化学的にも安定している一種の磁器であること、燃料被覆管の材料であるジルコニウム合金は機械的強度、耐熱、耐放射線性、耐食性に優れたものであること、したがつて、燃料の燃焼に伴つて生じた放射性物質は燃料ペレツトの中に保持され、更には燃料被覆管内に閉じ込められているので、放射性物質の一次冷却水中への漏洩は防止されるようになつていること、(2)一次冷却水中で、放射性物質を生ずる原因となる一次冷却水中の不純物は、主として一次冷却水が接する機器や、配管の内面等が腐食することによつて生ずるものであるから、本件原子炉においては、一次冷却水に触れる原子炉圧力器内面や、配管類は、すべて耐食性の強いステンレス鋼、インコネル、ジルコニウム合金等を使用するとともに、一次冷却水の水質を管理して、腐食の生じ難い状態を保つことによつて、一次冷却水中の不純物の発生を抑制していること、(3)本件被ばく評価に当たつては、燃料被覆管の破損率を、年平均一パーセントと仮定したこと、これは、当時本件原子炉と同型の原子炉(ゾリータ炉、ギネ炉、ベズナウ一号炉、ポイントビーチ一号炉、美浜一号炉等)における右破損率の実績値が、年平均約0.25パーントであつたことを踏まえて検討した結果、平常運転時における右破損率は、年平均一パーセントとすれば十分であると判断したためであること、右破損率は、近年の同型炉の実績からみても、実際の破損率以下になると考えられていること、(4)加圧水型である本件原子炉においては、一次冷却水は、原子炉圧力容器、蒸気発生器、一次冷却材ポンプ及びこれらを連結する配管からなる閉回路内を循環しており、蒸気発生器二次側から、タービン、復水器、給水器を経て蒸気発生器二次側へと循環する二次冷却水とは隔離されているため、一次冷却水中に現われた放射性物質は、一次冷却水とともに一次冷却系内に保持されること、また、右閉回路には化学体積制御設備が設けられているため、一次冷却水中に現われた放射性物質は、右閉回路を循環する過程において、化学体積制御設備のもつ脱気機能(気体状のものを分離する機能)、脱塩機能(冷却水中のイオン状不純物を分離する機能)によつて、一次冷却水から分離、抽出されること、右化学体積制御設備において一次冷却水から分離、抽出された放射性物質は、水質検査のため一次冷却水とともに抽出した放射性物質や一次冷却系のポンプ、バルブ等から一次冷却水とともに漏洩した放射性物質等とともに、その性状に応じて、気体、液体及び固体廃棄物として処理されること、(5)一次冷却系閉回路の施設は、円筒部の厚さ約3.5センチメートルの鋼鉄製の容器の、更に、その外周に鉄筋コンクリート製の外周コンクリート壁が設置された格納容器の中に納められていること、右格納容器は、貫通するパイプに隔離弁を設けるなどして気密性を保持する(設計漏洩率0.1パーセント/日)ようになつていること、右漏洩率は定期的及び必要に応じて検査できるようになつていること、(6)本件原子炉において発生する気体廃棄物は、前記化学体積制御設備において、一次冷却水から分離、抽出したものや、余剰となつた各種タンクのカバーガス及びポンプやバルブ等からの漏洩水から発生するもの等であること、この気体廃棄物中に含まれる放射性物質は、その大部分がキセノン一三三、同一三五、同一三八、クリプトン八五、同八七等の希ガスであり、そのうちのほとんどはキセノン一三三であること、(7)燃料被覆管の破損率を前記のように仮定して評価した結果、ガス減衰タンクからの排気される放射性物質は年間約九二四〇キユリー、格納容器からの換気によるもの年間約三一〇〇キユリー、補助建家からの換気によるもの年間約八二二〇キユリー、合計年間約二万〇六〇〇キユリーとなつたこと、(8)本件原子炉においては、右気体廃棄物のうち、化学体積制御設備において一次冷却水から分離、抽出したもの及び各種タンクのカバーガスは、いずれも補助建家内にあるガス減衰タンクに導き貯留すること、そして一次冷却水から分離、抽出したものは、三〇日間以上貯留し、これに含まれる放射能を十分減衰させた後(ガス減衰タンクにおける三〇日間の貯留によつてキセノン一三三は約五〇分の一に減衰し、同一三三及びクリプトン八五以外の放射性希ガスはほとんど零となるため全体としては約四〇分の一にまで減衰する)、一五日以内に風向きが海側であつて、かつ、風速が毎秒五メートル以上の時を選んで、放射線モニタで監視しながら、原子炉補助建家排気筒から放出することとし、気象条件が悪く一五日以内に海側に放出することができない場合には、一五日貯留後、すなわち四五日減衰後海側、陸側を問わず右同様の方法で放出することとしていること、しかしながら、被ばく評価に当たつては、四五日減衰後の気体廃棄物はすべて陸側に放出されるものと仮定して被ばく評価したこと、なお、ガス減衰タンクからの放出回数は年間二〇回とし、そのうち陸側へ風の吹く確率は四回であり、更に、そのうち着目方向(風向き北)への風向きがでるひん度は三回としたこと(右については当事者間に争いがない)、これは、現地の気象条件について、気象観測データから任意に摘出したところの引き続いた一五日間に、風が海側へ向かつて吹き、その風速が伊方発電所で毎秒五メートル以上であることの各条件を同時に充たさない状態の出現する確率が一〇パーセント以下であつたので、評価上の安全率を考慮して、その確率を二〇パーセントとし、最多生起度数を考慮して、右評価をなしたものであること、(9)また、各種タンクのカバーガスは、原則として再使用されることになつているが、余剰となつて放出される場合には、右の一次冷却水から分離抽出したものと同様に処理されることとなつていること、また、被ばく評価に当たつては原則として再使用されることを考慮せず、すべて放出されるものと仮定して被ばく評価したこと、(10)本件原子炉には気体廃棄物の四五日分の発生量約六〇立方メートルを十分収容し得るガス減衰タンク四基(他に予備二基)を保有していること、(11)気体廃棄物中格納容器及び補助建家内のポンプやバルブ等からの漏洩水から発生するもののうち、格納容器内に漏洩したものについては換気時に、補助建家内に漏洩したものについては連続的に、それぞれ排気筒から、いずれもフイルターを通過させた後、放射線モニタで監視しながら放出することとされていること、(12)格納容器から放出される排気については、格納容器からの放出回数を補修作業や燃料取替作業及び格納容器の減圧操作の回数を考慮したうえ、年間一〇回と仮定するとともに、放出に当たつては、原則として海側に放出することとしているが、安全側に立つて海側、陸側を問わず無差別に放出するものと仮定して被ばく評価をしたこと、なお、右年間一〇回の放出のうち、着目方向へ向かうのは五回を超えないとして被ばく評価したが(右については当事者間に争いがない)、右は前記ガス減衰タンクからの放出についての風向、風速についての確率から考えて、不合理ではないこと、(13)補助建家の換気に伴う排気については、補助建家内のポンプ、バルブ等からの漏洩水はすべて放射性物質濃度の高い一次冷却水とみなし、時間による放射能の減衰効果も無視することとして被ばく評価したこと、なお、補助建家からの気体廃棄物の放出による被ばく評価については、前記のとおり簡便法により行われたが、簡便法は、気象手引の定める方法であり、しかも気象手引の定める通常の方法によつた場合にほぼ近い結果が得られるものであること、(14)本件原子炉から環境へ放出されることとなる気体廃棄物の拡散及び希釈については、その放出の高さや現地における気象観測データ等から求めた風速、大気安定度を基に、パスキルの拡散式を用いて評価したこと、なお、右拡散式は原則として周囲が平担地の場合に適用される式であるが、排ガスが遠方の独立峰に直接当たるような特殊な地形でない限り、排気筒の高さを適切に補正することによつて平担地でない場合にも適用できるものであり、本件敷地はパスキルの拡散式の適用できない地形ではなく、本件被ばく評価に当たつては、風洞実験の結果によつて気体廃棄物の放出の高さの補正を行つたこと、(15)右風洞実験は本件原子炉施設を中心とする地形を模擬した直径2.8メートルの模型によつてなされたもので、その結果、本件原子炉から放出される気体排気物の敷地境界における濃度をパスキルの拡散式によつて求めるためには、右拡散式に用いる放出の高さを実際の放出の高さの0.6倍すればよく、かつ、敷地境界以遠でもこの放出の高さを用いれば被ばく評価として安全側であることが判明したこと、そのため本件被ばく評価に当たつては、放出の高さを排気筒の高さ約七〇メートルに約一〇メートルの吹き上げ高さを加えた約八〇メートルを0.6倍した四七メートルと仮定したこと、なお、風洞実験には、風洞技術の確立、相似性の追求、模型実験の精度の向上等の研究課題が残されているが、風洞実験に右のような研究課題が残されているからといつて、直ちに風洞実験の手法が確立していないとか、実用に供し得ないというものではないこと、本件風洞実験と現実の風向及び風速の観測データとはよく一致し、被ばく評価に必要な大気の拡散、希釈の状況をは握するうえから妥当なものであつたこと、なお、前記風洞実験の結果の報告書中には「排出ガスの上昇の高さは、相似則の制約上縮尺率一〇〇〇分の一の模型では実験できないため、あらかじめ上昇の高さをホランド式によつて算出し、上昇の高さを排気筒の高さで補つた」との記載があるが、これは本件原子炉から放出される気体廃棄物による被ばく評価をする上で必要な本件原子炉の周辺環境をは握するためには、排出ガスの吹き上げの高さについてまで正確に模擬した模型を使用して風洞実験を行わなくとも、排気筒の高さを模擬し、右吹き上げの高さをホランドの式によつて求めることによつて補足すれば十分であるところ、右は排出ガスの吹き上げの高さについて、妥当な補正が行われたことを示すものであること、風洞実験は、被ばく評価に必要な大気の拡散、希釈の状況をは握するためのものであるから、本件敷地とその付近である高森、平碆及び伊方変電所の三地点について卓越風が南向きの風であることを踏まえ、高森は伊方周辺の風向、風速を代表する地点として、平碆は排気筒に近い地点として、また、伊方変電所は地形の影響を大きく受けるおそれのある地点として、いずれも選定されたものであり、右三地点についてのデータを得れば足ること、被ばく上着目すべき方位は、上空風向北の場合であるから、上空風向西の場合は多少相関関係が悪くても問題がないこと、本件風洞実験においては、現地の、実際に気象観測用風向風速計を設置した地点(高森、伊方変電所、平碆)及び排気筒出口予定地点にそれぞれ相当する模型上の位置の風向き及び風向きの振れ幅を読み取り、右各地点相互の風向特性を調べた結果、特に問題となる陸地方向の風については、排気筒出口における風向と高森地点における風向との相関がよいことが分かつたため、気体廃棄物の濃度分布を求めるに当たつては、高森地点の風向きひん度を使用することが妥当であると判断されたこと、本件風洞実験において、風速特性を調査するに当たり、前記風向特性を調べた場所と同じ測定点に、定温度式熱線風速計プローブを設置して風速を測定し、右各測定間の風速相関を調べた結果、いかなる風向きの場合でも、排気筒上方の風速は前記のとおり高森地点の六〇パーセント以上であることが判明したこと、本件風洞実験の結果の合理性について格別な疑義は存在しないこと、(16)現地における気象観測データでは大気安定度D型の出現する割合が全体の約七〇パーセントに達している上、大気安定度E型及びF型の出現する割合は、大気安定度A、B、C各型の出現する割合の四分の一程度とみられるので、年間の被ばく評価に当たつては、D型で代表させて評価を行つた方が、各大気安定度の出現ひん度に応じて評価する場合よりも安全側の評価となること、(17)現地における気象観測データでは、気象手引による静穏時、すなわち、在来計器による風速の観測値が毎秒0.4メートル以下のときも、同時に測定していた精度の高い微風向微風速計によれば、実際にはほとんど毎秒0.5メートル以上の風速であり、真の静穏時の出現ひん度は極めて少ないこと、右静穏時の存在は年間被ばく評価には事実上影響がないと判断されたこと、(18)気象手引の解説「Ⅲ観測、調査事項」には、原子炉設置前の拡散気象に関する観測、調査項目の一つとして、局地性の調査をあげ、その調査方法として、発煙実験、測風気球及び模型実験の三つを例示するとともに、右発煙実験についての注記において「拡散実験をすることが望ましい」としているが、右は拡散気象に関する局地性の調査について、常に拡散実験をすることを要求しているものとはみられないこと、本件敷地においては特に現地実験を行う必要性は存在しなかつたこと、(19)前記のように、本件原子炉から放出することとなる放射性物質には放射性希ガス、放射性ヨー素及び粒子状放射性物質があるが、これらの量及び構成比は原子炉の運転方法等により多少の差異はあるものの、同型の原子炉についてはほぼ一定であり、前記放射性物質のうちで放出量が最も多く、かつ、全身被ばく線量に最も寄与するものは希ガスであつて、この希ガスの放出量に比べればヨー素及び粒子状放射性物質の各放出量はいずれも無視できる程度に少なく(いずれも一万分の一以下)、かつ、全身被ばく線量への寄与も少ないことから、放射性ガスによる被ばく線量を求めることによつて許容被ばく線量を下回るかどうか確認できると考えられていること、このため、安全審査における被ばく評価に際しては、放出される放射性物質の種類及び量が同型の原子炉の場合と比較して差異がないことを確認した上、放射性希ガスによる周辺公衆の被ばく線量を求めればよく、その他の放射性物質による被ばく線量自体を細かい数値に至るまで、計算する必要はないと考えられていること、右の考え方が妥当であることはICRPの勧告の中にも述べられていること、本件安全審査においても、右の被ばく評価の考え方に従つて、先行炉の実績等を検討したうえ、前記のとおり、放射性希ガスによる周辺公衆の被ばく線量を求め、その他の放射性物質による被ばくはその放出量が極めて少ないこと等から無視し得る程度と評価したこと、なお、ヨー素による被ばく線量については念のため、みかん摂取による場合について評価したが、人が一日当たり四〇〇グラムのみかんを皮のまま摂取するなどの仮定の下で被ばく評価を行つた結果は、甲状腺被ばく線量が年間0.07ミリレムと評価されたこと、なお、本件原子炉から放出されるヨー素による被ばくについては、昭和五〇年に定められた発電用軽水型原子炉周辺の線量目標値に関する指針に基づき、伊方二号炉の増設に係る安全審査の際に評価されたが、右評価によれば、本件原子炉から放出されるヨー素の年間放出量は、本件原子炉と同型、同出力の伊方二号炉の安全審査における評価値と同じく約一キユリーであり、これによる甲状腺の被ばく線量は一、二号炉合計でも年間最大約一〇ミリレムと評価されたこと、(20)以上により計算した結果、本件原子炉の気体廃棄物による周辺監視区域外における最大全身被ばく線量は前記1のとおりとなることがいずれも認められる。
もつとも①本件原子炉と同型、同出力である九州電力玄海一号炉(右については当事者間に争いがない)の場合には、燃料被覆管の破損率を五パーントと仮定し、また、本件原子炉でも、蒸気発生器細管事故における被ばく評価に際しては、右破損率を五パーセントと評価していること②九州電力玄海二号炉では格納容器の減圧操作に伴う換気は間けつ放出としていること③本件許可処分では四国電力が財団法人電力中央研究所に依頼してなした風洞実験の結果を利用したこと、財団法人電力中央研究所は四国電力等九電力の財政援助によつて設立、運営されているものであること④右風洞実験では海象、空気の濃度、湿度等の気象条件を模擬していなかつたこと⑤中部電力浜岡原子炉周辺の環境放射線の測定値が請求の原因第三章の第二の六の2記載のとおり上昇していること⑥東京電力福島原子炉、日本原電敦賀原子炉等の周辺の松の葉等からコバルト六〇、マンガン五四等が検出されたことについてはいずれも当事者間に争いがないが、証人宮永の証言によれば、玄海一号炉の審査当時は本件原子炉の審査に用いられた先行炉の燃料被覆管破損の実績等が十分得られていなかつたため、右破損率として、運転管理上の上限値とされている五パーセントとしたこと、また、本件原子炉の燃料被覆管の破損率が、平常運転時における被ばく評価の場合と、蒸気発生器細管破損事故時の災害評価の場合とで異つているのは、平常運転時には年間を通じて累積される被ばく線量を評価するという観点から、年間の破損率の平均値を採つたが、事故時については、事故発生時における被ばく線量を評価するという観点から、年間の破損率の最大限を採つたものであることが認められるので、右①の事実は何ら前記認定を左右するものではない。また、右②③の事実は前記認定を左右するに足らず、④の事実も、前示風洞実験に残されている研究課題の一つではあるとみられるものの、前記認定を左右するものではない。次に、右⑤の事実については、<証拠>によれば、自然放射線量は場所や季節、更には降雨等の気象条件によつてかなりの変動があること、しかるに、右環境放射線の上昇は、右の数値の変動を考慮していないので、その上昇値がすべて中部電力浜岡原子炉の運転によるものとは即断できないものであることがいずれも認められ、右⑥の事実については、証人宮永の証言によれば、前記コバルト六〇、マンガン五四等の検出例は、いずれも、その放射能度が低く、たとえ、これらの放射能を含む植物を長時間摂取しても、人体に影響を及ぼさない程度のものであることが認められるから、右⑤⑥の事実はいずれも前記認定を左右するものではない。
なお、証人久永は、被告がみかんを対象として、ヨー素による被ばく線量を評価した方式を用いて葉菜類についての評価をすると、小児の甲状腺被ばくは年間1.4レムにも達する旨証言するけれども、前記認定に照らし右証拠は採用できない。次に証人市川は、浜岡原子炉周辺におけるムラサキツユクサの実験の結果によれば同原子炉から放出された放射性物質による被ばく線量は、一五〇ミリレム相当と考えられること、その原因は放射性物質中のヨー素一三一がムラサキツユクサに付着して濃縮したことによるものと考えられる趣旨の証言をし、<証拠>によれば、ムラサキツユクサのおしべの毛は放射線のみならず、温度、湿度、日照、化学物質等に対しても感受性が強いものであるのに、右のムラサキツユクサの実験では放射線以外の要因の定量的分析はなされていないこと、ムラサキツユクサの実験で数ミリレム程度の微量放射線の影響を調査するのに必要だとされている数のムラサキツユクサのおしべの毛の観察は右実験ではなされていないこと、なお、静岡県衛生研究所等が同原子炉周辺で実施した環境試験測定の結果によつても、ヨー素一三一は検出されなかつたこと、右ムラサキツユクサの実験者も前記一五〇ミリレムがヨー素による被ばくの結果であることの確認を行つていないことがいずれも認められるので、前記証人市川の証言及びこれと同旨の各証拠は直ちに採用できない。
原告らは、更に、近時のように、原子炉の事故その他がひん発すれば、補修作業の回数が増加し、格納容器換気回数もそれだけ増加するので、格納容器からの予定放出回数を年間一〇回とすることは根拠がない旨、また、本件原子炉の炉心核設計、同熱設計が不確かであり、更に、請求の原因第四章の第二の二の4掲記の燃料損傷事故発生の現状に照らし、本件原子炉でも、炉心設計、燃料に起因する事故の発生は免れず、その結果、平常運転時における放射線の放出量は増大し、ひいては、周辺住民の被ばく線量は本件安全審査における評価値を超すことは避けられない旨、なお、本件原子炉における蒸気発生器細管損傷は免れ難いところであり、その結果、周辺環境へ放出される放射性物質の量が増大し、ひいては、周辺住民の被ばく線量も本件安全審査における評価値を超すことは避けられない旨主張する。しかし、まず、格納容器からの放出回数は、事故による補修作業をも考慮して決められたものであるのは前記のとおりであり、原子炉において、過去に機器の補修を要する事故が発生していることについては当事者間に争いがないが、本件原子炉の右放出回数では事故による補修作業のため不足であると認めるに足る証拠はない。また、本件原子炉における炉心設計、燃料及び蒸気発生器細管については、いずれもその健全性が保持できるとした本件安全審査における判断は相当であると認められることは後記(第四の二の2、3)のとおりである。したがつて、右原告らの主張はいずれも理由がない。
その他、前記本件原子炉の平常運転時における気体廃棄物の放出、拡散、被ばく評価等についての認定を左右するに足る証拠はない。
(三) そして、前記争いのない事実及び認定事実に照らせば、本件安全審査における気体廃棄物による被ばく評価は相当であると認められる。
(四) なお、原告らは、本件許可処分に際し、気体廃棄物の処理設備の構造、機能等についての審査がなされていない旨主張する。
しかし、本件安全審査において、気体廃棄物の処理設備として、前記のようにガス減衰タンク六基があるほか、ガス圧縮装置二台等があり、安全であると評価されたことについては当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すれば、右についての気体廃棄物の処理設備の基本設計の審査はなされたこと、その結果は、右安全審査のとおりであることが認められ、右認定に反する証拠はない。
そうだとすると、原告らの右主張は理由がないというべきである。
3液体廃棄物の放出過程、被ばく評価について
(一) 本件許可処分に際しての安全審査の結果、本件原子炉の平常運転時における液体廃棄物の放出量、放出過程、被ばく評価方法、被ばく値が被告の主張第三章の第二の一、本件原子力発電所の平常運転時における放射性物質の放出管理における安全性の確保の(三)の(2)記載のとおり評価されたことについては当事者間に争いがない。
(二) <証拠>を総合すると、(1)本件原子炉において発生する液体廃棄物としては、化学体積制御設備において抽出した抽出水、ポンプ、バルブ等からの漏洩水、イオン交換樹脂の再生廃液、実験室での分析廃液、床ドレン、従業員の衣類等の洗濯排水があること、これらの液体廃棄物のうち、化学体積制御設備において抽出した抽出水やポンプやバルブ等からの漏洩水等は、放射性物質の濃度は高いが水質は良好なものであるため、いつたんタンクに導き、その後、フイルターによつて固形物を取り除き、蒸発装置で蒸留した上、脱塩器によつてイオン状物質を取り除くなどの浄化処理を行つた後、一次冷却水として原則として再処理すること、イオン交換樹脂の再生廃液や実験室において発生した分析廃液等は、放射性物質の濃度は低いが水質が悪いため、いつたん廃液貯蔵タンクに導き、その後フイルターによつて固形物を取り除き、蒸発装置で蒸留したものについては、更に、脱塩器によつて放射性物質を取り除いた後、廃液タンクに入れて、放射能測定装置によつて放射性物質の濃度が低いことを確認した上、放出配管に設置されている放射線モニタによつて監視しながら、復水器冷却用海水に混合希釈して排出すること、洗濯排水等については、通常は、放射性物質をほとんど含んでいないため、洗浄排水タンクに導き、その後、放射能測定装置によつて放射性物質の濃度が十分低いことを確認した上、フイルターによつて固形物を取り除いた後、放出配管に設置されている放射線モニタによつて監視しながら、復水器冷却用海水に混合希釈して排出すること、なお、右の洗濯排水等に含まれている放射性物質の濃度が高い場合には、右のイオン交換樹脂の再生廃液や実験室において発生した分析廃液等を処理する蒸発装置に送り、右イオン交換樹脂の再生廃液と同様の処理を行うことにしていること、(2)本件原子炉において発生する液体廃棄物のうち、外部に放出されるものは右の如く、一部の廃液と洗濯排水に過ぎず、しかも、右廃液等は、いつたんそれぞれのタンクに導いた後、放射能測定装置によつて、放射性物質の濃度が低いことを確認した上、放射線モニタによつて監視しながら排出することとしていること、(3)右液体廃棄物の年間排出量は、先行炉の実績を考慮して、トリチウム以外のもの年間約一キユリー、トリチウム年間約五〇〇キユリーを超えることはないと評価されたこと、(4)右外部に放出される液体廃棄物は、いずれも復水器冷却用海水に混合希釈した後、放水口から発電所前面海域に放出されること、(5)本件被ばく評価に当たつては、複合モデルにより放水口より四八メートルの海域の放射性物質濃度を採用し、また、参考のため他のモデルによる計算結果からも被ばく線量を算出していること、そして、後記((6))のとおり、濃縮係数については、放水口に住んでいる魚について放射能の濃縮係数として飽和値を使用していること、本件原子力発電所の液体廃棄物による被ばく評価については外部被ばくを考慮する必要がないことから、海水中における放射性物質の拡散のは握が右の程度にしかできていなくても、これをもつて不当とはみられないこと、(6)被ばく評価における一般住民の毎日の海産物摂取量は、東海村の漁業従事者の一日当たりの摂取量を基にして、財団法人原子力安全研究協会の海洋放出特別委員会において検討された摂取量を参考として、魚二〇〇グラム、海藻一〇グラム、無せきつい動物二〇グラムと仮定したこと、一般住民が摂取する右の魚等の海産物については、これらのものがいずれも一年中放射性物質濃度の高い放水口近傍に生息し続けているものと仮定したこと、右海産物には世界各国のデータを参考として設定した高い濃縮係数(飽和値)をもつて放射性物質が濃縮されるものと仮定したこと、(7)船舶や漁網等に付着した放射性物質による外部被ばくは、内部被ばくに比べて著しく小さいものと予想され、あえて評価するまでもなかつたこと、(8)以上により計算した結果、液体廃棄物による周辺公衆の被ばく線量は前記1のとおりとなること、(9)なお、液体廃棄物中、トリチウム及びヨー素による被ばく評価値は極めて小さく、具体的な数字をあげるまでもなかつたことから、これによる被ばく線量は無視できる程度であると判断したことがいずれも認められる。
次に①本件原子炉と同型の先行炉であるアメリカのサンオノフレ発電所及びコネチカツトヤンキー発電所の液体廃棄物の放出実績が別紙三記載のとおりであること②本件原子炉の液体廃棄物による被ばく評価に際して参考とした核種構成比はアメリカのオコニー発電所の報告書によつていること、しかし、本件許可処分時には右発電所はまだ稼働していなかつたこと③被告が液体廃棄物による外部被ばく評価をしていないこと④美浜原子炉前面海域(いずれも原本の存在並びに<証拠>によれば、放水口の直近付近であると認められる)で採れたホンダワラから一グラム当たり0.2ピコキユリーに及ぶコバルト六〇が検出されたことについてはいずれも当事者間に争いがない。しかし①の事実については、<証拠>を総合すると、右両発電所においては液体廃棄物の処理(例えば蒸発濃縮装置)が我が国の場合に比べて劣るものであること、我が国と異なり、アメリカでは、蒸発発生器細管から放射性物質が多少漏洩した場合でも運転することが認められていること、右両発電所の燃料被覆管はジルカロイに比べてトリチウムが漏洩しやすいステンレス鋼を用いていること等のために、放出実績が大きくなつていることが認められるので、右は前示認定を左右するものではない。次に右②の事実については<証拠>によれば、被告が本件安全審査において使用したオコニー発電所の報告書とは、アメリカ原子力委員会が作成した同発電所についての最終環境報告書であること、したがつて、右はアメリカ原子力委員会によつて十分審議され、当時の実績からみても妥当なものとされたことが確認されるので、右②の事実は、前示認定を左右するに足りない。次に右③の事実につき証人久米は液体廃棄物による外部被ばくは、内部被ばくの一〇倍にもなる旨証言するが、右証言は、再処理工場により海水中に放出される液体廃棄物による被ばく評価に基づいているものであることが右証言自体により明らかである。そして、原本の存在並びに<証拠>によれば、再処理工場から海水中に放出される廃棄中に含まれる放射能による外部被ばくは、内部被ばくの約六倍とも予想されていることが認められる。しかし、<証拠>によれば、再処理工場から海水中に放出される廃棄中に含まれる放射能が、最大の場合を想定すると、三か月当たり六五キユリーとなり、例えば、砂からのトリチウム被ばくは、東海村周辺の阿字が浦についての砂の放射能濃度を評価し、その被ばく時間を年間五〇〇時間とし、また、漁網からの被ばくについては、漁網操作海域の放射能濃度として放出口周辺の直径一キロメートルの円内の廃液による放射能濃度を用い、更に、漁網の大きさも考慮するなど、種々の仮定をした上で外部被ばく年間(全身)8.3ミリレムとしていること、このようにして計算された結果算出された外部被ばく評価値は、本件原子炉の温排水により被害を受けるとして主張している本件原告らの主張の内容(原告らは液体廃棄物により被害を受ける態様を別に主張していない)から考えられるところの、外部被ばくを推定すべき事情と比較してみると、その事情に格段の相違があり、しかも、前記のとおり本件原子炉と再処理工場とでは、海水中に排出する液体廃棄物に含まれる放射能量にも格段の違いがあることに鑑み、右再処理工場による外部被ばくを、本件原子炉の外部被ばくの評価の参考とすることはできないものであることがいずれも認められる。よつて、前記証人久米の証言は採用しない。そして、外部被ばくの評価をしなかつたことの理由は、前示のとおりであり、右③の事実は前示認定を左右するものではない。次に右④の事実については、証人宮永の証言によると、当時の美浜一号炉等の運転状態等が明らかでないうえ、右原子炉と本件原子炉とでは、その前面海域の状況も異なるので、右④の事実をもつて直ちに前示認定を左右することはできない。
なお、原告らは、本件原子炉から放出される液体廃棄物による被ばく評価は、美浜原子炉前面海域におけるホンダワラ中のコバルト六〇の濃度、サンオノフレ、コネチカツトヤンキー両発電所の液体廃棄物の実績に照らすと、年間全身2.64レムにもなり、外部被ばくを考慮すると、更に、多量になる旨主張し、証人久米は右主張に添う証言をする。しかし、サンオノフレ、コネチカツトヤンキー両発電所における液体廃棄物の放出実績が、本件原子炉の被ばく評価の参考にならないこと、美浜原子炉前面海域で採れたホンダワラ中の放射性物質濃度についても、それを直ちに本件原子炉の液体廃棄物による被ばく計算の参考とすることはできないこと、本件原子炉では液体廃棄物による外部被ばくを無視しうることは、前叙のとおりである。したがつて、原告らの右主張に添う証拠は採用できない。
なお、本件原子炉の液体放射性物質排出量を左右する燃料、炉心及び蒸気発生器細管の健全性の点については前記2の(二)で述べたとおりである。
他に前示認定を左右するに足る証拠は存在しない。
(三) 以上の認定に照らせば、本件安全審査における液体廃棄物による被ばく評価は相当であると認められる。
4固体廃棄物の貯蔵、保管等について
(一) 本件安全審査において、蒸発装置濃縮液のうち、一次冷却水で再使用されないもの及び雑固体廃棄物は、いずれもドラム缶詰めにして固体廃棄物貯蔵所に貯蔵、保管されること、使用済樹脂については、当面使用済樹脂タンクに貯蔵されること、したがつて、固体廃棄物の貯蔵、保管は安全になされるものと評価したことについては、いずれも当事者間に争いがない。
(二) <証拠>を総合すると、(1)本件原子炉において固体廃棄物として処理されるものとしては、液体廃棄物処理設備の蒸発装置において処理した結果生じた濃縮廃液、機器の点検や修理等に使用した布きれや紙屑等の雑固体廃棄物、化学体積制御設備及び液体廃棄物処理設備からの使用済イオン交換樹脂があること、(2)これらの廃棄物のうち濃縮廃液はドラム缶内にセメント固化し、雑固体廃棄物は、圧縮減容した上、ドラム缶詰めにし、また、使用済イオン交換樹脂は、使用済樹脂貯蔵タンクに貯蔵し、それぞれ施設内に保管すること、(3)固体廃棄物の廃棄設備としては、雑固体廃棄物を圧縮するためのベイラ一基、ドラム缶詰めの装置一基、運搬装置一式、使用済樹脂貯蔵タンク六基等があること、使用済樹脂貯蔵タンクは発生する使用済樹脂の約五年分の貯蔵能力があること、固体廃棄物貯蔵所は発生する固体廃棄物を詰めたドラム缶を数年分貯蔵する能力があること、(4)前記濃縮廃液をセメント固化したドラム缶や雑固体廃棄物を詰めたドラム缶は、いずれも本件原子炉の敷地内に設けられた固体廃棄物貯蔵所に貯蔵、保管されるので、右ドラム缶中の放射性物質が漏出することによつて、周辺公衆に放射線障害を及ぼすような危険性はないこと、また、右使用済樹脂貯蔵タンクは、腐食しにくいステンレス鋼を使用するとともに、コンクリート建家内に設置されているので、使用済イオン交換樹脂中の放射性物質が原子炉敷地周辺に漏出する危険性はないことがいずれも認められる。右認定を覆えすに足る証拠はない。
なお、原告らは、固体廃棄物の廃棄設備並びに貯蔵保管設備の構造及び貯蔵等の能力、固体廃棄物処理操作の審査がなされていない旨主張するけれども、本件許可処分における安全審査では、基本設計の審査で足りるものであることは前記のとおりである。したがつて、右原告らの主張は失当である。
そして、前示認定に照らすと、本件安全審査において、固体廃棄物の貯蔵、保管方法は安全であるとした判断は、相当と認められる。
(三) 本件許可処分に当たり、固体廃棄物の最終処分方法について審査がなされていないことについては当事者間に争いがない。
右について、被告は、固体廃棄物の最終処分は、規制法二三条二項五号、規則一条の二第一項二号ト(ハ)により、原子炉設置許可処分に際しては、その審査の必要がないとし、固体廃棄物の最終処分は、規制法三五条、三七条に別途規制される旨主張する。しかしながら、右規則一条の二第一項二号ト(ハ)が同(イ)、(ロ)の如く排気口、排水口に該当するものを固体廃棄物の廃棄設備に掲げなかつたのは、廃棄物の性質に由来するものであると解されるから、右の点から、原子炉設置許可処分に当たり、固体廃棄物の最終処分について審査する必要がないとするのが法の趣旨であるとは断じ難く、また、規制法三五条、三七条の規定があるからといつて、固体廃棄物の最終処分が原子炉の基本設計に関わらないとすることはできない。のみならず、廃棄物という概念は最終処分を予定していること、気体廃棄物、液体廃棄物の最終処理が安全審査の対象となつていることとの関連・比較、更には、規則一条の二第二項九号に照らせば、固体廃棄物の最終処分も本件安全審査の対象であると考えられる。したがつて、その審査をしなかつた本件安全審査には違法があるといわねばならない。
しかしながら、前記のとおり固体廃棄物の貯蔵、保管の審査が行われて、その安全であることが確認されたこと、なお、証人児玉の証言によれば、我が国の原子力発電所における固体廃棄物の最終処分については、現在、国として検討中であることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はないから、本件原子炉の固体廃棄物の最終処分についての審査がなされていないことをもつて、直ちに原告らが危険にさらされるとはみられない。
したがつて、右固体廃棄物の最終処分の審査の欠如は、本件許可処分を取り消すべき瑕疵とはいえない。
5放射線管理システムについて
(一) 本件安全審査において、本件原子炉の放射線管理システムは、気体廃棄物の一部については放射線モニタにより監視しながら、排気筒から放出し、液体廃棄物については、放射性物質の濃度計算をして、排水モニタを通して排水口から放出し、更に、原子炉敷地内の各所に設けられているモニタリング施設によつて、環境放射線を常時監視し、また、周辺環境の土壌、動植物、海産物を定期的にサンプリングし、環境における放射性物質を監視することになつていることから、右は安全保護上適当であると判断されたことについては当事者間に争いがない。
(二) 気体廃棄物を排気筒から放出する場合及び液体廃棄物を排水口から放出する場合において 右(一)掲記のとおりの方法がとられていることは前記(2の(二)の(8)、(11)、3の(二)(1)、(2))のとおりである。
そして、<証拠>を総合すると、(1)本件原子炉は、周辺環境における放射線の変動を監視するため、周辺監視区域の四箇所にはモニタリングポストを、本件原子炉から南方約一キロメートル離れた峠にはモニタリングステーシヨンをそれぞれ設置し、右各設備によつてそれぞれ測定された空間ガンマ線量率は、原子炉の中央制御室に表示され記録されること、また、敷地周辺の二一箇所にはモニタリングポイントを設置し、三か月間の累積ガンマ線量の測定が行われること、なお、周辺の主要な居住地六箇所にもモニタリングポストを設置し、測定された空間ガンマ線量率の表示及び記録が行われること、(2)右モニタリングポストは、それぞれの設置点における空間ガンマ線量率を測定していること、なお、周辺監視区域境界に設けられているモニタリングポストの右測定値は、原子炉の中央制御室に設けられている指示計器に表示され、同時に、記録計器に記録されるとともに、空間ガンマ線量率が異常に高い値を示した場合には警報が発せられ、運転員に対し気体廃棄物の放出管理上の措置等を求めることとなつていること、モニタリングステーシヨンには、空間ガンマ線量計が設けられているほか、空間ベータ線量計、塵埃モニタ及びヨー素モニタが設けられており、常時又は必要に応じ、空気中の放射性物質の変動を測定していて、右空間ガンマ線量率の測定値は、モニタリングポストと同様に、原子炉の中央制御室に表示記録されること、モニタリングポイントは、通常三か月間に受けるガンマ線の累積線量を測定するものであること、(3)右の環境モニタリング設備によつて測定されたガンマ線等は、その大部分が自然放射線によるものであり、自然放射線による線量は、測定地点によつて異なるほか、降雨等の気象条件によつても、更には時間的にも、かなりの変動が見られる一方、原子炉から放出される気体廃棄物によるガンマ線量はわずかであるため、これによる寄与分を自然放射線から分離して読みとることは一般に困難であるが(上記については当事者間に争いがない)、原子炉の運転開始前に得られた自然放射線に関するデータと運転開始後に測定されたデータとを比較すること等によつて、少なくとも気体廃棄物によるガンマ線量の寄与分が自然放射線の変動幅に隠れてしまうほど小さいものであることの確認はできること、(4)本件原子炉においては、そこから排出されることとなる気体廃棄物中の放射性物質は、その大部分が不活性な希ガスであるため、周辺環境の土壌、水、動植物に付着したり、吸収されたりすることはないこと、しかし、希ガスとともに放出される可能性のある微量のヨー素や粒子状放射性物質、更には液体廃棄物中に含まれている放射性物質は、周辺環境の土壌や動植物等ないしは海産物や海底土にそれぞれ付着したり吸収されたりすることがあること、このため、放射性物質の吸着や濃縮の度合いが大きいなどの特性をもち(右のヨー素、粒子性物質、液体廃棄物中に含まれる放射性物質の特性については当事者間に争いがない)、環境中の放射性物質量の変動の指摘となる試料(陸土、海底土、指標生物等)を定め、これを定期的に採取し、分析することによつて、放射性物質の測定を行うこととなつていること、この放射性物質を検知するための分析は、通常の化学分析等に比べて、その検出感度が高いため、微量の放射性物質の存在も検知することができること、(5)なお、本件原子炉の排気筒には、放射性ヨー素を捕集するためのサンプラー及び粒子状放射性物質を測定するための塵埃モニタが設置されており、本件原子炉から放出される放射性ヨー素及び粒子状放射性物質の監視が可能であること、(6)モニタリングポスト等による放射線の管理及び記録は自動的になされ、ねつ造の余地はないこと、なお、地方公共団体においても原子炉設置者と同様の方法で監視していること、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
原告らは、本件原子炉に設置される放射線管理設備については、何ら審査がなされていないばかりでなく、右設備は実際には機能しないものである旨主張する。しかし、<証拠>に照らし、本件原子炉の放射線管理設備の基本設計の安全審査がなされていることが認められるから、原告らの右主張は理由がない。なお、放射線管理設備の機能が、本件安全審査において判断した如きものであるか否か等や、更に、その具体的な事項は、原子炉の基本設計の審査のみを担当する本件安全審査の対象とはみられない。
また、原告らは、本件原子炉の場合、中部電力浜岡原子炉の場合に比べて、モニタリングポスト等の設置箇所が少ないことから、本件原子炉における放射線監視設備が不備である旨主張するが、放射線監視設備の設置場所、個数は、原子炉の設置される場所の気象条件、地形、周辺公衆の居住区域の分布等により異なるのは当然とみられるから、原告らの右主張は失当というほかはない。
更に、原告らは、現在の放射線監視体制は、放射性物質の放出主体及びその追随者である地方公共団体にさせる不備がある旨主張する。しかし、前記のとおり、主要な放射線測定結果は、自動的に記録されることになつているのであり、かつ、原告らの放射線放出主体、地方公共団体が放射線監視をすることが不当であるとの主張を肯認するに足る資料はない。
(三) 以上の認定に照らし、本件安全審査において、放射線監視システムを前記(一)のとおり評価したことは相当と認められる。
6原子力発電所内の作業者被ばくの問題について
原告らは、本件安全審査において、本件原子力発電所内の作業者被ばくの審査がなされていない旨主張する。しかし、原告らは、自らが本件原子力発電所内に作業者として立ち入ることの蓋然性がある旨の主張をしていない。したがつて、右作業者被ばくの問題は、原告らの具体的利益に関わらないから、原告らは本件許可処分に際し、作業者被ばくについての安全審査が欠如している旨を主張すべき利益を有しない。
三使用済燃料の再処理について
(一) 本件安全審査において、使用済燃料ピツトは、約四分の三炉心相当分の貯蔵容量を有し、使用済燃料を垂直に保持して水中に貯蔵するようになつていること等から使用済燃料は、安全にピツト内に貯蔵されると判断したことについては当事者間に争いがない。
(二) <証拠>によれば、本件原子炉における使用済燃料は、右(一)掲記のとおり(ただし、その後ピツトの大きさを変えることなく、三分の九炉心分が貯蔵可能になるように変更された。)に貯蔵できるものとなつていること、使用済燃料ピツトは、貯蔵する使用済燃料の崩壊熱を除去するのに十分な容量を有するピツト水浄化冷却設備を設けていることがいずれも認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
原告らは、使用済燃料の貯蔵設備の安全性が十分審査されていない旨主張するけれども、前記のとおり、安全審査において審査されるのは基本設計であるから、前記の審査で足りるものというべく、更に、具体的な審査をなすべき必要は認められない。
(三) 右認定に照らし、本件安全審査において本件原子炉の使用済燃料は安全に貯蔵されるとした判断は相当と認められる。
(四) 証人児玉の証言によると、本件許可処分当時においては、本件原子炉における使用済燃料は、動力炉・核燃料開発事業団又はイギリス、フランス等の欧米諸国の施設で再処理をしてもらう見込みを立てていたところ、その後、欧米諸国における使用済燃料再処理事業についての政策の変更等で、右の見込みどおり本件原子炉の使用済燃料処理ができないものとなつたこと、しかし、現在では、動力炉・核燃料開発事業団等で再処理できる見込みが立つていることが認められる。
右認定を左右すべき証拠はない。
ところで、被告は、原子炉設置許可処分に当たつては、使用済燃料が平和の目的以外に利用されるおそれがあるか否か(規制法二三条一項八号、二四条一項一号、規則一条の二第一項五号)及び使用済燃料の原子炉敷地内における貯蔵設備が災害の防止上支障がないものであるかどうかを審査する(同法二三条二項五号、二四条一項四号、規則一条の二第一項二号二)こととしているのであつて、使用済燃料の再処理の安全性については、規制法四四条以下によつて、また、その輸送の安全性については同法三五条、五九条等によつて規制される旨主張する。使用済燃料の貯蔵、保管の審査が必要である旨、使用済燃料の再処理、輸送の安全性については別途規制される旨の被告の右見解はいずれも相当とみられるが、しかし、規制法二三条一項八号、規則一条の二第一項五号による審査が、規制法二四条一項一号のみの審査であるとすることは、たとえ使用済燃料の貯蔵、保管の安全についての審査がなされていても、その時期が長期にわたるときには、周辺住民等に対する災害の防止に支障を生ずるような事態が発生しないとは限らないこと、更に、規則一条の二第一項五号は使用済燃料の処分等の相手方について規定するだけでなく、処分の方法又は廃棄の方法の記載まで規定していることからしても、被告の右の点についての見解には、にわかに左袒できないところであり、使用済燃料の最終処分については、本件許可処分に当たり審査がなされるべきであると解するのを相当とする。しかるところ、前記のとおり、本件許可処分当時、使用済燃料は動力炉・核燃料開発事業団等の再処理施設で処理できる見込みであつたことが認められる。しかして、使用済燃料の処理については、被告の政策的判断が強く働く(規制法四四条参照)ところであるから、右の程度の判断がなされたことが相当性を逸脱するとは断じ難く、本件許可処分は、使用済燃料の最終処分の審査について違法ありとはみられないものである。
四原子炉の使用を廃止した後の措置について
原告らは原子炉の使用を廃止した後の措置をも、本件許可処分の際に審査しておかなければならない旨主張するけれども、規制法二三条二項、規則一条の二の解釈に照らし、原告らの右主張は理由がない。
五温排水について
原告らは、温排水の影響は規制法二四条一項四号の原子炉による災害に当たるから、本件許可処分に当たり審査しなければならない旨主張する。しかし、右同様規制法二三条二項、規則一条の二に照らし、右は本件許可処分における審査の対象とはならないものと解するのを相当とする。もつとも、右規則一条の二第二項六号には、原子炉を設置しようとする場所に関する社会環境等の状況に関する説明書を設置許可申請書に添付すべきことが要請されているが、右の社会環境等とは、人口分布、交通等、人の社会活動に関する事象を指すのみならず、右は原子炉を設置しようとする場所に関してのことであつて、原子炉設置後の事象にまでは触れていない。
したがつて、原告らの前記主張は理由がない。
第四 事故防止対策
一原子炉における事故の危険性とその発生の可能性について
1原子炉における事故の危険性
(一) 原子炉における核分裂反応は、熱エネルギーを発生させる際に、同時に極めて毒性の強い核分裂生成物やプルトニウム等の放射性物質を大量に産出すること、原子炉より産出されるプルトニウムは極めて危険な存在であり、その半減期は二万四〇〇〇年という極めて長いものであること、ICRPによるプルトニウムの最大負荷量の勧告値、本件原子炉を一年間運転することによつて、約一五〇キログラムのプルトニウムが産出されること、コクラン、タンプリン博士がホツトパーテイクル説を発表して、現在のICRPのプルトニウムの最大許容負荷量の勧告値が、高すぎるとして、論争を起こしていること、また、放射性物質の毒性の特質は、これまでの石油コンビナート等に関する公害紛争で問題にされてきた、いわゆる化学的物質とは全く異質性を有する点にあること、すなわち①放射性物質が発する放射線は、人体に与えるその作用力の大きさにもかかわらず、たとえ、致死量の放射性物質にさらされていても、人間の五感によつてそれを感得し得ず、特別の検知装置によつてしかその存在を確知し得ないやつかいな性質を有すること②現在の科学水準では、放射性物質の毒性を無毒化することは不可能であり、したがつて、いつたん生産された以上、自然の法則に従つて放射性物質が放射線を出しつつ漸次崩壊し、放射性を減衰してゆくのを待つ以外には対策がないことについてはいずれも当事者間に争いがない。
そして、証人久米の証言によると、本件原子炉の場合、一年間の操業によつて、ヨー素約八〇〇〇万キユリー、セシウム約二〇〇万キユリー、ストロンチウム約一〇〇万キユリー、その他プルトニウム等、すべてを合わせると約一〇億キユリーという膨大な放射能を含む核分裂生成物等が蓄積されることが認められる。右認定を覆えすに足る証拠はない。
(二) 原子力発電所の原子炉は、原子爆弾とは構造が異なるので、たとえ原子炉が制御不能に陥つたとしても、TNT火薬換算数万トン相当といつた爆発を起こすことはないこと、しかし、原子炉の中に蓄積した大量の放射性物質が原子炉の事故等により広く環境に放出されれば、人や農作物等に与える災害は、他のいかなる種類の産業による災害とも比較できない程に甚大になるのはもちろん、放射性物質によつて汚染された土地や海は長期にわたつてその利用を制限されざるを得なくなること、アメリカで昭和三二年(一九五七年)に行われたブルツクヘブン国立研究所の報告(WASH―七四〇)によると、当時はまだ大型の商業用原子炉は稼働していなかつた時代であつたので、電気出力約一六万キロワツト(本件伊方原子力発電所はその3.5倍に当たる)の原子炉を例に事故評価を行つたところ、事故が発生して炉心に溜つている高レベルの放射性廃棄物の五〇パーセントが大気中に放出され、更に、大気の逆転層が存在するなどの悪条件が重なると、三四〇〇人が即死し、四万三〇〇〇人が急性病で倒れ、損害は当時の金額で約七〇億ドル(二兆一〇〇〇億円)にのぼると推定されたこと、また、昭和三五年に科学技術庁が日本原子力産業会議に委託した結果「大型原子炉の事故の理論的可能性及び公衆損害額に関する試算」が作成されたが、それによると伊方原子炉の三分の一弱の熱出力五〇万キロワツトの原子炉において、大事故の場合には、例えば、揮発性の放射性物質がすべて放出され、最悪の気象条件下であるとしたときには、七二〇人の急性障害死者、五〇〇〇人の障害者及び一三〇万人にも及ぶ要観察者が生じ、経済的な損害も当時の価格で一一四〇億円に達すると推定されたことについてはいずれも当事者間に争いがない。
2原子炉における事故発生の可能性
アメリカのアイダホ国立原子炉試験場でのSL―I原子炉は、熱出力三〇〇〇キロワツトの小型の原子炉であつたが、その事故によつて三名の死者、復旧作業に従事した数百人の被ばく、及び一三億〇五〇〇万円の損害を出したこと、その被害の程度については、事故が広大な敷地内で発生したため、被害を極めて小さいものにしたという幸運が指摘されていること、また、イギリスのウインズケール原子炉は、熱出力一万キロワツトと推測される原子炉であつたが、その事故は、死者が全く出ない比較的軽度の事故であつたにもかかわらず、長さ約五〇キロメートル、幅約一六キロメートルにわたる広汎な地域から生産される牛乳が一か月半もの間使用禁止になつたこと、この時、大気中へ放出された放射性物質の量はヨー素二万キユリー、セシウム六〇〇キユリー、ストロン九〇キユリー等であつたと推定されていること、熱出力一六五万キロワツトの伊方炉のように、スケールアツプされた原子炉のもつ潜在的危険性は巨大なものであり、したがつて、原子力発電に伴つて原子炉の中に発生する放射性物質は確実に管理することが絶対的な要請となること、なお、放射性物質の毒性からの被害の発生を防ぐには、放射性物質をできる限り人体等に影響を与えない形態で隔離し、これを完全に制御し、保管するという方法しかないこと、特に放射性物質を大量に環境に放出する原子炉事故は絶対に起こしてはならず、仮に何らかの原因で原子炉事故が発生しても、放射性物質を環境へ放出することは未然に防止しなければならないこと、目下、原子炉の大型化が進められていること、被告が安全だとして出航させた原子力船「むつ」に中性子漏れ事故が発生したこと、被告が原子力損害の賠償に関する法律を制定する手続をとり、これを成立させたこと並びに、ラスムツセン教授によつて行われた、発電用原子炉の安全性研究(WASH―一四〇〇、アメリカ原子力規制委員会、昭和五〇年(一九七五年)、いわゆるラスムツセン報告)では、原子炉における設備機器の故障確率等を技術分野における調査から算出し、いろいろな規模の事故、災害の起こりやすさを推定し、原子力発電における事故、災害の確率は他の産業に用いられている施設、設備機器における同じ規模の事故災害の発生確率に比べて約一〇〇〇分の一程度であり、ほぼいん石の落下による事故の発生確率と同等程度のものであることを明らかにしていること、についてはいずれも当事者間に争いがない。
ところで、証人内田の証言によると、前記の事故を起こしたSL―Ⅰ、ウインズケールの各原子炉は、いずれも特殊な目的の下に建設されたプルトニウム生産炉(ウインズケール原子炉)や、可搬型軍用原子炉(SL―Ⅰ原子炉)であり、今日の発電用原子炉が何重もの防護措置を講じられ、何らかの異常が起こつても、事故に至るはるか事前の段階で防止されるようになつているのに比べると、右のウインズケール原子炉やSL―Ⅰ原子炉においては、何ら安全対策が講じられていなかつたのに等しいものであることが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。なお、原告らは、今日の高出力の原子炉の方が右各原子炉よりもはるかに危険である旨主張するけれども、原子炉事故の発生した場合における被害の規模の点を別とすれば、右原告らの主張を認めるに足る確たる証拠はない。
なお、証人内田は、右ラスムツセン報告は、極めて信用度の高いものであり、しかも、その一〇〇万年に一回という事故発生確率は、現実に起こるという事故をいうものでなく、その可能性を示すものにすぎない旨述べ、更に、現在までに運転されてきた原子力発電所の運転経験を通算すると、一千炉年になるが、その間事故がなかつた旨証言する
しかし、<証拠>によれば、ラスムツセン報告について、すでにアメリカ国内でも①それは原子炉自体の検討にとどまり、トラツク、鉄道、荷船による放射性物質の輸送、放射性廃棄物の処理、サボタージユ、窃盗あるいはテロ行為の危険、核燃料再処理工場、ウラン採鉱過程、廃棄物などの現実に機能する原子力発電の全過程を問題にしていないのはもちろん②確率評価の方法が他から借用してきたものであり、原子力発電独自のものとしての妥当性は疑わしいこと③事故の影響を軽減する唯一、最大の要因として、避難に頼つているが、同報告が予定しているような住民の急速な避難は現実には不可能であること④ラスムツセン報告を前提としても、同じ量の放射性物質が放出されるとしての死者数に誤算があり、正しく計算すれば死者の数は桁違いに上昇すること等の問題点が指摘されていること、また、一千炉年無事故説については、原子炉の規模の大小、型式の違い、運転期間の長短を無視して各原子炉の運転期間を単純に合算したうえで一千炉年の経験になるとして、その間無事故であるというもので、科学的推論の方法とはいえないこと、なお、原子炉の運転経験がまだそれ程多くない現状では、原子炉特有の物性が十分には握されているものとはみられず、ましてや人為的な事故については、もともと確率計算をするのに適当な程の多数の経験が現在までの原子炉の運転等によつて得られているとはみられないこと、したがつて、原子炉の事故発生を確率的に評価することの妥当性には疑問があることがいずれも認められる。したがつて、前示、ラスムツセン報告や証人内田の証言する一千炉年無事故説から、直ちに本件原子炉には事故発生の危険がないと認めることはできない。しかし、また、他方前記争いのない事実である原子炉の大型化が進められていること、原子力船「むつ」の事故、原子力損害の賠償に関する法律が制定されたことはいずれもこれのみで本件原子炉において原子炉事故が発生することを推認できるものではない。
3原子炉の安全確保の技術について
前記のとおり本件原子炉と同型の原子炉はもちろん、その他の商業用原子力発電所において、周辺公衆に被害を及ぼすべき事故は過去に一度も発生していない。
また、<証拠>によれば、玄海一号炉は、本件原子炉の設計者である三菱重工が設計したもので、本件原子炉と同じ構造及び熱出力を有する加圧水型原子炉であるが(右については当事者間に争いがない)、昭和五〇年一月にその運転を開始して以来、二件の軽微な故障が起きたことを除き、順調に運転されており、その稼働率は99.4パーセント(昭和五一年一月から同年一〇月までの間)に達していること、本件原子炉についても、昭和五二年一月二九日臨界に達した後、二〇パーセント、三五パーセント、五〇パーセント、七五パーセントの各出力段階の下において、必要に応じて各種試験が行われ、原子炉及び発電設備ともすべて所定の機能を有していることが順次確認され、発電を開始してから昭和五二年五月二七日までの発電量は四億四七〇〇万キロワツトに達し、更にその後、総発電量約五億八〇〇〇万キロワツトに達した段階で、そのうち約八九パーセントが実際に外部へ送電されたことがいずれも認められ、右認定に反する証拠はない。
次に、<証拠>によれば、(1)原子炉が他の各種産業設備と同様に、本来危険性を有するものであること、また、一般論として機械に故障がつきものであるということも肯定し得ること、発電用原子炉の開発、利用にたずさわる者はすべて右の事実を認識しており、それ故に、発電用原子炉の開発に当たつては、この危険性をいかにして顕在化させないかの科学技術の検討が積み重ねられたこと、その結果現在の原子炉が実現されたこと、すなわち、発電用原子炉は、他の産業設備の場合には見られない程慎重に、安全確保に関する諸々の配慮がなされるべきであるとの基本的な考え方に立つたうえで、現在の社会において広く利用されている科学技術と、これまでの原子力等に関する膨大な研究、開発により得られた科学技術とを駆使して作り上げられた、他の産業設備の場合には稀な信頼性の高い工学技術体系を導入していること、(2)その技術的観点から見た特徴は、後記二の1の(二)の(2)ないし(7)掲記の如きものであること、(3)しかし、施設、設備、機器の基本的設計方針が十分であつても、それらが実際に右方針に沿うように製作、建設され、また、保守、管理されなければその目的を達成することができないので、規制法等において更に、設置許可段階、設置段階、運転の段階に応じて必要な規制が行われるようになつていることがいずれも認められる。
原告らは、原子炉の安全防護技術は未完成であり、その規制も不完全にしか行われていない旨主張し、証人藤本は右原告らの主張に添う証言をする。なお、<証拠>も右主張に添うものである。しかし、右各証拠は前示各認定事実に照らし直ちに採用できず、他に前記各認定を覆えすに足る証拠はない。
なお、原告らは我国では、ただ外国の技術にのみ頼って原子炉を開発している旨主張するが、右主張事実を認めるに足る証拠はなく、また、仮に右主張事実が存在するとしても、このことから直ちに、原子炉の安全技術が未完成であると認めることはできない。
二本件原子炉の安全性確保に対する配慮について
1本件原子炉の安全性確保に対する配慮
(一) 本件安全審査において、本件原子炉についての安全確保のために、(1)設備、機器は、その健全性を維持するために、材料の選択、製作の段階における管理を重視することとしている。(2)設計に際しては、それぞれ所要の安全余裕をもたせるとともに、安全上特に重要な設備、機器については、更に荷酷な使用条件等を前提として、それに対しても安全余裕をもたせ、また、部分的な異常に対しても、これが故障につながらないように重複性をもたせている。(3)万一の機器の誤動作や、運転員の誤操作があつた場合でも、原子炉の安全に関わるような異常状態が発生することを防止するため、原子炉各部の状態をは握する計測装置及び計測装置によつて得られた計測値に基づき各機器を制御する制御装置のうち、安全上重要な計測制御装置については、計測装置の検出回路、論理回路等に重複性、独立性をもたせ、制御装置に故障が起こつた場合に安全サイドに働く、いわゆるフエイル・セイフや所定の条件が整わなければ作動しないインターロツク等種々の配慮がなされている。例えば、原子炉出力の制御のために、制御棒クラスタを炉心に出し入れするのを制御する際の基準として使用する一次冷却材平均温度は、それぞれ独立に測定して求めた四つの平均値のうちの最高温度をあてるようになつており、また、制御棒クラスタ駆動装置については、その駆動電源が失われた場合には、すべての制御棒クラスタが自動的に炉心に落下して原子炉を停止することになつている。また、制御棒は、原子炉内の中性子量が定められた量に達した場合には引き抜きが阻止されるようになつている。(4)本件原子炉の安全上重要な設備、機器は、原子炉の運転が開始された後においても、その性能が引き続き確保されていることを確認するための試験ができるような構造となつている。(5)本件原子炉では各種の制御信号を正確かつ速やかに処理して、その運転を安全に継続するため、自動調整装置が備えられている。例えば、原子炉の圧力が、その規制値を上下した場合には、圧力制御装置が作動して、加圧器のスプレイ流量の増加又は電熱ヒーターの発熱量の増加によつて、規制値に戻され、自動的に一定に保たれる。なお、一次冷却材圧力バウンダリ内の圧力が異常に上昇するような事態に備え、加圧器に設置された圧力逃し弁及及び安全弁の自動開放により過圧による一次冷却材圧力バウンダリの損傷を防止する機構となつている。更に、一次冷却水の温度は、原子炉の出力が全出力の一五パーセント以上に達した場合に、制御棒を自動的に上下させることによつて、タービン、発電機の出力に見合つた温度になるよう自動調整される。(6)運転中、原子炉施設内外において、異常状態が発生した場合、これを、すばやく、かつ、確実に検知するため、原子炉圧力容器周辺、原子炉施設内外の所要の箇所に、その箇所に応じた機能を発揮するような、計測監視装置が設けられており、異常を検知した場合には警報を発することとなつている。(7)右の計画、監視装置によつて異常状態を検知した場合には、運転員の操作を待つことなく、自動的に原子炉を緊急停止させるなど、異常状態の拡大を防止するための所要の措置を講ずることのできる重複性、試験可能性を有する信頼性の高い安全保護装置を備えている。例えば、中性子量の異常な増加、一次冷却系内の圧力の異常な変動、電源の喪失等原子炉の運転を継続した場合に安全上支障が生ずるおそれのあるような異常な状態が発生した場合には、自動的に全制御棒を緊急に挿入し、燃料を損傷することなく、原子炉が停止し得るような原子炉停止系を備えるとともに、右制御棒が作動しない場合の備えとして、中性子を吸収するボロン溶液を急速に注入する装置を備えている。(8)運転開始後の原子炉においては、毎年一回、定期的に原子炉を停止し、原子炉各部の詳細な試験、検査を実施することとなつており、運転中に検知し得ないような異常のきざしの現われも検知し、所要の対策が講じられるようになつている。(9)更に、後記のように、工学的安全防護施設を具備していることから、本件原子炉の安全性に対する配慮は十分なされているものと判断したことについては、いずれも当事者間に争いがない。
(二) <証拠>を総合すると、(1)本件原子炉の設備、機器は、材料の選択、製作の段階における管理を重複するようにしていること、(2)設計に際しては、それぞれ所要の安全余裕をもたせるとともに、安全上特に重要な設備、機器については、更に荷酷な使用条件等を仮定し、それに対しても耐え得るような安全余裕をもたせるとか、あるいは部分的な異常に対しては、これが故障につながらないように、それらに重複性をもたせることにしていること、例えば、原子炉圧力容器については、一次冷却系の異常な圧力上昇に耐え得るような設計がなされていること、また、予想される種々の異常な圧力上昇の発生ひん度を大きく見積り、こうした事態が繰り返し発生したとしても、耐えられるような構造を有していること、また、補機冷却系統設備、非常用電源設備等は、これを構成するポンプやデイーゼル発電機に予備機を有しており、これらの一つに異常が生じた場合にも、予備のものが作動し、設備全体としては所定の機能を発揮できるように重複性をもたせていること、(3)本件原子炉においては、機器の誤動作や運転員の誤操作を防止するために、機器が信頼性あるものであることとする配慮がなされているほか、更に、万一、機器の誤動作や運転員の誤操作があつた場合でも、原子炉の安全に関わるような異常状態が発生することを防止するための設計上の配慮として、原子炉各部の状態をは握する計測装置及び計測装置によつて得られた計測値に基づき、各機器等を制御装置のうち、安全上重要な計測制御装置については、計測装置の検出回路論理回路等に重複性、独立性をもたせるとか、制御装置において故障が起こつた場合に安全サイドに働くいわゆるフエイル・セイフや所定の条件が整わなければ作動しないインターロツク等、種々の配慮がなされていること、例えば、安全上重要な計測制御装置の一つである制御棒クラスタ制御系は、原子炉出力の制御のために、制御棒クラスタを炉心に出し入れするのを制御する装置であり、出力に対して、一次冷却材平均温度が低い場合には制御棒を引き抜き、逆に高い場合には制御棒を挿入するものであるが、その際に使用する一次冷却材平均温度は、それぞれ独立に測定して求めた四つの平均温度のうち、最高温度をあてるようになつており、検出器が故障するなどして平均温度を実際よりも過小評価し、誤つて制御棒が引き抜かれることのないような構造となつていること、更に制御棒クラスタ駆動装置についても、その駆動電源が失われた場合には、すべての制御棒クラスタが自動的に落下して原子炉を停止することとなつていること、また、誤操作等により、制御棒が誤つて引き抜かれ、原子炉の中性子量が異常に増大し、あらかじめ定められた量に達した場合には、それ以上の引き抜きは自動的に阻止されることとなつていること、(4)本件原子炉の安全上重要な設備、機器は、その信頼性を常に保持するため、その性能が引き続き確保されることを確認するための試験ができるような構造となつていること、例えば、安全保護系は、原子炉の運転中においても、検出器の出力信号の測定によつてその健全性を確認できるほか、テスト用の模擬出力信号によつて原子炉の停止用遮断器が設計どおり作動することができることまで確認できること、非常用炉心冷却設備の高圧注入系及び低圧注入系は、試験用配管が別途設置されており、運転中においても、ポンプを中心とする作動試験を定期的に実施することができること、また、原子炉格納施設は、必要に応じてその内部を加圧し、また、配管等の貫通部については、それぞれその内部を加圧することによつて気密性を確認することができることになつているほか、格納容器スプレイ系は別途に設置されている試験用配管を用いて作動試験を実施することができ、アニユラス空気再循環設備は、必要に応じて運転してみることによつてその性能を確認することができることになつていること、(5)本件原子炉では、各種の制御信号を正確かつ迅速に処理してその運転を継続するため、自動調整装置を備えていること、例えば、原子炉の状態を左右する原子炉の圧力は、圧力制御装置によつて、これが規定値を下回つた場合には、加圧器の電熱ヒーターの発熱量を増加させることによつて、また、上回つた場合には、加圧器スプレイ流量を増加させることによつて、いずれも規定値に戻され、自動的に一定に保たれるようになつていること、なお、一次冷却材圧力バウンダリ内の圧力が異常に上昇するような事態に備え、加圧器には圧力逃し弁及び安全弁を設置しており、これらの弁の自動開放により、過圧による一次冷却材圧力バウンダリの損傷を防止する機構となつていること、また、加圧器の水位は、化学体積制御設備によつて原子炉出力に見合つた水位になるように一次冷却系への給水量が自動的に制御されること、更に、一次冷却系の温度は、原子炉の出力が全出力の一五パーセント以上に達した場合には、制御棒を自動的に上下させることによつてタービン発電機の出力に見合つた温度になるよう自動調整されること、(6)本件原子炉は、以上のような配慮にもかかわらず、万一運転中に何らかの異常が発生した場合には、その異常状態が更に拡大することを防止するため、異常状態を検知する計測監視及びその異常状態の拡大を防止する安全保護装置が設けられ、これらの装置によつて所要の措置がなされるようになつていること、すなわち①本件原子炉には、運転中原子炉施設内外において発生した異常状態を検知するために、原子炉圧力容器周辺、原子炉施設内外の所要の箇所に次のような計測監視装置が設けられており、異常を検知した場合には警報を発することとなつていること、すなわちその第一は、炉心各部における核分裂反応の変化や異常の有無を監視するため、原子炉圧力容器の外周には、炉心の中性子量を監視する計測装置があり、第二に、原子炉施設内の主要箇所における異常の有無を監視するため、一次冷却系、化学体積制御系、廃棄物処理系等の所要の箇所にはそれぞれ原子炉施設内における温度、圧力、流量等を監視する計測装置が設けられ、第三に、原子炉施設内外における異常な放射能の有無を監視するため、化学体積制御系、二次冷却系、廃棄物処理系、格納容器、補助建家等の所要の箇所や、前記のとおり、放射性物質の大気又は海水への排出口、屋外の周辺監視区域境界付近等安全確保上必要な箇所には、それぞれ放射線量を監視する放射線監視装置が設けられている。このような本件原子炉においては、右各種計測監視装置によつて、運転中における異常状態の発生が検知できるようになつていること②なお、本件原子炉においては、燃料の異常状態を検知するため、一次冷却水の浄化を行う化学体積制御系の配管の途中に設置された放射線モニタにより、一次冷却水中の放射性物質濃度の変化を常時監視し、更に、定期的あるいは適時に一次冷却水をサンプリングし、放射性物質濃度を測定して、燃料棒からの放射性物質の漏洩を検知できるようになつていること、また、燃料集合体内に挿入できる可動小型中性子束検出器により出力分布を測定し、出力分布に異常を与えるような燃料棒の異常の発生を検知できるようになつていること③本件原子炉においては、原子炉圧力容器や配管等からの一次冷却水漏洩という異常状態を検知するため、格納容器内に各種モニタ等からなる一次冷却材圧力バウンダリ漏洩検知設備を設け、右異常状態を検知できるようになつていること、すなわち、本件原子炉の一次冷却系においては、これを構成する機器、配管の接合部より冷却水が漏洩しないように配管されているが、ポンプや弁の駆動軸のすき間からの冷却水の漏洩は完全には防ぐことがでないので、更にここからの漏洩水を配管を通してタンクへ集めるような構造としており、この結果、一次冷却水から格納容器雰囲気中への漏洩をわずかな量に抑えることができること、このため原子炉圧力容器や配管等から一次冷却水の漏洩が生じた場合には、格納容器内に設けられた格納容器塵埃モニタ及びガスモニタによつて検知され、また、格納容器内に漏洩してくる水を貯蔵する装置の水位量の変化によつても検知できること、なお、一次冷却材圧力バウンダリからの一次冷却水の漏洩があれば、充てんポンプ流量が増加することになるので、右充てん流量の監視及び警報等によつても、漏洩を検知することができること、右の各種装置によつて、漏洩は検知され、更に検知された後は、充てんポンプ流量の自動増加や予備機の起動によつて、一次冷却材圧力バウンダリ内の冷却水量の減少を防止するとともに、原子炉の停止等の所要の対策を講ずることになつていること④本件原子炉においては、蒸気発生器細管の異常状態を検知するため、復水器空気抽出排ガス系及び蒸気発生器ブローダウン系にそれぞれ放射線モニタを設置し、蒸気発生器二次側の放射性物質濃度の高まりを検知すること、検知後は直ちに原子炉の運転を停止するとともに、空気抽出器排ガス系をチヤコールフイルターを設置した回路に切り換え、また蒸気発生器ブローダウン系を閉鎖し、ブローダウンタンクの中の水を廃棄物処理設備へ導くなど、放射性物質の環境への放出を防止する一方、損傷した細管に盲栓工事をするなど所要の措置を講ずることになつていること、(7)本件原子炉には、前記の計測監視装置によつて異常状態を検知した場合には、運転員の操作を待つことなく、自動的に原子炉を緊急停止させるなど、異常状態の拡大を防止するための安全保護設備を備えていること、例えば、本件原子炉には、中性子量の異常な増加、一次冷却系内の圧力の異常な変動、加圧器水位の異常な上昇及び蒸気発生器の水位の異常な低下、電源の喪失等、原子炉の運転を継続した場合には安全上支障が生ずるおそれのあるような異常状態が発生した場合には、自動的に全制御棒を緊急に挿入し、原子炉を停止し得るような原子炉停止系を備えるとともに、右制御棒が作動しない場合の備えとして、中性子を吸収するボロン容液を急速に注入する装置を備えていること、(8)なお、以上のほかに毎年一回定期的に原子炉を停止し、原子炉各部の試験、検査をすることになつていること、そして、運転中に検知し得ないような事実を検知したときには、直ちに所要の対策を講ずることがいずれも認められる。
原告らは、右につき被告の主張に対する原告らの反論第七の二の(二)掲記のとおり主張する。なお、従来各地の原子炉において各種の事故(トラブル)が発生したこと、そのため我が国の原子力発電所の平均利用率が昭和四九年、昭和五〇年ころ極端に悪かつたこと、本件原子炉への燃料装荷中に原告ら主張の如き事故を惹起したこと、その事故の原因についてはいずれも当事者間に争いがない。そして、<証拠>も右主張に添うものである。
しかし、本件原子炉の燃料、蒸気発生器、原子炉圧力容器、ECCSの健全性、本件原子炉敷地の適合性、耐震設計の問題については後記(第四の二の2ないし4、同三)のとおりであり、なお、ポイントビーチ一号炉における蒸気発生器細管事故、美浜一号炉における燃料棒折損事故等について、本件原子力発電所においては、これらの事故防止対策がとられていることも後記(第四の二の3の(二)の(8)、同二の2の(二)の(10))のとおりである。また、<証拠>によれば、我が国の原子力発電所においては、アメリカのブラウンズフエリー原子力発電所の火災事故の原因となつた、ろうそくでシールの具合をみるというようなことは考えられないこと、したがつて、不必要な発火源はないこと、また、同発電所のように可燃性の高いポリウレタン材料は使用されていないこと等の事故の発生、拡大の要因が少ないうえに、右事故に鑑み、安全上重要なケーブルは、難燃性のものに延焼防止塗料を厚く塗布したものを使用するうえ、物理的にも分離して設置するなどし、かつ、防火対策及び多重性維持のための対策が講じられたこと、したがつて我が国ではブラウンズフエリー発電所における火災事故の如き事故が発生する可能性は少ないものとみられることがいずれも認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
そして、<証拠>によれば、その他従来各地の原子炉で発生した事象についても検討して相応の対策を施していること、圧力容器等には重複性がないとしても、ECCS、アニユラス空気再循環設備、格納容器スプレイ等の重要な安全防護施設には、重複性があることがいずれも認められる。なお、燃料棒装荷ミスの問題が本件原子炉の安全性に多大な影響を与えるものであると認めるべき証拠はない。なお、周辺住民の生命、身体に影響を及ぼすような事故が商業用発電所では過去に起こつていないことは前記のとおりである。そして、これらの諸点に照らし、前記争いのない事実及び前記原告らの主張に添う証拠は、前示認定を左右するに足らないものであり、他に前示認定を左右するに足る証拠はない。
(三) 以上の認定に照らすと、本件安全審査において、本件原子炉はその安全性確保のための配慮が十分になされているとした前記判断は相当と認められる。
2燃料及び炉心の健全性について
(一) 本件安全審査において、本件原子炉の炉心は、バーナブル・ポイズン等により出力分布の平担化が図られていること、また、炉心の熱設計は燃料ペレツトの中心溶融を起こさないこと及びDNB比が1.3を下らないことを基準としていて、設計過出力(一一二パーセント)時でも燃料ペレツトの最高中心温度は、溶融点よりかなり低く保たれ、DNB比もかなり余裕があること、燃料棒は冷却材の流動による振動、回転などを防止し、被覆材と支持格子の相互作用を防ぎ、軸方向には自由な膨張を許し、熱膨張による変形を防止する設計となつていること、被覆管は水素吸収率の小さいジルカロイ四が使用され、燃料棒は過渡状態を含め運転中に健全性を損なわないよう、かつ、予想される熱及び機械的荷重に対して十分余裕のある設計がなされていること、また、管内の自由体積は燃料ペレツトの最高燃焼度に応じ得るよう配慮されていること、更に前記のとおり中性子束検出器によつて中性子束を直接測定し、炉心の状態を監視し、これに基づいて出力の制御等がなされることになつていること等から、本件原子炉の炉心設計及び燃料の設計は安全性を確保できるものと判断したことについてはいずれも当事者間に争いがない。
(二) ①本件原子炉の燃料及び炉心の構造、機能は、燃料ペレツトの焼結温度、同焼結密度、炉心の不安定により危険があるとの点を除いて、請求の原因第四章の第二の一のとおりであること②本件原子炉の炉心核設計において、ホツトチヤンネル係数Fqが2.67となつていること③燃料は熱的条件によつて損傷することがあり得ること、その第一は、燃料被覆管表面が局部的に温度の上昇した蒸気で覆われ、その結果、燃料被覆管を通しての熱除去が不十分になつた場合で、被覆管が焼損する場合であり④その第二は、燃料ペレツトの中心温度が、その設計で予想した温度よりも上昇し、ひいては燃料ペレツトが、その体積を増すことによつて、燃料被覆管を圧迫する場合が考えられること⑤燃料ペレツトの温度は、それが挿入されている燃料の棒の原子炉内の位置によつても、また、燃料棒内の位置によつても異なること⑥燃料被覆管は、原子炉運転時には、燃料ペレツトから侵出した主としてガス状の核分裂生成物による内圧、百数十気圧という一次冷却水による外圧、一次冷却水の流動による繰り返し応力等各種の応力を受けており、また、長時間これらの応力を受けることにより変形(歪み)及び疲労を生ずること⑦一般に加圧水型原子炉の燃料は、使用期間中、燃料棒内圧を一次冷却水の外圧以下に保つことによつて、内圧による燃料被覆管の円周方向引張り変形(径を膨張させる方向への歪み)が発生することを抑制しているが、そのため、前記応力を長期間受けることと、加圧水型原子炉の使用温度との関係で、長い間にはクリープ変形が生じ、燃料被覆管の径を縮めることとなること⑧一方、燃料ペレツトは、初期には焼きしまりにより収縮するが、燃焼が進むと後記のスエリング現象により体積を増し、そのため使用期後半には燃料被覆管と接触して、これを外に向かつて押し返す可能性があり、この押し返す変形が極端な場合には被覆管に破損の生ずる可能性があること、燃料被覆管には、原子炉の出力変化、運転とその停止に伴う外圧と内圧との差の逆転等による繰り返し応力がかかること⑨燃料被覆管は、その外側が一次冷却水によつて酸化され、また、被覆管内側は、水分がある場合には水素化されるなど、化学的に腐食することがあり、右化学的腐食が集中した場合には、局部的に損傷し、放射性物質を漏洩する可能性があること、また、被覆管内側で発生するヨー素等の核分裂生成物は、燃料被覆管と燃料ペレツトとの間の局部的な接触による強い応力と相乗した場合には、局部的な腐食(応力腐食)の原因となり、被覆管を損傷し、放射性物質の漏洩を起こす可能性があること⑩燃料被覆管に中性子が当たることによつて、その材料中に空孔ができたり あるいは不純物の発生により材料が硬化し、強度が増すが、脆くなり(照射損傷)、この照射損傷により燃料被覆管の延性が著しく低下した状態において、燃料被覆管に異常な荷重が加わつた場合には被覆管の破損する可能性があること⑪燃料棒とその支持格子バネ部との周期的接触により、燃料被覆管の腐食が促進されることがあり(フレツテイング腐食)、フレツテイング腐食により燃料棒被覆管が局所的に薄くなつた場合には、燃料棒の破損に至る可能性があること⑫燃料棒の曲がり現象の発生が完全に防止できないこと⑬燃料被覆管にひび割れやピンホール現象が発生すること⑭燃料棒の折損の現象が発生したこと⑮燃料ペレツトの焼きしまりが生ずると、燃料ペレツトの軸方向長さの短縮により、通常の場合は、各燃料ペレツトが燃料被覆管内において順次燃料棒下方に移動する結果、プレナム部の体積が増大することとなるが、何らかの原因が重なつて、右の円滑な移動が妨げられ、燃料棒中の燃料ペレツトと燃料との間に空間が生じた場合には、内圧と外圧との大きな差によつて、右空間部分の燃料被覆管が偏平になることがあり⑯また、焼きしまりによつて燃料ペレツトの直径が減少することにより、燃料ペレツトと燃料被覆管との間隔が広がつて、この間の熱伝達度(率)が悪くなり、この結果、燃料中心温度が高くなる可能性があること⑰原子炉の運転中には、燃料ペレツト中心部と外周部との間に大きな温度勾配ができるため、熱膨張差による熱応力が生ずる。そして、この熱応力が燃料ペレツトの破壊強度を超えた場合には、ひび割れが生ずる。なお、燃料ペレツトの温度が一四〇〇第C以上になると、ペレツト片同士がゆ着するため、原子炉の出力の変動により、燃料ペレツトのひび割れの状態は複雑になるし、また、このひび割れにより生じた燃料ペレツト片は、燃料ペレツトと燃料被覆管との間隙を埋める方向、すなわち外側方向に移動する傾向があるため、燃料ペレツトと燃料被覆管との間隙は、燃料ペレツトの熱膨張だけを考えた場合よりも狭くなること⑱燃料ペレツトが核分裂生成物の蓄積に伴つて膨張し、その体積が増加する現象をスエリングと呼んでおり、円柱形の燃料ペレツトは燃膨張による変形と相まつて、このスエリングのために、つづみ形になつて燃料ペレツト上下端面がふくれることがある。そして、このスエリング現象が著しくなると、つづみ形変形の両端面において、つば形にはり出した部分が、燃料被覆管の内部から食い込んで、これを外に押し、局部的に、大きな円周方向引張り変形を生じさせ、燃料被覆管を破損する可能性が出てくること⑲燃料ペレツトは、燃焼に伴つて核分裂生成物を発生するが、気体状の核分裂生成物の一部は反跳によつて直接燃料ペレツトから放出されるか、あるいは燃料ペレツト内の温度勾配によつて移動し、燃料ペレツト表面又はき裂面に出て燃料ペレツトから遊離することによつて、燃料ペレツトと燃料被覆管との間隙に蓄積されることとなる。その結果、燃料棒の内圧が高くなるとともに、右間隙部の熱伝達度が低下し、燃料ペレツトの中心温度が上昇することが考えられること⑳燃料ペレツトの融点は、燃焼が進むにつれてその内部の核分裂生成物等の量が増加するため、次第に低くなり、最も燃焼が進んだ段階においては、約二六五〇度Cまで下がることが知られていること本件原子炉で、燃料棒の損傷を避けるために、原子炉の起動、停止をゆつくりとしたことについてはいずれも当事者間に争いがない。
そして、<証拠>を総合すると、(1)本件原子炉の炉心核設計について、炉心全体の出力の平担化の程度を示すホツトチヤンネル係数Fqを2.67としたことの相当性を按ずるに、本件原子炉と同じ原子炉メーカーによつて作られた同型炉であり、したがつて、ホツトチヤンネル係数を使用した解折は、本件原子炉と同じ手法をとつたものと推認されるアメリカのサンオノフレ(SCE)発電所及び関西電力美浜一号炉における各出力分布の設計値と実測値との比較、同サンオノフレ(SCE)発電所及びセルニ発電所における各炉心のほう素濃度の設計値と実測値との比較、同コネチカツトヤンキー発電所の原子炉における温度係数の設計値と実測値との比較をみると、いずれも設計値と実際の炉心における測定値がよく合致していること、また、本件原子炉と同じ原子炉メーカーによる同型、同出力炉である九州電力玄海一号炉(右については当事者間に争いがない)における運転実績によれば、臨界ほう素濃度及び核的熱流束熱流水路係数FNqの実測値は、設計計算値と一致が得られており、更にFqは約2.2以下となつて設計基準値と推認される2.67を下回つていることに鑑み、本件原子炉の炉心核設計でホツトチンネル係数Fqを2.67としたことは相当であるとみられること、(2)炉心熱設計については、燃料被覆管の壁を通つての熱の流れがどの程度の量になれば被覆管の表面で一次冷却水の沸騰が起こり、被覆管表面が蒸気で覆われることによつて、被覆管を通しての熱除去が十分に行われなくなるかということを調べた実験の結果により、原子炉内で起こることが予想される熱流束が、被覆管表面が蒸気で覆われる状態を生ずるようになる熱流束に対して、三割の余裕をもつていれば、右の実験の精度、データのばらつきといつたものを考慮しても、燃料被覆管は焼損しないことが確かめられていることから、本件原子炉の炉心熱設計に際しては、過出力(一一二パーセント出力)の場合において、DNB比(限界熱流束比)が1.3を下回らないことを設計基準としたこと、したがつて、本件原子炉における燃料被覆管は焼損に対しても余裕のあるものとなつていること、(3)また、炉心熱設計に当たつては、燃料ペレツトの中心温度が燃料ペレツトの融点を超えないようになつていること、すなわち、解析の結果では、本件原子炉の燃料ペレツトの最高温度は全出力運転時において約二四四〇度C、前記過出力運転時において約二六四〇度Cと評価されており、燃料ペレツトの融点約二八〇〇度Cを超えるものは存在しないこと、なお、前記のとおり、燃料ペレツトの融点は燃焼が進むにつれて、その内部の核分裂生成物等の量が増大するため次第に低くなるが、次の理由で燃料ペレツトが溶融するとはみられないこと、すなわち、本件原子炉において使用される燃料については、ペレツト中心温度評価に大きな影響を及ぼすペレツトと被覆管との熱伝達率((ギャップ熱伝達率(Btu/h. ft2.F)))について、実際に予想される値三六〇〇を安全側にした値一〇〇〇を採用して、燃料ペレツトの中心温度を実際に予測される中心温度より高くしていること、これによる評価の中心温度でも、燃料ペレツトが溶融することはないこと、したがつて、前記の程度の燃料ペレツトの融点の低下により、燃料ペレツトが溶融することはないと考えられること、(4)次に、本件原子炉には前記のとおりその運転中の燃料集合体の軸方向出力分布を測定するために、燃料集合体内に挿入できる可動小型中性子束検出器四個を設置し、中央制御室からの遠隔操作により、右の出力分布を測定する構造となつているので、出力分布に影響を与えるような燃料棒の異常が発生した場合には、これを検出できること、(5)なお、炉中照射材の実験データ(アイヘンベルグ一九五八年)によれば、燃料ペレツトの熱伝導度(率)が、他の実験の場合に比べて約半分となつていることに照らすと、本件原子炉の燃料ペレツトの中心温度は低く見すぎていることになるが、右実験データは温度範囲が約五〇〇度Cまでであり、五〇〇度C以上では焼きなまし効果により、熱伝導度の低下はほとんど起こらないことが明らかにされていること、(6)本件原子炉の燃料については前記の各種応力、変形及び疲労に対して余裕のある設計となつていること、すなわち、本件原子炉の燃料被覆管に加わる一次冷却水による外圧と、燃料被覆管内の内圧との差により生ずる応力、燃料の使用期間後半に生ずる燃料被覆管とペレツトとの相互作用により応力、燃料被覆管の表面と内面との温度差により生ずる燃応力、一次冷却水の流れによつて生ずる応力、地震によつて生ずる応力、更には右各種の応力等を組み合わせた総合的な応力に対しても、耐え得るように設計されていること、(7)本件原子炉で使用される燃料は前記燃料被覆管のクリープ変形と燃料ペレツトのスエリング現象に備えるため、燃料ペレツトの上、下面にくぼみ(デイシユ)を付けたものを使用するとともに、燃料ペレツトの密度及び燃料ペレツトと被覆管との間隔が、いずれも適切になるように配慮し、円周方向引張変形の程度を、弾性変形を含めて径の一パーセント以下に保ち、燃料の健全性を維持するよう設計されていること、(8)前記燃料被覆管に対する繰返し応力に対しても、本件原子炉の燃料被覆管については、右応力による累積疲労を考慮することによつて、その使用期間中、これを原因として破損することのないよう設計されていること、(9)本件原子炉においては、前記燃料被覆管の化学的腐食及び応力腐食に対して、燃料被覆管の材料に耐食性に優れたジルカロイを使用するとともに、一次冷却水も化学的に高純度の状態に管理することにしているため、燃料被覆管が外側の化学的腐食によつて損傷し、放射性物質の漏洩が生ずる可能性は少ないこと、また、燃料被覆管の内側が水素化し腐食することは、燃料ペレツトの製作時に水分や水素が混入することを厳しく制限することによつて、また、ヨー素等による応力腐食現象の発生は、原子炉の起動に当たつて出力を緩やかに上げること等によつて、それぞれ対処できるものであるため、これらによつて燃料被覆管が損傷し、漏洩を生ずる可能性は少ないこと、(10)従前発生した燃料棒の折損又は燃料支持格子の損傷は、いずれもその主たる原因がバツフル・プレート接合部の間隙が過大であつたために生じた一次冷却水の激しい横流れによるものと推認されており、本件原子炉においては そのためバツフル・プレート組立て時の寸法測定により右間隙が適正であることを確認し、右の現象の防止を図つていること、(11)燃料ペレツトの焼きしまりの原因は、実験の結果によれば、燃料製造時にできた微小の空孔が中性子及び核分裂片による照射を受けることによつて移動し、燃料ペレツトの密度が上がるためであるとみられるていること、燃料ペレツトの焼きしまりの程度は、燃料ペレツトの製造方法によつて異なるものであり、本件原子炉において使用される燃料ペレツトは初期の密度が九五パーセントと高いことから、焼きしまりの程度は極めて小さいこと、また、焼きしまりにくい組織とするために、燃料ペレツトの焼結温度は千数百度C以上としていること、なお、燃料棒の内部にはヘリウムガスを封入し、内圧と外圧との差を減じるようにしてあるので、たとえ燃料ぺレツト間にすき間が生じても燃料棒の偏平化は防止されること、更に、燃料ペレツトの直径の減少による燃料ペレツトの中心温度の上昇については、本件原子炉の場合、中心温度の証価について、前記のように燃料ペレツトと燃料被覆管との間隙の熱伝達度を低く仮定しているので、燃料の中心温度が過大に上昇することはないこと、(12)本件原子炉においては、燃料のひび割れを生ぜしめないように、原子炉の起動、停止方法に配慮するとともに、ひび割れ等によつて発生する気体が燃料棒の中のプレナム部に逃れられるようにし、更に、ペレツトをコイルバネで押えるなどしているので、燃料ペレツトのひび割れが原因で被覆管の破損が生じることはほとんどないこと、なお、ペレツトのひび割れによる熱伝導度の変化は、むしろ安全側にあると推認されること、(13)燃料被覆管は炉内温度に近い六五〇度F(約三五〇度C)において、中性子照射をした場合その全押び量は、未照射のそれに比べれば半分以下であり、著しく延性が低下するが、この照射による延性の低下を考慮しても、弾性的な変形(歪み)限界として一パーントを採れば安全であること、そして、前記のように本件原子炉における燃料被覆管はクリープ変形を付加した円周方向引張変形量として、使用期間を通じて一パーセント以下に保つように設計されているため、健全性が損なわれることはないこと、(14)本件原子炉で使用される燃料棒のバネ圧は燃料棒と同支持格子とを常時接触させ、燃料棒に一次冷却水の水流による振動の影響が及ばないように配慮されていること、なお、従前発生した燃料棒の折損は、一次冷却材により燃料棒が振動し、燃料棒と支持格子バネ部との周期的接触により、燃料被覆管の腐食が進行するいわゆるフレツテイング腐食によるものではないことが調査の結果明らかにされたこと、(15)燃料集合体の設計に当たつては、一次冷却水の種々の流動条件による流動実験が行われ、右流動条件下においても異常が生ずることのない設計であることが確かめられていること、(16)燃料被覆管の材料であるジルカロイは、原子炉内で中性子の照射を受けると、主として軸方向に伸びる性質がみられ、他方、燃料集合体中に挿入される制御棒案内管も同じジルカロイ製なので、中性子照射を受けると燃料被覆管同様に伸びるが、燃料被覆管と制御棒案内管との製造時の熱処理の相違及び燃料棒の方が原子炉内では発熱により温度が高くなることから、燃料被覆管の伸びは制御棒案内管の伸びよりも大きくなること、燃料棒の支持格子は、制御棒案内管に固定されているので、この支持格子の間隔は制御棒案内管の伸びに同調して大きくなるに過ぎないこと、燃料集合体を構成する各燃料棒は、横方向には支持格子によつて一定の間隔に位置づけられているが、軸方向には、この伸び差を調整するために、自由に伸びることができる構造となつていること、しかし、支持格子のバネ圧が強すぎるなどの原因によつて、右の軸方向の伸びが妨げられた場合には、支持格子と支持格子との間で燃料棒の曲がり現象が生じ、曲がつた燃料棒は隣の燃料棒に接近する可能性を生ずること、アメリカのコロンビア大学において、燃料棒が曲がつて燃料棒同士が接触するまで近づいた場合の、燃料棒表面の焼損余裕を確かめる熱水力学的実験の結果によると、原子炉内での膜沸騰の発生に対しては、たとえ燃料棒同士が接触したとしても、なお、十分な余裕があるとの結論を得たこと、なお、本件原子炉において使用される燃料については、燃料集合体において燃料棒を軸方向に支持する支持格子のバネ圧を減ずるとともに、各バネ圧の強さのばらつきを小さくし、更に、軸方向の伸びを吸収するように燃料棒の上方だけでなく、その下方にも十分な間隙を確保することとしているので、燃料棒の曲がり現象が起こる可能性は減少するとみられること、しかしながら、未だ、燃料棒の曲がり現象が生ずることを完全に防止するまでには至つておらず、また、曲がり現象による燃料棒同士が接触した場合の燃料棒の健全性についての知見も十分とはいえないため、我が国においては、曲がりの程度がひどく、次の定期検査まで継続使用した場合には接触する可能性がある燃料棒はこれを取り出すこととしていること、(17)原子炉を構成する他の主要な設備、機器と異なり、一つの原子炉にある数万本の燃料棒の一本となりともリークを起こさせないとすることは工学的にも非現実的であるとされていることから、本件原子炉においては、燃料棒の設計及び製作では、リークを起こさせないものにするように務めるが、現実には、ある程度のリークの発生を覚悟して、リークが発生し、これを検知してから措置をとつても、周辺環境へは放射性物質による影響がないよう、原子炉の所定の設備、機器を設計することとしていること、これまで発生したリーク燃料からの放射性物質の漏洩は、放射性廃棄物処理施設によつて安全に処理されてきており、これによつて周辺公衆に何らかの影響を与えたこともないうえ、燃料からのリークに対しては種々の対策が講じられた結果、現在では、リークを起こす燃料はわずかなものとなつていること、(18)本件原子炉においては、燃料の異常状態を検知するため、一次冷却水の浄化等を行う化学体積制御系の配管の途中に設置された放射線モニタにより、一次冷却水中の放射性物質の濃度の変化を常時監視するようになつていること、更に、定期的あるいは適時に、一次冷却水をサンプリングし、精密に放射性物質濃度を測定するようになつていること、したがつて、燃料棒からの放射性物質の漏洩はごくわずかの漏洩の段階において検知されるものとみられること、なお、前記可動小型中性子束検出器により、出力分布に影響を与えるような燃料棒の異常が発生した場合に検出できること、なお、本件原子炉において使用されている燃料は、定期検査時に炉内から取り出し、使用済燃料ピツトに移して外観検査及び漏洩検査を行い、その健全性を確認することとされていること、右の外観検査は、使用済燃料ピツト内で水中テレビ及び水中ボアスコープを用いて、燃料集合体外観に異常がないかどうかを検査するものであり、水中テレビにより燃料棒の曲がり、歪み等の異常の有無及びその状態を観察し、更に、被覆管及び支持格子の変形、変色、腐食状態を観察、検査することができること、漏洩検査は、燃料集合体をシツピングキヤンと呼ばれる容器に入れて密封隔離した上、破損燃料棒から出たガスを同容器に装置されたガスサンプリング系内で循環させ、その途中に備えられている放射性ガス測定装置によつて、放射性ガスの濃度を測定するものであり、ガス中の放射性物質の有無及び連続測定中の放射性物質濃度の増加現象の有無によつて破損燃料を発見できるようになつていること、また、容器中の水をサンプリング検査することにより、破損燃料から漏洩する水溶性の放射性核分裂生成物(ヨー素、セシウム等)の測定もすることができることがいずれも認められる。右認定に反する<証拠>はいずれも採用できない。なお、請求の原因第四章の第二の二の4の(一)掲記の燃料損傷事故が発生したことについては当事者間に争いがないが、右の事実は、未だ右認定を左右するに足りない。
なお、原告らは、被告は本件原子炉で使用する燃料被覆管は、クリープを考慮しても歪みは一パーセント以内になるように設計してあるから大丈夫である旨主張しているが、被告がその主張の根拠としている中性子照射による被覆管の脆化の実験の結果は、外傷のない被覆管材料を実験の試料としたものであり、実際の被覆管のようにペレツトの作用等で傷つけられたものではなく、その傷ついた部分には応力が集中的に働くから、右の実験結果は応力集中が生じない領域でのことで、実際の原子炉内の状況とは異なる結果を示している。したがつて、クリープも考慮した変形を一パーントに押えるようにした設計条件では、実際の使用状態での健全性は保証されない旨主張する。しかしながら、前記のとおり、本件原子炉においては、ペレツトの作用等により被覆管に損傷を起こさせないように配慮していることが認められるから、前記中性子照射の実験の試料が原告ら主張のとおりであつても、このことから直ちに前示認定を左右することはできない。
また、原告らは、被告は本件原子炉では、バツフルプレートのすき間を小さくしたから、燃料棒の折損事故は起こらない旨主張しているが、美浜一号炉の経験を生かしたはずの高浜二号炉で、美浜一号炉の事故から約三年後の昭和五一年に、再び同種の事故が発生している旨主張する。しかしながら、<証拠>によれば、美浜一号炉の事故原因が究明されたのは昭和五二年はじめころと認められるところ、原告らの主張によれば高浜二号炉の右事故は、右美浜一号炉の事故原因解明前であり、したがつて、右事故は、高浜二号炉の燃料棒支持格子の改良前の事故であつたものと推認される。よつて、原告らの右主張は理由がない。
更に、また、原告らは、燃料棒の曲がりにより、曲がつた燃料棒が隣接する制御棒案内内管を押し曲げ、制御棒操作を不能にする旨主張し、証人槌田も右主張に添う証言をするが、右は実例又は実験の結果によるものとは認め難いから、右証拠により右主張事実は認め難く、他に右事実を認めるに足る証拠はない。
その他前示認定を左右するに足る証拠はない。
(三) 前記争いのない事実及び前記認定事実に照らすと、本件安全審査において、本件原子炉の平常運転時における炉心設計及び燃料について安全性を確保できるとした判断は相当であると認められる。
3蒸気発生器細管の健全性について
(一) 蒸気発生器細管が一次冷却系圧力バウンダリを形成する一部であること、本件安全審査において、本件原子炉の一次冷却系圧力バウンダリを形成する系は、急激な反応度事故が生じた場合でも破損することのないように設計されていること、また、供用期間中、検査を実施してその健全性が確認されることとなつていること、したがつて、蒸気発生器細管の設計は相当であり、安全性を確保できるものと判断したことについてはいずれも当事者間に争いがない。
(二) ①本件原子炉において使用される蒸気発生器の機能及び構造が被告の主張第四章の第三の一の(二)掲記のとおりであること②原子炉の運転時には、蒸気発生器細管に一次冷却水による百数十気圧の内圧、二次冷却水による数十気圧の外圧、蒸気発生器細管の表面と内面との温度差により生ずる熱応力、二次冷却水の流れによる応力、運転中の地震による応力等の各種の応力を受けること③蒸気発生器細管は、その内部が一次冷却水によつて酸化されることがあり、また外側は細管表面にホツトスポツトが生じやすく、このため二次冷却水中の不純物の局部的な濃縮によつて腐食が生ずることがあること④本件原子炉では二次冷却水の水処理法としてAVT法を採用していること⑤タービンを作動させた蒸気は復水器に入り、ここで復水器細管内部を通る海水によつて冷却され、再び二次冷却水となつて蒸気発生器に戻されるため復水器細管に漏洩が生じた場合には、海水が二次冷却水に混入し、二次冷却水の水質を劣化させること⑥請求の原因第四章の第三の二の2掲記のごとき蒸気発生器細管事故が発生したこと(ただしポイントビーチ一号炉の事故原因、事故の程度を除く)、なお、右蒸気発生器細管に損傷を起こした美浜一、二号炉は二次冷却水の水処理法としてりん酸ソーダを使用していたものであり、ポイントビーチ一号炉でも同りん酸ソーダを使用していたことがあつたことについてはいずれも当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、(1)本件原子力発電所における蒸気発生器細管については、振れ止め金具によつて水流及び地震動による振動等を防止するとともに、前記各種の応力はもちろんのこと、右各種の応力を組み合わせた総合的な応力に、更に原子炉の過渡状態における衝撃荷重が加わつた場合にも、これに耐え得るように設計され(例えば、微小な凹凸のある九五パーセント以下の減肉のあるインコネル製細管を使用した試験でも、運転時の内外差圧一〇〇気圧で細管の破裂は生じない。)、また、その使用期間中の累積疲労に対しても耐え得るように設計されていること、(2)本件原子炉の蒸気発生器細管は前記腐食及びホツトスポツトに対して、一次冷却水及び二次冷却水の水質管理によつて対処しうるとみられること、すなわち、本件蒸気発生器細管については、その健全性を維持するために、一次冷却水の水質を化学的に高純度の状態に管理することによつて、細管内部の酸化を防止していること、また、二次冷却水の水質を腐食を生じ難い弱アルカリ性とし、溶存酸素及び塩素等不純物を低濃度に保つために、必要な水処理設備(空気抽出器、脱気器、純水装置、薬注装置、ブローダウン設備、復水脱塩装置等)を設け、水質管理を行うこと、したがつて、蒸気発生器細管の表面が化学的に腐食する可能性は少ないこと、(3)本件蒸気発生器細管は、前記のように、耐食性のよいインコネルを使用していること、(4)前記海水が混入して二次冷却水の水質を劣化させるのを防止するため、本件原子炉の復水器細管は、海水に対し耐食性のよい材料で製作するとともに、万一、その使用中に復水器細管に漏洩が生じた場合には、復水の塩分濃度を監視する電導度計によつて右漏洩が検知され、漏洩の生じた復水器を隔離して漏洩が止められるとともに、それまでに漏洩したものについては、復水脱塩装置により除去されるほか、必要に応じ、蒸気発生器のブローダウン量を増加させるなど、海水混入の結果が蒸気発生器細管に影響を及ぼさないようにするための措置が講じられるようになつていること、(5)なお、蒸気発生器細管の腐食にとつて問題となるのは、不純物の化学的性質及びその量であり、本件原子炉のように海水冷却の場合には、復水器からの漏洩によつて混入した不純物により蒸気発生器細管の腐食上問題となる苛性アルカリが生ずることはないこと、右不純物の量も復水脱塩塔を通したり、あるいはブローダウンの量を増加することによつて十分取り除き得ること、また、ナトリウムイオンは、復水脱塩塔出口においては微量しか存在しないし、右ナトリウムイオンが細管損傷の原因となることはないこと、(6)蒸気発生器細管が振れ止め金具との間で生ずる磨耗によつて損傷する事象は、アメリカのサンオノフレ発電所等ウエスチングハウス社製の初期の蒸気発生器を使用している発電所で発生したものであること、本件原子炉において使用される一辺長約一センチメートルの四角形断面をもつインコネル製の角棒で作られた振れ止め金具は、細管との接触面積の拡大によつて接触圧の軽減を図つていること、(7)前記のように、二次冷却水の水処理法としてりん酸ソーダを使用していた原子炉で、蒸気発生器細管事故が発生したのは、二次冷却水の流れが妨げられやすい箇所の細管表面に生じた蒸気泡が、ホツトスポツトを形成し、右ホツトスポツトに二次冷却水中のりん酸ソーダやりん酸ソーダと不純物との反応等によつて生じた苛性アルカリが濃縮し、化学的腐食を起こしたことによるものとみられること、本件原子炉において二次冷却水の水処理法として採用している前記AVT方式では、ヒドラジンやアンモニアを使用するものであること、なお、本件原子炉はそのうえ水質管理を行つていること、(8)アメリカのポイントビーチ一号炉等においては、水処理法を、りん酸ソーダを使用する方式から右のAVT方式に切り替えたにもかかわらず、細管に損傷が発生したが、この原因は、水処理法の切り替えに際し、細管その他に付着したりん酸ソーダや不純物を十分に除去しなかつたため、残存したりん酸ソーダや、りん酸ソーダと不純物との反応等によつて細管に腐食を生じたことによるものと見られていること、本件原子炉においては、水処理法として最初からAVT方式を採用しているので、りん酸ソーダに起因する右のような事象が生ずるおそれはないこと、なお、最初から水処理法としてAVT方式を採用している前記九州電力玄海一号炉は、昭和五一年一〇月から昭和五二年一月にわたつて定期検査を行つたが、その際に実施した蒸気発生器細管の全数検査の結果では、約一年半前の検査時以降、減肉等の発生を示す徴候は認められていないこと、(9)スイスのベズナウ一号炉等復水器冷却水に河川水を使用している原子炉において、蒸気発生器細管が損傷する事例が発生したが、この原因は、復水器細管の損傷によつて、河川水が二次冷却水中に混入し、この河川水に含まれていた不純物が、熱分解して苛性アルカリを生じ、この苛性アルカリが蒸気発生器細管と管板との間隙等で局部的に濃縮し、細管に化学的腐食を生じさせたものであると見られていること、なお、本件原子炉の復水器冷却水には、海水が使用され河川水は使用されていないので、かかる事象の発生することはないと見られていること、(10)ポイントビーチ一号炉、ベズナウ一号炉、玄海一号炉の蒸気発生器内で、腐食生成物(スラツジ)が見付かつたこと(ポイントビーチ一号炉については当事者間に争いがない)、ポイントビーチ一号炉のスラツジの大部分は、蒸気発生器本体の腐食の進行を意味するものではないこと、ベズナウ一号炉のスラツジは、前記のとおり河川水が二次冷却水中に混入し、その不純物が熱分解して苛性アルカリを生じ、これが細管と管板との間隙等に局部的に濃縮したものであること、玄海一号炉におけるスラツジは、二次冷却系の機器や配管等の表面が腐食して生じたスラツジであり、その大部分は鉄の酸化物(Fe3O4)であつて、これ自体は蒸気発生器細管を腐食させるものではないこと、すなわち、蒸気発生器内のスラツジの存在と、蒸気発生器細管の損傷とは必ずしも関係がないと見られること、なお、本件原子炉においては、前記のとおり水質管理を厳重に実施するなどの措置をとることによつて、スラツジの原因となる二次冷却系統の腐食生成物の発生を抑制する方策をとつていること、(11)本件原子炉においては、蒸気発生器細管の異常状態を検知するため、前記のように復水器空気抽出器排ガス系及び蒸気発生器ブローダウン系にそれぞれ放射線モニタを設置し、蒸気発生器二次側の放射性物質濃度の高まりを早期に、かつ微少な漏洩の段階で検知できるようにしていること、そして検知後、直ちに原子炉の運転を停止するとともに、空気抽出器排ガス系をチヤコールフイルターを設置した回路に切り替え、また、蒸気発生器ブローダウン系を閉鎖し、ブローダウンタンク中の水を廃棄物処理設備へ導くなどの放射性物質の環境への放出を防止する一方、損傷した細管に盲栓工事を実施するなどの所要の措置を講ずることとしていること、(12)ポイントビーチ一号炉の前記蒸気発生器細管事故においては、復水器の空気抽出器排ガス系に設けられた放射線モニタは、窒息現象のため警報が中断され、また、ブローダウン系に設けられた放射線モニタは、そこを通過する蒸気発生器二次冷却水の流量が不足していたため警報を発せず、このため放射線モニタによる細管漏洩の検知はあつたものの、その確認に手間取り、一次冷却水の二次冷却水への漏洩率が多くなつたものと見られており、本件原子炉においては、右のような放射線モニタの窒息現象による警報の中断や、水量不足によつて検知が手間取ることのないよう、それぞれその防止措置が講じられていて、細管漏洩の検知は確実に行われるようになつていること、(13)前記のように運転開始後の原子炉においては、毎年一回、定期的に原子炉を停止し、原子炉各部の試験、検査を行うことになつており、それによつて運転中には検知し得ないような異常状態の現われを検知し、所要の対策が講じられることになつていること、本件原子炉において使用される蒸気発生器細管は、定期検査時に、渦電流探傷試験を実施し、更に、必要に応じて漏洩試験によつてその健全性が維持されているかどうかを確認することになつていること、そして右試験の結果、異常が発見された場合には、盲栓を施すなどの措置を行うこととなつていることがいずれも認められる。
原告らは、水処理をAVT方式に改めることのみによつて、蒸気発生器細管損傷は防げるものではないとし、請求の原因第四章の第三の三の4の(三)掲記のとおり主張し、証人佐藤、同川野、同久米も右主張に添う証言をする。なお、<証拠>も右主張に添うものであり、蒸気発生器細管損傷事故が多数発生していることについて当事者間に争いのないことは前記のとおりである。
しかしながら、<証拠>により認められるところの、外国における蒸気発生器細管の損傷事例は、ベズナウ一号炉やポイントビーチ一号炉等のように、復水器によるリークを放置したまま運転を継続するなど、その多くが水質管理を厳重に行つていないものであること、このことと、前記のとおり、りん酸ソーダ及びりん酸ソーダと不純物との反応又は不純物が熱分解して生じた苛性アルカリがポイントビーチ一号炉、ベズナウ一号炉の蒸気発生器細管損傷の原因と見られていること、また、水処理にりん酸ソーダを使用した後に、AVT法に変更した原子炉で、蒸気発生器細管損傷事故が発生したのは、りん酸ソーダ又はその反応物の除去が十分行われていなかつたためであると見られていること、我が国の美浜一、二号炉等においては厳重な水質管理をしていたが、水処理にりん酸ソーダを用いたために細管損傷が生じたと推定されていること、水質管理を厳重にし、水処理にAVT方式を採用している九州電力玄海一号炉では細管損傷は発生していないこと、なお、同様な方法をとつている高浜二号炉でも、製造時に生じた傷に起因する細管損傷が発生したのみであること等を合わせ考えると、前記原告らの主張に添う証拠は採用し得ない。また、本件原子炉の蒸気発生器細管については水処理方法、構造等について所要の対策がとられていることに照らし、前記当事者間に争いのないところの蒸気発生器細管事故が各地の原子炉で多発したとの事実は、前記認定を左右するものではない。
また、証人川野は、渦電流探傷装置の精度は悪く、二〇パーセント以下の減肉は検知できず、しかも右装置による点検は、原子炉の定期検査時にしか行われないから、運転中に進行する蒸気発生器細管の減肉その他の損傷の進行状態は、右装置によつては検知できない。したがつて、運転中に進行する蒸気発生器細管の減肉その他の損傷が減肉やピンホールの段階で止つているか、それとも大穴があき、更にはギロチン破断まで行くかは起こつてみなければ分からない。したがつて、右装置は細管のギロチン破断防止に役立たないし、また、細管の減肉やピンホールを前提としないギロチン破断については、全く検知の方法がない旨証言する。しかし、前記のように、本件原子炉の蒸気発生器細管は、化学的腐食、各種の応力に対する配慮、構造上の配慮がなされていて、蒸気発生器細管の健全性が維持されるように設計上の余裕が置かれていること、かつ、弁論の全趣旨に照らすと、蒸気発生器細管のギロチン破断が発生したことは、未だかつてないことが認められること、更には前示認定の蒸気発生器細管の検知システムから見て、本件原子炉の右検知システムが蒸気発生器細管のギロチン破断防止に役立たないとはみられないことを併せ考えるならば、右証人川野の証言は、前示認定を左右するに足りない。
その他前記認定を左右するに足る証拠はない。
(三) 以上の争いのない事実及び認定事実に照らすと、本件安全審査において、本件原子炉の蒸気発生器細管については安全性が確保されるとした判断は相当と認められる。
4原子炉圧力容器及び一次冷却系配管の健全性について
(一) <証拠>によれば、本件安全審査において、一次冷却系圧力バウンダリを形成する系のフエライト系鋼材を使用する部分は、脆性破壊を防止するために最低使用温度を脆性遷移温度より三三度C以上高くするようにしていること、これと次の争いのない事実とを併せ考えてフエライト系鋼材使用部分が脆性破壊をすることはなく、その安全性は確保されると判断したことがいずれも認められ、右認定に反する証拠はない。
(二) 本件安全審査において、本件原子炉の原子炉容器、一次冷却系配管等一次冷却系圧力バウンダリを形成する系では、急激な反応度事故が生じた場合でも破損することのないように設計されていること、中性子照射が原子炉容器材料に及ぼす影響については、監視試験片を炉心周囲に挿入し、定期的に取り出して試験を行い、安全性を確認することにしていること、また、原子炉圧力容器、配管等の耐圧部等は供用期間中検査を実施し、その安全性を確認することになつていること、したがつて、本件原子炉の原子炉圧力容器、一次冷却系配管等の設計は相当であり、安全性は確保されるものと判断したことについてはいずれも当事者間に争いがない。
(三) ①本件原子炉の原子炉圧力容器及び一次冷却系配管の構造、機能は、被告の主張第四章の第四の一の(一)掲記のとおりであること②原子力圧力容器は中性子照射を受けることによつて、使用されている鋼材が脆化する可能性があること③中性子照射による脆化の問題は原子炉ではじめて問題となるものであり、従来の経験を基にして中性子照射による圧力容器の脆化の程度を予測することはできないので、圧力容器内に監視用試験片を入れ、これをある期間毎に取り出して、脆化の程度を調べるほかはないこと④本件原子炉圧力容器と同一の材料であるA五三三鋼を使つた中性子照射実験によれば、中性子照射後の脆性遷移温度は二九度C又は九三度Cとなつたこと⑤原子炉圧力容器及び一次冷却系配管は、一次冷却水の熱による応力、一次冷却系の内圧、自重及び運転中に起こる地震による応力等の各種の応力を受けること⑥疲労き裂は一定以上の応力がなければ発生せず、また、応力が緩和されると途中で停留することもあるが、き裂の形が拡がりをもつて進行する特徴があること⑦本件原子炉のような加圧水型原子炉においては、現在までのところ、原子炉圧力容器及び一次冷却系配管に関してひび割れ、局部的減耗等問題となるような事象は起こつていないことについてはいずれも当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、(1)本件原子炉の原子炉圧力容器については、鋼材の耐放射線性をもたせるため、原子炉圧力容器の材料の選択、製造に十分留意するとともに、中性子照射を受けやすい原子炉圧力容器側壁について、炉心と右側壁との間に遮へい壁を設けるなどして、できるだけ中性子照射量を軽減するような設計となつていること、(2)本件原子炉においては、中性子照射により脆性遷移温度が変化することに対して、余裕のある設計とするとともに、原子炉圧力容器と同一の素材から採取した監視試験片を、原子炉容器内の遮へい壁外面に配置することにしており、運転開始後これを計画的に取り出し、破壊試験を行うことにより、脆化の程度を示す脆性遷移温度の実際をは握し、その温度に三三度C以上を加えた温度以上で、原子炉圧力容器を使用することになつていること、なお、前記実際の脆性遷移温度をは握した上、設計時に予測した中性子照射による材料の予想脆化曲線の妥当性を確認し、又は、これを修正することにしていること、したがつて、実際に脆性破壊の問題が生ずることはないとみられること、(3)本件原子炉圧力容器及び一次冷却系配管は前記の各応力及びこれを組み合わせた応力に、更に、原子炉の過渡状態における衝撃荷重が加わつた場合にもこれに耐え得るように設計され、また、使用期間中の疲労解析を行い、それに対しても耐え得るようなものとなつていること、(4)また、本件原子炉圧力容器及び一次冷却系配管については、局部的な応力が生じないように単純な形状とするとともに、製作に際しては局部的な切り欠き等が生じないように、厳重な品質管理を行つていること、なお、応力腐食割れが生ずるためには、その材料の局部に塑性歪みを起こすような応力がなければならず、応力がほとんど作用していない場合には応力腐食割れは生じないこと、(5)なお、原子炉の圧力容器は、原子炉以外の圧力容器の破壊の可能性の一〇倍の健全性を有するように設計されており、破壊確率も10-6/数年以下と考えられていること、(6)原子力発電所における圧力や温度条件は一般の火力発電所のそれよりも低く、高温、高圧の状態は原子力発電所においてはじめて経験するものではないこと、原子力発電所においては、そこで使用される材料についても経年変化を考慮しているとともに、温度、圧力等の設計条件等についても、出力の大小にほとんど関係なくほぼ一定になるように設計されていること、(7)本件原子炉の原子炉圧力容器及び一次冷却系配管は、腐食を防止するため、原子炉圧力容器と一次冷却水との接する箇所には耐食性の優れたステンレス鋼を内張りするとともに、一次冷却系配管についても前記のようにステンレス鋼を使用する一方、腐食の要因となる一次冷却水中に含まれる塩素等の不純物濃度及び溶存酸素の量を抑制するなど一次冷却水に対する水質管理を行うこととなつていること、すなわち、一次冷却系の外部から一次冷却水中にこれらの不純物が入り込むことを防ぐために、補給水には純水装置及び真空脱気塔によつて処理された水を用いること、更に、原子炉内において水が放射線を受けることによつて分解し発生する酸素については、水素ガスを一次冷却水中に溶解させ、これと再結合させて水に戻すことによつて溶存酸素濃度を低く保つことにしていること、また、塩素イオンは原子炉内で発生することはないが、一次冷却水中に含まれる塩素イオンについても、化学体積制御系の混床式脱塩塔に一次冷却水を通すことによつて常に低い濃度に維持することとしていること、(8)本件原子炉の原子炉圧力容器及び一次冷却系配管は、定期検査時に全燃料を炉内から取り出した後、水を満たしたままの状態で外観検査及び超音波探傷検査により計画的に原子炉圧力容器の健全性を確認するほか、運転再開前に漏洩検査を行うことにしていること、また、前記のとおり計画的に取り出して行う試験片を用いた検査により、原子炉圧力容器の中性子照射による脆化に対する健全性を確認することとしていること、すなわち①原子炉圧力容器は、いつたん運転に入ると放射能を帯び、検査員の接近が困難となるため、その外観検査はすべて遠隔操作の可能な機器により行われることになつており、水中テレビカメラ及び拡大視するための水中ボアスコープにより、原子炉圧力容器壁内面の外観等を、それぞれ検査し、これにより、内面の溶接部及び母材における異常の有無を確認できること、また、一次冷却系配管は、その保温材を取りはずし、溶接部については肉眼観察又は液体浸透探傷検査等を行うことによつて、その異常の有無を確認し、微小なき裂の段階でこれを検知し得ること②超音波探傷検査は、鋼材表面に置いた探傷子から超音波を発射し、鋼材内部からの反射波を見て、その乱れによつて鋼材内部に生じたきず等の異常を検知するものであり、原子炉圧力容器内面については、水中において遠隔自動操作による超音波探傷検査を行い、表面に現われていない鋼材内部の欠陥等を検知することができること③原子炉圧力容器等の一次冷却系機器及び一次冷却系配管については、原子炉の運転を再開する前に、運転時と同じ圧力をかけて、漏洩等の異常がないことを確認することになつていること④また、定期検査において劣化の程度が設計時点における予測よりも安全側であるかどうかを確認し、経年変化をは握できるようなつていることがいずれも認められる。
ところで原告らは、監視試験片による脆化のは握は困難だとして、請求の原因第四章の第四の二の(二)掲記のとおり主張し、更に、原子炉の高出力化に伴い、中性子密度も大きくなり、したがつて、中性子照射による脆化の問題はより一層深刻になる旨主張し、証人柴田において右各主張に添う証言をする。また、<証拠>も右各主張に添うものである。
しかし、<証拠>を仔細に検討すると、本件原子炉の場合には、原子炉圧力容器側壁も、監視試験片も、ともに原子炉圧力容器側壁と炉心槽との間を下向きに流れる一次冷却水に接しており、したがつて、どちらも一次冷却水温度とほぼ同じ温度であること、更に原子炉圧力容器外側を保温材で囲んでいるため、原子炉圧力容器外側の外面温度が内面温度に比べて低くなることはほとんどないと見られること、以上により、温度の違いによつて監視用試験片による脆化が、原子炉圧力容器側壁の脆化よりも過小に評価されることはあり得ないと見られること、<証拠>掲記の試験結果(温度の点については当事者間に争いのないところである)によれば、大きな試験片は、小さな試験片に比べて、脆性遷移温度が急速に高くなつており、更に、試験のデータはばらついているが、右の試験結果は、鋼材板の厚さの大小と、これら鋼材から同じ大きさの試験片を切り出し照射した後の脆性遷移温度の上昇の大きさとの関係を示したものであつて、試験片の大小と脆化との関係を示しているものではない疑いがあること、そして、右試験結果に示されたばらつきは、鋼材の熱処理等の製造履歴及び板厚等によりその内部の性質が異なることによるものであることがうかがわれること、したがつて、同じA五三三鋼であつても、試験片を取り出した鋼材の製造履歴、板厚及び試験片の採取位置が異なれば、脆化の程度が異なるものとは見られるが、本件原子炉の場合は、右の事情を考慮し、前記のとおり原子炉圧力容器を製造するに際し、用いられる鋼材のあらかじめ定められた採取位置から切り取つたものを監視試験片として使用していること、本件原子炉は、原子炉圧力容器中の中性子照射量が、プラントの高出力化とは関係なく、同程度になるように設計されていること、したがつて、高出力化に伴い中性子照射による脆化の問題が特に深刻になるとは見られないことがいずれも認められることに照らし、前記原告らの主張に添う証拠はいずれも採用しがたい。
なお、原告らは、一次冷却材圧力バウンダリを構成する機器が、疲労き裂や、中性子照射により脆化しているところに、何らかの衝撃力が作用するなどすると、いきなり大きな割れ目ができたり、破断したりする可能性があるが、こうした事態の発生することを、漏洩検査によつて事前にチエツクすることができないことは、東京電力福島原子力発電所一号炉の例でも明らかである旨主張し、証人柴田が右主張に添う証言をする。なお、前顕第五八号証も右主張に添うものである。
しかし、<証拠>に照らし、東京電力福島原子力発電所一号炉における漏洩事故についての右証拠は、直ちに採用できない。また、<証拠>によれば、前記のように、疲労き裂が問題となる部分については、その設計に当たつて、疲労解析を行うことにより、疲労破壊の起こらないことを、製造時には材料にきずのないことを、使用に当たつては、きずが急速に拡大するおそれのある脆性破壊を防止するため脆性遷移温度が使用温度より高いことを、いずれも確認し、更に、運転開始後に行われる定期検査においても、材料の健全性を確認することとしていること、したがつて、仮に、きずが発生したとしても、脆性遷移温度より高い温度で運転しているため、き裂がいきなり拡大して破断することはないと見られ、したがつて、小さなきずのうちに発見して所要の措置が講じられること、なお、本件原子炉の一次冷却系配管に使用されているステンレス鋼は、その特性からして脆化はほとんど問題とならず、原子炉圧力容器や蒸気発生器の材料であるマンガン・モリブデン・ニツケル鋼や、マンガン・モリブデン鋼についても、その脆性遷移温度が比較的低いことを確認しているので、脆化による破壊はほとんど問題とならないこと、ただ、原子炉圧力容器側壁の中性子照射による脆化が問題となるが、この点については前記のとおり、運転開始後は監視試験片により脆化の程度を検査し、その結果を考慮して原子炉圧力容器の最低使用温度を定めるなど、適切な配慮をすることになつていることがいずれも認められることに照らし、前記原告らの主張に添う証拠は採用しがたい。
更に、原告らは、現存するアスメの規格や発電用原子炉設備に関する技術基準は、いずれもボイラーや高圧ガス用圧力容器として従来から積み重ねられた技術を集大成したものに過ぎず、中性子照射による脆化や応力腐食割れ等、放射線を扱う際に、新たな問題になるものについては何ら有効な基準たり得るものでないため、本件原子炉において使用される原子炉圧力容器や、一次冷却系配管が、右基準に従つているからといつて、右の脆化や応力腐食割れを防ぎ得るものではない旨主張し、証人柴田が右主張に添う証言をする。
しかし、<証拠>によれば、中性子照射による脆化や応力腐食割れ等については、既に数多くの研究や実験の成果が得られているばかりでなく、原子炉開発以来の経験の蓄積もあること、右のアスメの規格や技術基準は、右の研究や実験、長年の運転経験の成果を集大成したものであり、特に、中性子照射による脆化に対しては、その防止に必要な事項が十分もり込まれていること、なお、応力腐食割れについては、一般の圧力容器等にも見られる現象であり、放射線との関連で新たに問題となつたものではなく、また、本件原子炉と同型の加圧水型原子炉においては、従来発生した事例はないことがいずれも認められる。したがつて、原告らの前記主張は理由がない。
その他前示認定を左右するに足る証拠はない。
(四) 前示争いのない事実及び認定事実に照らし、本件安全審査において、前示のように本件原子炉圧力容器及び一次冷却系配管について、安全性が確保されていると判断したことは相当と認められる。
三本件原子炉の立地選定及び耐震設計について
1原子炉の設置と自然的立地条件
立地審査指針中の原則的立地条件と、安全設計審査指針の関係については①当該敷地に係る事象が、当該原子炉における大きな事故の誘因とならないこと②右事象がどのようなものであるかを安全側に立つて慎重に検討すること③右検討の結果に対して、現代の工学技術からして当該原子炉につき十分余裕のある安全な設計を講じ得るかどうかを検討するということにあると解される。
しかるところ、証人大崎の証言によれば、本件安全審査においても、右の考え方のもとに耐震設計等の審査がなされたことが認められる。右認定に反する証人内田の証言は採用せず、他に右認定に反する証拠はない。
2地盤について
(一) 本件安全審査においては、本件敷地は、地質分類学上、西日本外帯三波川変成岩帯に属し、原子炉基盤を構成する岩石は縁色片岩であること、縁色片岩の走行傾斜は比較的一様であること、原子炉格納施設などの主要構造物の基盤については、ボーリング及び試掘坑調査を行つた結果、岩盤コアの圧縮強度は一平方メートル当たり一万一〇〇〇ないし一万九〇〇〇トン(乾燥状態)であり、また、現地基盤の弾性波速度は、縦波で毎秒約5.6キロメートル、横波で毎秒約2.6キロメートルと大きく、基盤は一様で堅硬な状態にあること、この基盤は載荷試験によると一平方メートル当たり一四〇〇トン以上の支持力を有しており、原子炉施設の基盤への常時の荷重が一平方メートル当たり六〇トンであるのに対し、十分な地耐力を有していること、また、原子炉施設の基礎として問題となるような規模の断層及び破砕帯はないこと、なお、敷地は地形及び地質構造上地すべり、山津波の発生することはないこと、以上により、本件敷地は本件原子炉敷地として安全確保上問題がないと判断したことはいずれも当事者間に争いがない。
(二) ①中央構造線は、日本列島の骨格が形成される約七〇〇〇万年あるいはそれ以前に形成されたといわれる西南日本を縦断する大断層であつて、四国地方においては三波川帯と和泉砂岩層との境界の断層とされていること、そして、四国地方においては、中央構造線は四国山地をほぼ東西に縦断し、四国西部の桜樹付近で南へ曲がり、湾曲しながら松山市の南南西約二〇キロメートルの上灘付近から海中に没し、大分県臼杵付近において再びその存在が推定されるに至ること②右桜樹から上灘間の中央構造線の北側三キロメートルないし五キロメートルの位置に存在する川上断層や、伊予断層は、活動性が認められるものの、その活動性や連続性は桜樹以東の中央構造線に比べると、いずれも小さくなつていること③敷地における弾性波速度の値は、コアサンプルの値とほぼ同じ値を示していることについてはいずれも当事者間に争いがない。
そして、<証拠>を総合すると、(1)本件原子炉の敷地周辺における地質図、地質関係文献、国土地理院及び四国電力撮影の空中写真の判読、現地踏査、敷地前面海域における音波探査の結果等により、本件原子炉の敷地周辺の地盤は、地質的に安定していること、近い将来に、大きな地変や火山活動等の事象が発生する可能性のうかがえないことがいずれも判明したこと、(2)本件原子炉の敷地は四国の佐田岬半島の付け根付近に位置し、瀬戸内海の伊予灘に面していること、同半島地域は地質構造上中央構造線の南側の三波川帯(主として緑色片岩で、一部では更にわずかの黒色片岩からなる)に属していること、なお、有史以来敷地周辺においては、大きな地変や火山活動は認められておらず、その痕跡を示す地形も存しないこと、(3)本件原子炉の敷地がある佐田岬半島は、上記のとおりその地盤全体が中央構造線の南側で一般に見られる三波川変成岩のみによつて形成されていること、並びに中央構造線及びこれに伴う断層活動の存在を示すような露頭その他の地形的な特徴は発見されていないこと、また、後記(5)のとおり当該敷地前面の海域で行われた音波探査の結果によれば、もし中央構造線が敷地前面の海域の比較的敷地に近い所を通つているとしても、それは本件敷地の沖合五キロメートルないし八キロメートルの範囲であつて、これより敷地寄りのところを通つている可能性は少ないものとみられること、(4)本件敷地の岩盤に見られるいわゆるレンズ状せん断は、三波川変成岩帯のように古い地層からなる岩盤においては、中央構造線の付近に限らずどこでも見られるものであること、したがつて、本件敷地にレンズ状せん断が見られるからといつて、直ちに中央構造線が本件敷地直近を通つているとはいえないこと、(5)四国電力が実施した本件敷地前面の音波探査の記録を、陸上における地質構造上の資料を基に解析した報告書によれば、本件敷地の沖合数百メートルの海底の下方数十メートルで、三波川変成岩の音波反射パターンは第四紀層におおわれるため不明瞭となるが、その位置においては、右三波川変成岩と第四紀層との境界は北側へ緩傾斜しており、断層は存在しないと見られること、一方、敷地前面海域五キロメートルないし八キロメートルに認められる第三紀に生成されたとみられる小堆積盆地の中及びその北端部に、断層又は地形の変化による音波のパターンの乱れがみられること、かつ、三波川帯の幅と連続性とから判断して、中央構造線が敷地前面海域の比較的敷地に近いところを通つていると考えても、それは本件敷地の沖合五キロメートルないし八キロメートルの範囲であることがうかがわれること、したがつて、前記音波探査により三波川変成岩の確認できた限界地点をもつて直ちに中央構造線の位置であるとは推定できないこと、(6)中央構造線はその活動性や活動時期は、全域にわたつて一様なものではなく、第四紀における活動性は、四国地方でも前記の桜樹付近より東方においては活動的であるが、同所より西方においては上灘において海中に没するに至るまでの範囲では新第三紀の後期(約一〇〇〇万年前)から以降は、活動した痕跡は発見されていないこと、前記川上断層や、伊予断層より更に西方に当たる本件原子炉の沖合五キロメートルないし八キロメートルの範囲に見られる地質構造の乱れが中央構造線を反映しているとしても、その活動性、連続性は川上、伊予両断層よりは小さい可能性が少なくないこと、なお、中央構造線の活動に起因したことが確認できる地震は、過去において日本全土のどこにもその例がないこと、更に、現在の地震活動の特徴や震源分布が右断層と調和する事実もうかがえないこと、(7)本件安全審査においては、中央構造線の問題は垣見、松田両調査委員において専門的な立場から審査し、特に本件原子炉の設置に関し、安全上問題がない旨の結論を出したものであること、(8)三波川帯に属する地盤は脆弱で、しばしば地すべりが見られるといわれており、佐田岬半島においても地すべりの発生する地域が多いが、それは黒色片岩や絹雲母片岩の比較的多く分布する地区や片岩の片理の傾きと地山の斜面の傾きとが同じような急傾斜地においては見られるものの、本件原子炉敷地のように急傾斜地が少なく、主として塊状の緑泥石片岩からなる地域では、地すべりはごく局部的な小規模のものを除けば見られていないこと、本件敷地には地すべりの原因となりやすいとされる黒色片岩や急な傾斜の片理を有する岩盤は存在しないこと、また、大規模な地すべりや山津波は、それを起こす大量の風化生成物を必要とするが、本件原子炉の東部に位置する丘陵の西南の斜面は、その頂部近くまで原形をとどめない程に削り取られているために、地すべりや土石流の原因となる風化生成物はすべて取り去られていること、更に、その風化生成物や岩盤を削り取つた後の斜面は、鉄筋コンクリート造りのよう壁等により保存工事がされているため、小規模な崩落はみられても、原子炉その他の重要建造物に被害を与えるような地すべり又は土石流が発生する可能性はほとんどないこと、なお、本件敷地東方の山地には片理面が存し、また、敷地には地下水流が実測されているが、しかし、これらを直ちに地すべりに関連させることはできないこと、なお、切取工事開始後四ミリメートルの地山の移動があつたが、これは切り取つた上載地盤の重量の軽減に見合う計算どおりの変形と見られ、予想外の変形は観測されていないこと、したがつて、その崩壊の危険性はないこと、(9)本件敷地内や周辺地区には活断層があるとはみられないこと、なお、原子炉主要施設の基礎岩盤付近には小さな破砕帯等が一〇本程度あるが、これら破砕帯等の分布密度並びにその規模や性状は本件敷地のごとく古生代ないし中生代に生成した古い地層からなる岩盤では普通観察されるところであること、敷地内にある断層は現在地表に現われている岩石がまだ地下数千メートルの深所にあつた数千万年前の時代に生じた可能性の多いものであること、しかも断層は地下数十メートルの深所では現在もまだ堅く固結しているものとみられること、また、敷地内にある前記破砕帯の中には、やや規模の大きい、やや軟弱な破砕部をもつものがいくつか存在するが、右破砕部は幅がおおむね五センチメートル以内の小さなものであつて、破砕部をはさむ両側の岩盤はいずれも堅硬であること、したがつて、右破砕帯の存在は地耐力をほとんど減少させないこと、敷地内では最も大きい規模をもつS3断層は、幅一センチメートルないし二センチメートルの粘土をはさむ破砕幅約一〇センチメートルの断層であつて、右断層についても、工事着手前の空中写真では活断層地形が認められないこと、右断層内の粘土は、粘土の鉱物組成、粒度分布によれば五〇〇〇万年ほど前に地表近くに位置するに至つた後、いつたん固結した破砕部が地下水の影響を受けて風化してできたものであること、及び粘土物質のエツクス線透過写真による組織の解析によれば、粘土化が始まつた以降には顕微鏡的ずれ以上のずれがみられないこと、したがつて、右断層は活断層でないとみられること、また、当該敷地の地盤が中央構造線の破砕作用を受けているとはみられないこと、仮に中央構造線に沿つた活動が起こつたとしても、右断層が受動的に動く可能性はほとんどないとみられること、なお、本件敷地試掘坑内地質調査報告書を作成した田中治雄が活動性の存否を判定した断層はS3断層の推定地表露頭線上の断層であつたところ、右推定が間違つていたとの事実は未だ明らかにされないこと、(10)本件原子炉敷地において実施された踏査、予備ボーリング調査、地表弾性波調査、試掘横坑調査、岩石の強度試験等の各結果により、本件原子炉の敷地の地盤は、原子炉を設置する上で必要な岩盤が十分な広さで得られるとともに、その表土層は四メートル程度と薄く、ボーリングコアの採取率が平均で九五パーセントと大きく、また、地表約一五メートル以深の岩盤における縦波速度が一様に毎秒四キロメートル以上であること等から、一様に堅硬な岩盤が広い範囲に分布しているものとみられること、また、敷地の地盤が片理の発達の少ない塊状の緑泥石片岩で構成されており、その岩質は新鮮、かつ、堅硬であるとみられること、原子炉の主要施設設置予定地において実施された長さ三〇〇メートル以上に及ぶ試掘横坑調査、炉心基盤直下一〇〇メートルに及ぶボーリング調査、物理探査、岩石の強度試験等の結果により、本件原子炉の主要施設設置予定地の地盤は、原子炉施設を支持するのに十分な地耐力を有する岩盤であつて、地震等による地盤破壊や不等沈下を起こす虜れはないこと、すなわち、本件原子炉の基礎岩盤の緑色片岩には多少片理は発達しているものの、その片理の走向、傾斜は緩やかなものであつて、はく離性は著しくなく、片理の存在による岩盤のゆるみもないこと、また、原子炉主要施設の設置予定場所付近から採取した岩盤コアの圧縮強度は、乾燥状態において一平方メートル当たり一万一〇〇〇トンないし一万八〇〇〇トンであり、湿潤状態においても三〇パーセントないし三五パーセントと小さくなる程度であること、また、岩盤は、試掘横坑内において行われたジヤツキによる一平方メートル当たり一四〇〇トンまでの繰り返し荷重試験においても十分弾性的な挙動を示していること、以上のことから、本件原子炉主要施設の基礎岩盤は、原子炉格納施設の常時荷重である前記のとおりの一平方メートル当たり約六〇トンの荷重に対しても、また、せいぜいその数倍を出ない地震時の荷重に対しても地耐力を有するとみられること、(11)敷地の基盤を構成する岩石自体の性質は、原子炉施設を設置する敷地の基盤を論ずるに当たつて調査すべき基本的要素の一つであつて、これは、ボーリング等によつて採取されたコアから節理等の存在しない部分をサンプルとして切り出し、右サンプルの岩石強度試験等の結果からは握されるものであり、一方、敷地の基盤の性質は、実際にそこに存在する断層、節理等をすべて含む敷地基盤そのものについて直接に測定される弾性波速度、岩盤のジヤツキ試験等の結果からは握されるものであつて 岩石の力学的性質のばらつきのみに着目して、この点から直ちに敷地の基盤もまた一様に堅硬でないとすることはできないこと、本件原子炉敷地の基礎岩盤については、それを構成するボーリングコア等のサンプルによる岩石試験、断層や節理の存在したままの状態において広い範囲にわたる弾性波探査や試掘横坑内における岩盤のジヤツキ試験等を実施し、右試験の場所、サンプルによるばらつきの程度を勘案して、本件原子炉施設が一定の広さと厚さとをもつ鉄筋コンクリートの基礎を介してその基礎岩盤に荷重を伝えるに際し、果たして一様な反力を右基礎岩盤が示すかどうかを検討した結果、一様に堅硬な岩盤を必要な範囲において確保することができると判断したものであること、なお、ボーリング孔による縦方向の岩質を見ると、B級の更に下方にC級が出現したりしても、深さ方向においてこの程度のばらつきがあることは、この分野における学問上の常識であるといわれていること、なお、本件原子炉設置場所の岩石の試験の結果、その測定数値は新鮮な緑色片岩とした測定値に対応すると判断されたこと、また、ボーリングの観察結果からも、地下深部に及ぶような風化は報告されていないこと、したがつて、岩石良好度のばらつきは片理あるいは節理等の影響であり、風化によるものではないこと、(12)本件原子炉は伊予灘に面した岬の先端に位置するが、本件原子炉敷地は数千トンに及ぶ大量の岩盤を削り取つた上に建設されたこと、本件原子炉の原子炉格納施設の常時荷重は前記のとおり一平方メートル当たり約六〇トンであることから、地山の安定性にとつては載荷量の軽減となつて安全側に評価されることがいずれも認められる。
なお①本件安全審査報告書には中央構造線について全く触れていないこと、文書提出命令により被告が裁判所に提出した書類中にも中央構造線に関するものは存在しないこと②被告は敷地前面海域の断層についてボーリング調査を行つていないこと③鑑定人木村、同小野寺の鑑定の結果によれば、敷地内の新鮮な岩盤コアの強度は乾燥時一平方センチメートル当たり六二〇キログラム、吸水時同四四三キログラムであるとされているものがあるのに対して、四国電力による試験結果では乾燥時、吸水時ともその三倍程度の値が示されていること④本件基盤岩盤には一一本の断層、破砕帯が存在すること、また右岩盤を鉛直方向に観察すると、ほとんど五メートルごとに岩盤良好度が上下し、しかも地下一〇〇メートルに至つても向上していないこと、ボーリング孔では一〇メートルから五六メートルまでの岩質はC級であるが、五七メートルではD級が出現したりしており、ところどころB級が見出されているが大体においてC級であること、電力中央研究所の岩質分類法ではC級の特徴として、「かなり風化し、節理と節理に囲まれた岩塊の内部は比較的新鮮であつても、節理の間には泥又は粘土を含んでいるか、あるいは多少の空げきを持して水滴が落下する。岩塊は硬い場合がある」とされていること、トレンチ坑等では水滴が漏れ出ており、また、節理がぼろぼろになつている場所も存在していることについてはいずれも当事者間に争いがないが、右①④の事実は前示認定を左右するに足らず、また、右②の事実については、証人木村の証言によれば、海底の地質のボーリング調査は極めて困難なものであるため、現時点では海底の地質調査は、一般に、音波探査の方法で行われていることが認められるので、右②の事実も前示認定を左右するに足らない。また、右③の事実についてみるに、鑑定人木村、同小野寺の鑑定の結果に見られるボーリングコアの岩石圧縮強度と、四国電力がなしたボーリングコアの岩石圧縮強度との右相違は、鑑定調査ボーリング・カー1号孔のコアの試験結果のみを既往の試験結果と比較したものであること、右鑑定調査における岩石試験はボーリングA2孔、A5孔のコアを用いての試験、岩石ブロツクせん断試験位置の試料を用いての試験、物探用ボーリング・カー3号孔、カー4号孔のコアを用いての試験でも実施されていること、したがつて、その中の一つの試験試料のみを取り上げて、既往の試験結果と比較してみても、特別な意義は見出せないこと、なお、右のボーリングA2孔、A5孔のコアを用いた試験結果は、乾燥状態、吸水状態で、それぞれ平均一平方センチメートル当たり一二五八キログラム、同一〇二四キログラムとなつており、既往の試験結果との間に大きな差はないこと、また、鑑定調査における岩石試験の結果は、片理面や節理面で破壊したものまで含んでいること、したがつて、その試験状態の異なる既往試験結果と表面上の数値のみを比較することは妥当でないことが、<証拠>により認められるので、右③の事実も前示認定を左右するに足らない。なお、本件調査委員松田時彦が、四国における中央構造線が活動的であるとしていることについては、当事者間に争いがなく、証人垣見は、松田時彦が四国中東部の中央構造線に活動性があると述べた旨証言し、<証拠>によれば、松田時彦は中央構造線の活動性についての論文を発表していること、また、中央構造線の存在を推定させる趣旨の破線を佐田岬沿いに書いた図面を発表していることがいずれも認められる。しかし、本件安全審査においては前記のとおり、垣見、松田両調査委員が中央構造線の問題についても慎重に審査した結果、本件敷地が原子炉敷地として適当であると認める判断をしたものであるから、右は前示認定を左右するに足らない。次に、「伊方地点緑色片岩の物理的諸性質について」と題する報告書を見ると、ボーリングコアサンプルの測定値欄に空欄があり、かつ、湿潤状態において一平方センチメートル当たり一七五キログラムの小さなデータがあるが、鑑定人木村、同小野寺の鑑定の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、右報告書の測定値に空欄があるのは、圧縮試験が破壊試験であつて、一度試験したものは再使用できないことによるものであること、更に、一平方センチメートル当たり一七五キログラムの測定値をあげなかつたのは、その備考欄に「節理に沿う破壊」と掲記されていることからみても、岩石の圧縮破壊試験をするに適さない資料であり、したがつて、岩石強度の面からみて、本件敷地の適性の判断の参考資料とすることに不適当なものであつたからであることがいずれも推認できる。したがつて、右報告書に前記のような点があるからといつて、右は前示認定を左右するものではない。
なお、<証拠>によれば、アメリカのカリフオルニヤ州におけるボドガ、マリブ等の原子力発電所の設置が、敷地内及び敷地周辺に断層があることを最大の理由として中止されたことが認められるが、本件敷地及びその周辺における断層等と右アメリカの各発電所敷地内及びその周辺にある断層の規模、性質等を比較してみない限り、右の事実は、前示認定を左右するに足らないものである。
その他前示認定を左右するに足る証拠はない。
(三) 前示争いのない事実及び認定事実に照らすと、本件安全審査において、本件敷地が原子炉敷地として安全確保上問題がないと判断したことは相当と認められる。
3地震について
(一) 本件安全審査において、本件原子炉敷地に影響を及ぼす地震は、豊後水道及び伊予灘を震源とするタイプAの地震と日向灘沖及び安芸灘を震源とするタイプBの地震とに大別されること、これらの地震により敷地周辺で建物に被害のあつた記録はほとんどないこと、敷地周辺に比較的大きな地震動を与えたと思われるA・B二つのタイプの地震について推定したところによれば、基盤加速度でそれぞれ約一六五ガル及び約四五ガルであり、地震の卓越周期はそれぞれ約0.3秒及び約0.5秒であること、これらの地震力が原子炉施設に与える影響は極めて小さいものと推定されること、したがつて、本件原子炉敷地は地震との関係でも、その安全確保上問題がないと判断したことについてはいずれも当事者間に争いがない。
(二) ①被告は、敷地に影響を与える地震を伊予灘、豊後水道、宇和海を震源とするタイプAと、安芸灘、日向灘を震源とするタイプBの地震に分類し、タイプAの地震はマグニチユード六から七で、震源の深さは四〇キロメートル、タイプBの地震のうち安芸灘の地震はマグニチユード7.1で震源の深さは三〇キロメートル、日向灘で起こる地震はマグニチユード6.6から7.5、その震源の深さは二〇キロメートルから四〇キロメートルと考えていること②地震予知連絡会は、地震予測のため大地震を経験した地域や東京等の重要な地域を「特定観測地域」に指定し、異常が発見された場合には「観測強化地域」に指定して観測を強化し、異常が確認され、それが大地震と関連があると判断された場合には「観測集中地域」に指定してあらゆる種類の観測を集中していることについてはいずれも当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、(1)本件原子炉敷地周辺における過去の地震の記録や、地震による被害記録から震央分布や震源の深さ等の資料を収集し、この資料を近年の器械観測による地震記録及び地震の発生機構に関する近年の学説並びに研究業績に基づいて検討した結果、本件原子炉周辺において将来起こると考えるべき地震は、前記のとおり分類され、その規模も前記のとおりと考えられること、なお、タイプAの地震は上部マントルの地震であつて、その発生機構については、日向灘付近で地殻の下にもぐり込んだフイリピン海プレートが、この地域で約五〇キロメートル以深に至り、そこで地震を起こすと考えられていること、タイプBの安芸灘地域で起こる地震はその数が比較的少ない上、その発生機構が必ずしも明らかでないこと、タイプBの日向灘で起こる地震は、フイリピン海プレートが日向灘付近で陸の地殻の下にもぐり込むため起こるものと考えられていること、(2)有史以来の地震被害記録を基に作成された日本各地の強震以上の地震回数及び平均再来年数の等値線等によれば、本件原子炉敷地を含む愛媛県西部地域においては、強震以上の震度の地震一一回、烈震以上の震度の地震六回、激震以上の震度の地震二回がそれぞれ起こつているが、全国的に見れば、右地域が、特に地震活動の盛んな地域であるとは考えられないこと、本件原子炉敷地近傍の村落については、過去、地震によつて建物被害が生じたとする記録は皆無に等しいこと、(3)理科年表(昭和四七年版)に掲載されている有史以来の主な被害地震のうち、本件原子炉敷地を中心に半径二〇〇キロメートルの範囲内で起こつたマグニチユード六以上の地震について、その震央分布図を描いてみると、伊予灘、豊後水道及び宇和海の地域においてはマグニチユード六から七程度の地震が数回、安芸灘を中心とする半径三〇キロメートルの範囲においてマグニチユード六から七程度が数回、日向灘を中心とする半径約五〇キロメートルの範囲内においてマグニチユード六から7.5程度の地震が一〇回程度それぞれ起こつていること、並びに、敷地周辺の過去の主な被害地震は右の三つの地域に分布していること、(4)地震予知に関する情報の交換とそれについての専門的な判断を行うための連絡組織である地震予知連絡会は、地震予測を効率的に行う方策の一つとして前記のとおり地域指定をすることとしているところ、伊予灘、安芸灘は特定観測地域に指定されている(右については当事者間に争いがない)が、その指定された理由は、当該地域において過去数回、マグニチユード七前後と推定される地震が数十年ごとの比較的一様な間隔で起こつているため、他の地域より地震のデータの得られる可能性が高いという点に着目したことによるものであること、したがつて、特定観測地域に指定されたことをもつて直ちに地震の多発地帯であるとか、近く大地震が発生するとかの理由にはならないこと、(5)いわゆる檀原説によれば、伊予灘、安芸灘地域では五二年周期でマグニチユード七程度の地震が発生するとされているが(右については当事者間に争いがない)右檀原説の周期性にのみ着目するならば、明治三八年の芸予地震(M7.1)以後、その周期に当たる昭和四三年に豊後水道地震(M6.6)が起こつているので、少なくとも本件原子炉の耐用年数(約三〇年)中には右周期にのつた地震が起こる可能性はないことになること、前記のように伊予灘、安芸灘は特定観測地域に指定されて、特別な観測も行われているので、何らかの異常が観測された場合には前記のように観測強化区域、更には観測集中地域になるはずであるが、いまだそのような事実は存在しないこと、檀原説による地震エネルギーの年間平均流量は、本件原子炉の敷地を含む東径一三二度ないし一三三度、北緯三三度ないし三四度地域においては2×1020エルグであり、日本の陸地部のみに着目してその量を比較しても中間付近に位置するに過ぎず、本件敷地付近が地震の多発地帯であるとはいえないことがいずれも認められる。
なお、原告らは本件敷地付近が地震の多発地帯であることを示すものとして、重力異常、地磁気の分布図、今村博士の示した地震帯、震央分布図、河角、後藤マツプをあげ<証拠>は右主張に添うものであるが、右証拠によるも、これらの事実の信頼度、その地震との関連性の程度、特にそれが本件敷地付近で発生すると原告らが主張する大地震とどのような結び付き方をしているかが明らかでなく、他に右の点について確たる立証はない。
なお、また、原本の存在並びに<証拠>によれば、地震の繰り返し性に着目して、各地域に発生する大中地震を予測でき、それによると、四国西部等は地震活動の初期に相当していて、近い将来にマグニチユード7.5程度の地震が発生する傾向が見られる趣旨の報告がなされていることが認められるが、右は弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める乙第一六三号証に照らし、直ちに採用できない。
伊予灘、安芸灘地域が地震予知連絡会によつて特定観測地域に指定されたこと及び前記檀原説により、前示認定を左右することができないのは前叙のとおりである。
その他前示認定を左右するに足る証拠はない。
(三) 前示当事者間に争いのない事実及び認定事実によれば、本件安全審査において、本件敷地が地震の関係でも、安全性の見地からみて原子炉敷地として問題がないと判断したことは相当と認められる。
4耐震設計について
(一) 本件安全審査において、本件原子炉の耐震設計は被告の主張第五章の第二の三の(四)本件原子炉における耐震設計掲記の如く評価され、本件原子炉の耐震設計は安全確保ができるものと判断したことについては、いずれも当事者間に争いがない。
(二) ①本件原子炉の耐震設計において、施設の安全上の重要度に応じてA、B、Cの各クラスに分類した耐震設計をしていること、右A、B、Cの各クラスに分類される施設の種類が被告の主張第五章の第二の三の(四)の(2)のア、イ、ウの各(ア)掲記のとおりであること②本件耐震設計において四国沖、南海トラフで発生する巨大地震は耐震設計上考慮する必要がないとしていること③理科年表に記載されている明治七年(一八七四年)ないし大正一四年(一九二五年)の間に発生した地震のマグニチユードについて、そのマグニチユードの表示の下の括弧内に0.5を差し引いた値が示されているところ、本件耐震設計ではその括弧内の地震の規模によつたこと④本件耐震設計においては、前記タイプAの地震の最大加速度は一六五ガルと評価し、同タイプBの地震の最大加速度を四五ガルと評価したこと⑤右加速度を計算するに当たり使用した金井式は、
の式であること⑥被告は本件敷地に対し過去に最も大きな地震動を及ぼした地震として、寛延二年(一七四九年)に発生した伊予宇和島沖地震であると考えていること、また、右地震のマグニチユードは七、震央距離一四キロメートル、推定震源の深さは三〇キロメートルと考えていること⑦被告は右の地震から前記最大加速度を求めるに際し、シードの図を適用するに当たつては震源距離を用いたことについてはいずれも当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、(1)原子炉の耐震設計の役割は、一般建築物に適用されてきたこれまでの耐震設計の思想と異なるもので、両者の耐震設計において用いられる手法にも重要な相違点があること、耐震設計という技術分野は現実の地震を経験しながら前進し、より確実なものとなつていること、そして信頼性のある既知の蓄積の上に、更に原子炉については厳しい設計思想が採用されていること、なお、新潟地震で昭和大橋が被害を受けた原因とされているのは砂質地盤における砂の流動化現象であつて、基礎の設計が十分であつた構造物には右地震による被害はほとんど見られなかつたこと、十勝沖地震における函館大学のような鉄筋コンクリート造りの建物における被害は壁が少なく、かつ、極端な偏心配置の建物に集中していること、したがつて、これらの事例は、直接堅硬な岩盤上に設置され、また、その構造計画においても配慮がなされている本件原子炉の耐震設計の信頼性を左右する資料とはなりがたいこと、(2)本件原子炉を設計するに際しては、敷地周辺において将来起こると考えるべき地震の敷地基盤に及ぼす影響を明確には握することが必要であるところ、本件敷地に対する影響という観点から、敷地周辺の有史以来の主な被害地震のうち、原子炉敷地を中心に半径二〇〇キロメートルの範囲内で起こつたマグニチユード6.0以上のものについて、それぞれの地震の敷地基盤における最大加速度や卓越周期等における類似性に着目すると、耐震設計上、次の二つのタイプ(タイプA及びタイプB)の地震に分類できること、すなわち、タイプAの地震による敷地基盤での地震動は、最大加速度が大きく、卓越周期が短いという特性をもち、このタイプの地震は前記3の(二)の伊予灘、宇和海及び豊後水道地域の地震に相当する。右の地震のうち、過去に最も大きな地震動を敷地基盤に及ぼしたと考えられるものは前記寛延二年(一七四九年)に発生したマグニチユード七、震央距離一四キロメートル、推定される震源の深さは三〇キロメートルの伊予宇和島地震であつて、これによる敷地基盤での地震動の最大加速度は一六五ガル、地震動の卓越周期は0.3秒と評価されていること、タイプBの地震による敷地基盤での地震動は、タイプAの地震に比べて最大加速度が小さく、卓越周期が長いという特性をもち、このタイプの地震は前記3の(二)の安芸灘、日向灘の地域の地震に相当する。右地震のうち、過去に最も大きな地震動を敷地基盤に及ぼしたと考えられるものは昭和一六年に発生したマグニチユード7.4、震央距離一〇一キロメートル、震源の深さは二〇キロメートルの日向灘地震であつて、これによる敷地基盤での地震動の最大加速度は四五ガル、地震動の卓越周期は0.5秒と評価されていること、(3)なお、原子炉の耐震設計を考慮するに当たつては、どの地域でどの程度の地震が起こつているかということだけでなく、右地震の発生機構や深さ等について詳細な検討をした上、右地震が原子炉主要施設に及ぼす影響をは握することが必要であること、本件原子炉の場合においては、右のような観点から前記のように敷地近傍で発生する地震を地震の発生機構等の類似性に着目して、三分類した上、これらの地震の特徴を検討し、次に耐震設計への適用という観点から、それぞれの地域の地震による敷地基盤での最大加速度及び卓越周期の類似性を検討した結果、これを前記のとおりタイプA、タイプBに分類したこと、南海沖、土佐沖の地震は、次のとおり設計上これを考慮する必要がないと判断されたこと、なお、前記分類は地震の発生地域に着目した分類ではないこと、また、安芸灘で発生する地震は、その原因は必ずしも判然としないが、伊予灘、豊後水道及び宇和海の地震と異なり、上部マントルの地震活動とはみられず、かつ、地震の主圧力軸が東西性のものが多いこと、したがつて、安芸灘地域で発生する地震は、内陸で一般的な地殻内地震が主である可能性が多く、安芸灘の地震と伊予灘の地震とを分離して考えることは合理性があること、(4)四国太平洋沖合で発生する巨大地震については、その卓越周期が約一秒程度と長いこと、震源距離と予想される地震の規模から推認される地震動は、前記タイプBの地震における設計加速度よりも小さいと考えられること、本件原子炉敷地基盤の卓越周期を判定するために実施された常時微動測定結果によれば、二秒ないし五秒にピークがあり、しかも、これらのピークは場所により、測定時間によりばらついていること、また、これらのピークは通常の地盤の卓越周期とは異なり、更に岩盤の卓越周期は通常の地盤の卓越周期よりも短周期にあると考えられるので、右の観測結果は本件原子炉敷地地盤の卓越周期を現わすものとはみられないこと、したがつて、これらの長周期のピークは本件原子炉敷地地盤の振動特性を現わしているものではなく、脈動と考えられるものであること、すなわち、本件原子炉敷地の基盤は、地震動に対し、ある特定の周期の波を大きくする性質はみられないこと、本件原子炉の主要な施設の固有周期の範囲は同型先行炉の実績からみれば、0.1秒から0.3秒であると考えられるので、右巨大地震による敷地基盤の地震動と本件原子炉主要施設とが共振することはないこと、なお、排気筒の固有周期が0.9秒ある原子炉もあるが、右排気筒は沸騰水型原子炉用のものであること、本件原子炉の如き加圧水型の発電所に関しては、沸騰水型原子炉のような排気筒は存在しないこと、したがつて、前記巨大地震が本件原子炉に影響を及ぼすものとは考えられないこと、伊方町法通寺の客殿や庫裡の被害は嘉永七年一一月五日(一八五四年一二月二四日)の南海沖地震によるものとはみられず、安政元年一一月七日(一八五四年一二月二六日)の伊予西部地震によるものである蓋然性が強いこと、嘉永七年の南海沖地震等が、安全審査の資料より欠落していることは、右のとおり、本件敷地に右地震による被害が及ばなかつたとの判断によるものとみられること、なお、土佐沖の巨大地震を耐震設計において考慮した本四連絡橋と本件原子炉の設計応答曲線を比較すると、本件原子炉の主要施設の応答加速度の方が、主要周期の範囲で三倍以上の大きな比率をもつていること、この比率は、各周期における応答速度、応答変異についても不変であるので、これらすべてについて本件原子炉の設計地震動の方が本四連絡橋を上回つていること、(5)敷地前面海域の伊予灘にその存在が推認される中央構造線による断層活動に起因して、万一、地震が起こつたと仮定しても、右断層の連続性から判断すれば、その地震の規模は、この地域に発生した過去の地震と同程度(マグニチユード七程度)のものであろうと考えられること、(6)本件原子炉は、地震時における安全性を考慮して、地盤の破壊や不等沈下を避けるとともに、地震動がより明確な形で施設に伝わるように、その施設全体を堅硬な岩盤に直接設置すること、また、その施設や施設中の機器、配管等の歪み等をできる限り押えるために、その主要施設は剛構造となつていること、(7)本件原子炉については、その施設を安全上の重要度に応じ、A、B及びCのクラスに分類し、各クラスに応じた耐震設計が採用されていること、すなわち、Aクラスに分類された施設については建築基準法に定められている水平震度を三倍にした上、鉛直震度をも同時に考慮して静的解析を行い、更に、敷地で起こるものと考えるべき最大の地震動を基に設定した設計震動を用いた動的解析を行い、右静的解析及び動的解析からそれぞれ求められたいずれの地震力に対しても、余裕のある耐震設計が講じられてあること、本件原子炉施設のうち、Bクラスに分類された施設については、建築基準法に定める水平震度の1.5倍の水平震度に対して、余裕のある耐震設計が講じられていること、右Bクラスの施設のうち、支持構造物の振動と共振するおそれのある機器、配管類については、動的解析から求められた地震力も老慮していること、本件原子炉施設のうち、Cクラスに分類された施設については、建築基準法によつて定められている水平震度を用いた静的解析から求められた地震力に対して、余裕のある耐震設計が講じられていること、なお、更に、右重要度に応じて分類された施設相互の間では、下位の分類に属する施設の破損によつて、上位の分類に属する施設に波及的事故が起こらないことが確かめられていること、(8)本件原子炉の敷地周辺において考慮すべき地震は、前記のタイプA及びタイプBの地震であるが、設計地震波の最大加速度については、タイプAの地震に関しては二〇〇ガル、タイプBの地震に関しては八〇ガルとそれぞれ余裕をもつて設定したこと、すなわち、タイプAの地震に関しては、前記のとおり過去の地震で、本件原子炉の敷地基盤に対し最も大きな地震動を及ぼしたものの最大加速度は、大きく算出しても、一六五ガルであるが、設計地震動の設定に際して用いる最大加速度の決定に当たつては、右の一六五ガルに対して余裕をもたせて、これを二〇〇ガルと決定したこと、なお、右の最大加速度二〇〇ガルというのは、将来、本件原子炉敷地周辺で起こるやもしれないと考えられるタイプAの地震の最大規模を、マグニチユード七、震源の深さを三〇キロメートルと仮定し、これに発生機構等を考慮して、震央距離を零メートルとした場合における敷地基盤の最大加速度一八六ガルを上回ること、タイプBの地震に関しては、前記のとおり、過去の地震で敷地基盤に対し最も大きな地震動を及ぼしたものの最大加速度は、四五ガルであるが、将来、本件原子炉敷地周辺で起こり得るものと考えるべきタイプBの地震による設計地震波の最大加速度としては、右の四五ガルに対して余裕をもたせて、これを八〇ガルと定めたこと、(9)「設計加速度の決め方」と題する本件審査の参考資料である書面掲記のグラフ(第二図)には昭和一四年(一九三九年)三月二〇日及び昭和一六年(一九四一年)一一月一九日に、日向灘方面で発生したいずれもマグニチユード6.6を超える地震が欠落しているが、右は敷地周辺で発生する地震の中でも比較的規模が大きく、深さ等についても現在の精度で求められる唯一のデータである昭和四三年八月六日の宇和島沖地震のマグニチユードと震源の深さとの関係を示したものであり、日向灘における地震は参考としてあげられていたに過ぎないものであることがうかがわれること、また、右の資料から欠落している地震は、南海沖地震を除いて本件設置許可申請書の添付書類中に記載されていること、南海沖地震は前記のとおり本件敷地に対する影響がほとんどないことから資料によりはずしたものと推認され、その他本件敷地に影響を及ぼした地震が資料から欠落しているとはみられないこと、(10)河角マツプ及び河角マツプの最大地震動加速度の確率分布を修正した後藤マツプにおける最大地震動の加速度は、本件敷地付近では二〇〇ガルと表示されていること、これを卓越周期0.3秒で計算しなおすと三九〇ガルになるが、河角、後藤マツプは、標準的な地盤の最大加速度であつて、右の最大加速度がそのまま本件敷地の岩盤にも適用できるとは考え難いこと、また、右三九〇ガルを出した計算式も、本件敷地に適用できるものとは考え難いこと、(11)本件原子炉における耐震設計において、地震の規模を理科年表に記載されている括弧内のマグニチユードが0.5小さいものを使用した(右については当事者間に争いがない)のは、次の如き事情によるものであること、すなわち 右括弧内に示された数値が、耐震設計を含む理学、工学分野では妥当と考えられていること、これは器械観測が行われていなかつた大正一四年(一九二五年)より以前の時期の地震のマグニチユードは、被害記録や震度階報告に基づいて、震央距離一〇〇キロメートルの地点における平均震度の値を示した河角のマグニチユードを、河角の換算式を用いて、現在の器械観測で定められている気象庁のマグニチユードに換算して求めた値であるため、器械観測によつて求められた気象庁のマグニチユードよりは0.5程度大きくなつていることによるものであること、なお、関東大地震のマグニチユード7.8という値は、現在の気象庁の方法と同様の方法によつて求めたマグニチユードである7.9が、再度検討された結果7.8になつたものであること、したがつて、この場合に両者の差がほとんどないことをもつて河角によるマグニチユードと気象庁のそれとの差が0.5はないといえないこと、理科年表は、五〇有余年にわたる長い歴史を有し、理学分野における基礎データを収録したもので、その記載事項については、学界において一般的に認められた後に記載されるものであること、過去の被害地震のマグニチユードについても、器械観測の精度の向上とデータの蓄積に伴つて河角によるマグニチユードが見直され、右マグニチユードは過大評価であると指摘されることがあつたこと、これが昭和四六年に至つて理科年表の記載に反映されたこと、中部電力浜岡一号炉の安全審査では、河角のマグニチユードが使用されたが(右については当事者間に争いがない)、右原子炉の設置許可申請がなされた昭和四五年においては、まだ理科年表の前記改訂がなされておらず、そのため改訂前の理科年表によつて審査せざるを得なかつたもので、右審査に当たつては河角のマグニチユードが用いられたのはやむを得ないものであつたこと、なお、「図説日本の地震」によれば明治三八年(一九〇五年)の芸予地震のマグニチユードは7.6とされているが、右「図説日本の地震」は明治五年(一八七二年)から昭和四七年(一九七二年)にかけての一〇〇年間の地震の資料をとりまとめたものであるところ、その資料と理科年表とを対比し、更に、同表における右芸予地震と関東大地震の各記載欄を比較して見ると、右芸予地震は理科年表の河角のマグニチユードを単純に引用した疑いが強いこと、また、気象庁の勝又護はマグニチユード七付近では河角のマグニチユードと気象庁のマグニチユードとは、ほとんど同じであるとしているが、勝又が河角のマグニチユードと気象庁のマグニチユードとを比較検討したのは、関東地方を中心とする地域に発生した地震のみを対象としたに過ぎないことがうかがわれること、したがつて、勝又の使用した資料のみをもつて日本全国で発生する地震がすべて勝又説のとおりであると即断することはできないこと、また、建設省建築研究所の服部定育は伊予灘で発生する地震のマグニチユードは七ないし八であるとしているが、服部の右報告は、地域による地震の発生機構を十分吟味し、地域の地震の最大規模を予測したものとは即断できないこと、また、表俊一郎らが日本電気協会設計地震策定委員会に提出した試案には、伊予ではマグニチユード7.75の地震が上限であるとしているが、右表らの試案では本件原子炉の近傍において発生する地震の上限値がどの程度と想定されるかは明らかにされていないこと、(12)本件審査に関与した大崎順彦、松田時彦、垣見俊弘らが加わつた「原子力発電所における設計地震の策定に関する研究」の結果(右については当事者間に争いがない)は、本件原子力発電所の耐震設計に際して詳細に検討した震源の深さの推定とは精度が異なるものとみられること、(13)本件原子炉敷地近傍の伊予灘、豊後水道及び宇和海の地域において発生する地震の発生機構は、日向灘付近にもぐり込んだフイリピン海プレートが、伊予灘や宇和海の付近では約五〇キロメートル以深に至り、その付近で地震を起こしているものと考えられること、また、当該地域の震源の深さは、昭和二六年から昭和四四年の平均で約三六キロメートル、同期間におけるマグニチユード5.0以上の地震について、その震源の深さを見ると、最も浅いもので四〇キロメートル、当該地域で発生した地震のうち、最もマグニチユードの大きい宇和島沖の地震の震源の深さは四〇キロメートルであること、これらの理由から、本件原子炉の耐震設計上考慮すべき震源の深さは三〇キロメートルとしたこと、我が国において、地震の器械観測により信頼できるデータが得られるようになつたのは昭和二六年(一九五一年)以降とされており、また、器械観測が開始された初期のデータのうち、震源の深さに関するデータの精度は疑問とされていたこと、気象庁の市川政治が大正一五年から昭和四三年の地震の発生機構を再評価した結果では、本件敷地近傍地域における地震は、すべて南北方向の圧縮軸を有する発生機構として表わされており、それらは、いずれもフイリピン海プレートによる上部マントル地震であることを示すものと老えられるから、昭和二五年以前の地震についても、それらの地震が地殻内のような浅いところで発生したとは考えにくいこと、(14)金井式はもともと基盤における地震動の最高速度振幅と震源距離との関係を表わした経験式であつて、内外の強震記録によつてその妥当性は十分確かめられていること、したがつて、地殻内の浅い地震か、遠い地震とかであればともかく、本件原子炉の耐震設計に際して考慮しているような上部マントルで起こる地震に対しては、震央距離を使用すべき意味はないこと、また、耐震設計おにおける最大加速度は、個個の発電所設置場所の地盤、地震活動性等の立地条件及び耐震設計法を総合的に考慮して決めるものであること、本件原子炉における耐震設計で設計加速度を決めるに当たつては、前記のとおりシードのグラフが使用されたが、もともと震源断層距離と加速度との関係を表わしたシードのグラフの震源断層距離を、震央距離と読み替えることは本件敷地近傍の伊予灘、豊後水道及び宇和海の地震のように上部マントルで起こる深い地震の場合には適当でなく、むしろ震源距離を用いる方が妥当であり、過去に最も大きな地震動を敷地基盤に及ぼしたと考えられる寛延二年に発生した伊予宇和島沖地震は、敷地近傍の上部マントルで起こつた深い地震であると考えられるので、この地震の場合にはシードの図の適用に当たつては震源距離を用いる方が妥当であること、前記金井式に対して、
の金井式もあるが、この式を使用するのは軟弱地盤の場合であること、しかしながら、前記のとおり本件敷地の地盤は軟弱地盤とはいえないから、本件耐震設計に当たつて右の式を使用せず前記の金井式を使用したのは合理性があること、(15)本件原子炉における主要施設の耐震設計に際して用いた設計応答曲線の作成に当たつては、前記のタイプA、タイプBの地震の特性をもち、かつ、余裕のある最大加速度をもつ数種の設計地震波を受けた場合の応答を求め、それらを包絡するような設計応答曲線を作成していること もつとも、右応答曲線は地震波の一部を包絡していない(右については当事者間に争いがない)が、応答曲線という耐震設計の手法を使用するという観点からみて、設計応答曲線が設計地震波の加速度応答曲線を完全に包絡する必要はなく、局所的な尖鋭なピークについては、エネルギー的にも施設に与える影響という観点から問題とならないものであること、なお、右設計応答曲線を適用する施設については、右ピークの位置する固有周期を有するものはないこと、(16)なお、配管類の加速度応答倍率は一六六倍になるとの記述がある報告もあるが、右報告書の記載は誤植の疑いもあり、したがつて、右報告書により本件原子力発電所の応答曲線が不当であるとは即断できないこと、(17)本件原子炉については、その主要施設に常時加わつている力に前記地震力が加えられた場合にも、右施設の応力や歪みが、その弾性の範囲内にとどまるように配慮することにより、外力に多少の変動があつても施設に損傷が生ずることのないよう、また、地震力を受けた後には元の状態に復することができるよう設計されていること、本件原子炉の各施設については、施設に常時作用している自重及び原子炉の過渡状態も含め、運転時に加わる内庄等のほか、施設の重要度に応じてそれぞれ求められた地震力を加えた場合にも、それによつて生ずる応力又は変形がそれぞれの施設について定められた許容の範囲内に収まることを確認することにより、施設の耐震安全性が確保されることになつていること、安全上特に重要な原子炉格納容器及び原子炉非常停止装置については、施設に常時作用している自重及び原子炉の過渡状態も含め、運転中の圧力等のほか、前記の動的解析によつて求められた地震力の値の1.5倍(三〇〇ガル)に相当する地震力が加わつたとしても、右施設に課せられている機能が十分保持されるものであることを確認することによつて、設計余裕が確保されることとなつていることがいずれも認められる。
原告らは、被告は二つ続いて起こる地震の影響、その他それぞれの地震の特性からくる影響を考慮していない旨主張するところ、<証拠>によれば、前記のとおり嘉永七年一一月五日、安政元年一一月七日と続いて地震が発生した例が認められるが、しかし、右の続いて発生した地震が、本件敷地に影響を及ぼしたことを認めるべき証拠はないし、また、本件原子炉の耐震設計が一つの地震には耐えられるが、続いて発生した地震には耐えられないとする証拠はない。また、地震の特性からくる影響というものは、結局本件敷地に及ぼす地震動に帰すると考えられるところ、本件耐震設計については、この点の配慮がなされていることは前示のとおりである。したがつて、原告らの右主張は理由がない。
なお、原告らは、一六八五年一二月二九日及び一九一六年(大正五年)八月六日に松山市周辺で発生した地震が、本件安全審査資料から欠落している旨主張するけれども、右各地震が本件敷地に影響を及ぼしたものと認めるべき資料はない。したがつて、右資料の欠落があつても何ら本件安全審査を違法、不当ならしめるものではない。
更に、原告らは、本件原子炉の敷地よりも地盤がよく、かつ、地震の少ないアメリカのサンオノフレ原子力発電所の設計加速度の六六〇ガルと比べても、本件原子炉の設計加速度は低すぎる旨主張し、<証拠>は右主張に添うものであるが、右各証拠によるもサンオノフレ発電所の地盤が具体的にいかなるものかを示す資料は見出せない。したがつて、右原告らの主張に添う証拠は直ちに採用できない。
また、原告らは、アメリカの耐震設計に関する基準では、鉛直震度と水平震度とが同じ比率になつている旨主張するが、右主張事実を認めるに足る証拠はない。
その他前示認定を左右するに足る証拠はない。
(三) 前記争いのない事実及び認定事実に照らすと、本件安全審査において本件原子炉の耐震設計は有効であると判断したことは相当と認められる。
四社会的立地条件について
1発電所用淡水の取水について
本件原子炉用淡水を当初保内町喜木川等から取水するとしての設置許可申請がなされ、本件安全審査において、この申請を相当と判断したこと、その後右申請は変更され、保内町からの取水は取り止めになり、海水の淡水化によつて発電所用淡水を賄うこととし、その点について安全審査がなされ、これが相当とされたことについては、いずれも当事者間に争いがない。したがつて、仮に、当初の保内町からの取水を相当とした安全審査に瑕疵があつたとしても、右瑕疵は右取水の方法の変更によつて治癒したものとみられる。
2社会的条件の不備について
原告らは、伊方町及びその周辺町村の人口密度、農漁業等の産業の保護、住民意識等から考えて、本件敷地に原子炉を建設することは許されない旨主張する。
しかしながら、右主張のうち、原告らの生命、身体、財産等が本件原子炉の設置によつて損傷されるとの主張に当たる部分(以上は第三ないし第五記載のとおり)を除いたその余は、原告らの具体的利益に直接関係しないことであり、右原告らの具体的利益に直接関係しない点について、原告らは本訴でこれが違法を主張すべき利益を有しない。
3本件原子力発電所が瀬戸内海沿岸に設置される点について
原告らは、瀬戸内海は、産業、交通その他我が国の文化、経済のうえから見て、極めて重要な海であり、この沿岸に原子炉を設置した場合、いつたん事故が発生すると、瀬戸内海は放射能で汚染され、その沿岸住民の生命、身体等を損傷するばかりでなく、我が国の産業、交通、文化、経済に対して取り返しのつかない被害を与えるものであるから、瀬戸内海に面した本件敷地に本件原子炉を設置することは許されない旨主張する。
しかし、右主張のうち、原子炉事故の場合、沿岸海域の放射能汚染を介して、原告らの生命、身体、財産等を損傷するとの主張に当たる部分(以上は第三ないし第五記載のとおり)を除いたその余は原告らの具体的利益に直接関係しないものであり、右原告らの具体的利益に直接関係しない部分につき、本訴において原告らはその違法を主張すべき利益を有しない。
五四国電力の技術的能力について
原子炉設置者の技術的能力は、原子炉の安全性に密接に関係し、ひいては、原告ら周辺住民の安全に関わる問題である。しかしながら、規則法二四条一項三号はこの点について極めて抽象的にしか規定していないから、同条文の合理的な解釈によつてその基準を定め、その基準適合性を判断しなければならない。そうだとすると、原子炉の建設要員はその担当建設工事開始までに、運転要員はその運転開始までに、いずれも揃つている必要があり、その技術的能力の程度は、少なくとも現在稼動している我が国の原子炉における技術者の能力に匹敵することを要し、その能力の存否は、その技術の質や経験を併せ考慮して判断する必要があり、更に、原子炉が多数の技術者によつて建設、運転されるものである以上、組織上の面も重視しなければならないと解される。
ところで、本件安全審査において、四国電力に技術的能力があると判断したことについては当事者間に争いがなく、前記規制法二四条一項三号の趣旨及び<証拠>により認められるところの、四国電力が本件原子炉の設置、運営に充てるべく予定している技術者の人数、社内での地位、学歴、法定の有資格者数及び原子炉運転等の経験を踏むための技術者の養成計画等からみて、本件安定審査における前記判断は相当と認められる。なお、前記認定を左右するに足る証拠はない。
なお、原告らは、四国電力から提出された「一次冷却材喪失事故時の燃料被覆材の健全性について」と題する資料の記載内容、本件原子炉の設置許可申請に当たり、中央構造線を重視しなかつたこと、昭和五一年一〇月二三日の燃料装荷ミス等は、いずれも四国電力に技術的能力がないことを示すものである旨主張する。しかしながら、右の申請書、参考資料の記載内容に原告ら主張の如き点があるからといつて、これをもつて直ちに四国電力に技術的能力があるとの判断を左右する程のものとはみられない。また、燃料装荷時のミスについては、弁論の全趣旨によれば右の一事を除いて他に大きなミスの存在はないものと認められるので、右ミスをとらえて、直ちに四国電力に技術的能力があるとの判断を左右するに足りない。
第五 事故対策
一工学的安全防護設備について
1事故対策と工学的安全防護設備の健全性について
(一) 本件安全審査において、本件原子炉には、一次冷却材喪失事故等を想定した場合に、燃料被覆管の大破損や放射性物質の拡散を防止し、若しくは抑制するために、非常用炉心冷却系(ECCS)、原子炉格納容器、アニユラス空気再循環設備、格納容器スプレイの四つの工学的安全防護施設が設置されていること、ECCSは事故時にほう酸水を原子炉容器等に注入することによつて燃料温度の上昇を防止し、燃料の損傷、溶融等を防止すること、原子炉格納容器は事故時に放射性物質が外部に漏洩しないように設計されていること、アニユラス空気再循環設備は格納容器内に放射性物質が放出されたとき、アニユラス部の空気をフイルターでろ過すること、格納容器スプレイは事故時に原子炉容器の内圧を減少させ、かつ、浮遊する核分裂生成物(特にヨー素)の除去を行うようになつていること、なお、格納容器以外は重複性を有すること、また、これら工学的安全設備は運転中あるいは停止中に点検又は試験ができるようになつていること、これらの各設備の設計は相当であり、したがつて、一次冷却材喪失事故等が発生しても周辺公衆の安全は確保されると判断したことについてはいずれも当事者間に争いがない。
(二) 本件原子炉には、ECCS、原子炉格納容器、アニユラス空気再循環設備、格納容器スプレイの四つの工学的安全防護施設があること、一次冷却系の配管の破断等の一次冷却材圧力バウンダリの破損によつて一次冷却材が多量に流出する事態が生じた場合には、炉心における冷却機能が低下し、燃料被覆管が破損することになるため、一次冷却水中に含まれている放射性物質のみならず、燃料棒の中に閉じ込められている放射性物質が、格納容器内に放出されるいわゆる一次冷却材喪失事故となることについてはいずれも当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、(1)本件原子炉は、前記第四の一ないし三掲記のとおり、事故を発生、拡大させないように防護策が講じられているが、更に、万一の事故の場合にも、原子炉の安全性についての多重防護の考え方に基づき、特定の事故を想定し、そのような事故の場合にも周辺公衆が放射線障害を受けることがないよう、安全確保のために前記の工学的安全防護施設を装備しており、かつ、これらの装備は格納容器を除いて重複性を備えているため、現実に周辺住民に放射線障害を与えるおそれは考えられないこと、(2)本件原子炉のような加圧水型原子炉においては、一次冷却系配管が破断した場合、放射性物質を含んだ一次冷却水が格納容器内へ流出し、前記争いのない事実のような事態に至り、かつ、炉心にも大きな影響を及ぼす可能性があり、最悪の場合には炉心溶融という事態が発生する可能性も考えられるが、後記のとおり、ECCS、原子炉格納容器、アニユラス空気再循環設備、格納容器スプレイの機能によつて、炉心溶融を未然に防止するとともに、放射性物質の外部への放出を抑制又は防止することとなつているので、右のような事故が仮に発生したとしても(右のような事故の発生する可能性はほとんど考えられないが)、周辺住民に放射線障害を与える可能性はほとんど考えられないこと、すなわち、(3)本件原子炉においては、右一次冷却材圧力バウンダリの健全性を確保するため、一次冷却材圧力バウンダリを構成する機器及び配管は、いずれも耐食性及び機械的強度を有する材料を使用し、余裕のある強度設計を行うとともに、運転開始後もその健全性を確認できる構造及び配置等になるような対策が講じられており、(4)万一、右一次冷却材圧力バウンダリから一次冷却水が漏洩しても、右漏洩は、格納容器内の放射性物質濃度、ドレン発生量及び体積制御系の充てんポンプ流量をそれぞれ常時監視している各監視装置によつて、少量の漏洩の段階で検知され、右充てんポンプ流量が自動的に増加して、一次冷却材圧力バウンダリ内の冷却水量の減少を防止するとともに、原子炉の停止等所要の対策が講じられることになつていること、(5)本件原子炉の格納施設内には前記格納容器、格納容器スプレイ及びアニユラス空気再循環設備が設置されており、更に、格納容器外周には鉄筋コンクリート製の外周コンクリート壁が設置されていること、これらの設備によつて、本件原子炉は、平常運転時はもとより、事故時においても、放射性物質を格納施設内に閉じ込め、外部への放出を抑制又は防止するとともに、格納施設内に閉じ込められた放射性物質から出る放射線を遮断し、これが施設外に出るのを極力防止できる構造となつていること、(6)格納容器の構造は前記(第三の二の2の(二))のとおりであり、事故時の圧力や温度に対しても耐え得るような強度上の条件を備えていること、(7)格納容器スプレイ設備は事故時において、燃料取替用水タンクに貯えられている水にヨー素除去剤を混入し、格納容器上部から雨状に散布することによつて、格納容器内の温度や圧力を下げて、格納容器の健全性を保持するとともに、格納容器内に拡散した放射性物質、特に無機ヨー素を洗い落とすことによつて、格納容器から外部への漏洩を抑制する機能を有するものであること、本件原子炉において使用される格納容器スプレイ設備は、一系統の作動によつても冷却に必要な水を散布できるものが二系統設置されていること、また、格納容器スプレイポンプは試験用配管を用いて作動試験を行うことにより、その健全性を確認できる構造となつていること、(8)一次冷却材圧力バウンダリの破損等によつて、格納容器内に放出された放射性物質は、格納容器内に保持されるが、格納容器の電線ケーブルや配管の貫通部から、わずかずつではあるが漏洩する可能性があるので、右配管等の貫通部のある格納容器円筒部とこれを取り巻くコンクリート壁との間を閉空間(アニユラス部)とし、放射性物質が直接外部へ漏洩するのを防止するようになつていること、アニユラス空気再循環設備は、再循環フアンによつてアニユラス部の空気を再循環させ、この再循環過程に設けた放射性物質を捕捉する機能を有する非常用フイルターによつて、放射性物質を捕捉するとともに、アニユラス部の圧力を大気圧より低く保つことにより、アニユラス部に漏洩した放射性物質が右の非常用フイルターを経ずに外部に漏洩することを防止する機能を有していること、本件原子炉において使用されるアニユラス空気再循環設備は、一系統の作動によつても、機能を発揮できるものが二系統設置されているとともに、右設備を構成する配管やフイルター等は目視検査や性能検査等によつてその健全性が確認できる構造になつていることがいずれも認められる。
(二) 原告らは、被告は本件原子炉については念には念を入れるという考えの下に、仮に、外部に異常な放射性物質の放出をもたらすおそれがある事態が発生したとしても、原子炉周辺公衆の安全を確保できるようにするため十分な安全防護設備が設けられているというが、右の安全防護施設には信頼性がない旨、すなわち、格納容器スプレイとアニユラス空気再循環系とは、格納容器内に放射性物質が閉じ込められているということを前提として、換言すれば、格納容器の健全性が保たれている限りで、はじめてその有効性が発揮されるところ、格納容器の健全性は、炉心が溶融しないことを前提にして保障されているものであり、したがつて、炉心が溶融すれば、格納容器の放射性物質を閉じ込めるという機能が破壊され、ひいては、格納容器スプレイもアニユラス空気再循環系もその機能を発揮し得ない。そして、炉心が溶融しないためには、事故時において緊急炉心冷却装置(ECCS)が作動し、かつ、その期待された性能が発揮されることが必要である。しかるに、本件原子炉に設けられているECCSは、一次冷却材喪失事故時に炉心の溶融を防ぐという機能に関しては極めて信頼性の低いものであると主張する。
しかしながら、本件安全審査においてECCSが有効であると判断されたこと及び右判断は相当とみられることは後記のとおりである。したがつて、右は前記認定を左右するものではなく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
(三) 前示争いのない事実及び認定事実に照らせば、本件安全審査において、本件原子炉における工学的安全防護施設(ただし、ECCSについては後記のとおり)によつて安全性確保ができると判断したことは相当と認められる。
2ECCSについて
(一) 本件ECCSの審査に当たつては暫定指針(いわゆる三項目指針)が使用されたこと、更に、右指針を具体化するものとして請求の原因第四章の第五の三の2掲記の三条件が守られているかどうかを審査する方法がとられたことについては当事者間に争いがない。
ところで、原告らは右暫定指針は判断基準として非常にあいまいであり、不十分なものであるため、右指針に適合したからといつて、ECCSは何ら炉心溶融を防ぐ保証にはならない旨、その他請求の原因第四章の第五の三の3掲記のとおり主張し、更に、右三項目指針を具体化する基準は三島委員が恣意的に作成したものである旨主張する。
しかし、<証拠>を総合すれば、(1)ECCSの役割は、一次冷却材喪失事故時において、燃料の適切な冷却を維持することにより、燃料被覆管の大破損を防止することにあること、すなわち、万一、燃料被覆管が酸化による脆化のため大きく損なわれるようになると、炉心の冷却可能な形状が維持できず、ひいては、炉心が溶融する可能性も出てくるため、ECCSの働きによつて、燃料被覆管が多少損なわれることはあつても、大きく損なわれることのないように配慮しているものであること、右指針①はかかる趣旨の下に定められたものであること、(2)いわゆる三項目指針の②はLOCA時に被覆材の脆化部分の割合を小さく制限すること、すなわち、最高温度を制限することとによつて、燃料被覆管の酸化による脆化を抑制し、右被覆管がそれに加わる加重に対して十分耐えることを保証しようとしているものであること、したがつて、右指針②が温度のことを規定しているからといつて、指針そのものが温度の点のみに着目して炉心の冷却可能形状が維持できることを保証しようとしているものではないこと、(3)水素が空気中に含まれる酸素と反応するためには、水素の濃度が四パーセント以上存することが必要であるが(右については当事者間に争いがない)、本件原子炉の場合には、その格納容器の体積が極めて大きく、その自由空間は約四万立方メートルもあるため、例え、ジルコニウム・水反応が、全被覆材の一パーセントに生じたとしても右格納容器内の水素濃度は空気中の酸素と反応する濃度にならないし、また、一次冷却材喪失事故時には、破断口から吹き出す高温の蒸気が格納容器内で急激に上昇するとみられること及びそれが格納容器頂部に設けられたスプレイ設備から散布される冷却水によつて、かくはんされるため、水素が格納容器上部にたまる事態は起こり得ないことがいずれも認められ、右認定を左右するに足る確たる証拠はない。
また、三項目指針を具体化する基準を三島委員が恣意的に作成したとの主張事実については、これを認めるに足る証拠はない。
したがつて、前記原告らの主張は理由がない。
(二) 本件原子炉のECCSの構造が被告の主張第四章の第五の一の4の(二)の(2)のア掲記のとおりであること、ECCSの有効性のテストは実物はもちろん小型化したものでも世界のどこでも確かめられていないこと、本件安全審査においては、部分的な実験データを取り込んだ計算によつてECCSの有効性を判断するという方法がとられていること、未知の要素を計算によつて解明することはできないことについてはいずれも当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、(1)本件原子炉では、前記のように多量の一次冷却水が格納容器内へ流出する事態が生じた場合を仮想し、このような場合においても燃料被覆管の大破損に至るのを防止することができるようにECCSが設置されているものであること、(2)本件原子炉において使用される蓄圧注入系 高圧注入系及び低圧注入系は、それぞれ二系統ずつ、いずれも独立の系統をもつて設置され、右三種類の注入系のうちのそれぞれ一系統だけの作動により、炉心冷却に必要な冷却水が注入できるものとなつていること、また、高圧注入系及び低圧注入系は外部電源が喪失した場合においても、少なくとも各二次系統のうち、各一系統は作動するように、二台の非常用デイーゼル発電機によつて、それぞれ電源が確保されていること、(3)本件原子炉において使用されるECCSは、運転開始後も、その健全性が確認できるように、テスト配管によるポンプの起動試験、非常用デイーゼル発電機の起動試験、信号系統の作動試験等の各種の試験及び検査ができる構造となつていること、(4)本件原子炉において使用されるECCSについては、現実にはほとんど起こり得ないような一次冷却材喪失事故を想定した場合においても、その性能を発揮するものであることが昭和四七年一〇月に安全審査会において定められた「非常用炉心冷却設備(ECCS)の安全評価指針について」を参考の上確認されていること、(5)アメリカのLOFT八〇〇番シリーズ実験で、ECCSの蓄圧注入系が模擬炉心の中に予期されていたように水を送ることができないという結果が出た(右については当事者間に争いがない)が、右実験については、その目的がもともとブローダウン現象の解析のための計算コードを検証することにあり、ECCSの有効性を確認するためのものではなかつたもので、実験装置の形状も実際の加圧水型原子炉と異なつていたため、注入水が炉心に到達せず、脇を流れて破断口から流出してしまつたものとも考えられること、したがつて、この実験結果が実用炉にそのままあてはまるかどうかについては多くの疑問が提起されていること、しかし、現段階では、この実験結果を実用炉に適用すべきだとの考え方を全く否定し得る知見もないので、本件原子炉におけるECCSの性能評価に際しては、あくまで安全を守るという考えのもとに、ブローダウン過程では蓄圧注入系の冷却効果はないものと仮定して計算したこと、(6)LOCA時における熱水力学的現象は多くの実験によつて確認し得るいくつかの部分的現象に分けることができるから、まず、個々の部分的な現象についての多くの実験、経験によつて裏付けされた個々のモデルを作成し、次に個々のモデルを基に、更に、実験、経験により、かつ、不確実な点は厳しい条件を設定することによつて、個々のモデルの間の関係付け、総合化を行い、一方、諸数値についても、個々のモデルと同様に、実験等によつて確認した上で設定することにより、現実を総合的に評価し得る解析コードが作成され、妥当性があるとの評価を得ていること、そしてこのような方法をとることは、実際に事故状態を発生させて実験することのできない原子力発電所については、安全上有効なものであること、本件原子炉のLOCAの際におけるECCSに関する解析は、ブローダウン時の現象解析、再浸水及び再冠水時の現象解析、燃料被覆材温度解析等からなつており、ブローダウン時の解析モデル及び諸数値については、アメリカ原子力委員会によるLOFT計画の中で多数の実験が行われ、また、ブローダウン後の両浸水及び再冠水時の炉心冷却についての解析モデル及び燃伝達等に関する諸数値は、実物大の燃料模型を用いた一連のELECHT実験等により裏付けられている上、これらの解析の結果に基づく燃料被覆材温度の解析に当たつても、試験結果等によつて裏付けられた数値が用いられていること、(7)ECCSの作動を解析するに際しては、実際に事故が発生したときに、どのような現象が生ずるかを忠実に知ろうとする最適推定モデルと、右事故時において、ECCSが炉心を冷却するに十分な性能を有するかどうかを確める評価モデルとがあり、この解析目的の違いから、解析に使用されるモデルも異なること、評価モデルによる解析結果が現実の値に対して、定量的にどれだけ保守的なものとなつているかを明らかにするためには、最適推定モデルの完成を待ち、これと評価モデルとを比較することが必要となるが、安全評価上は、評価モデルにおける解析結果の保守性が確保されていることが確認されれば十分であり、右保守性を定性的に評価することは専門的知識によつて十分可能であること、アメリカのLOFT計画によつて改訂されているのは右の最適推定モデルであり、本件原子炉ECCS解析に用いられたのは評価モデルであり、その保守性は確認されていること、(8)本件原子炉のECCSの性能を解析するため、アメリカのウエスチングハウス社が開発した解析モデルが使用されているが、この解折モデルは破断口からの一次冷却水の流出状況や蓄圧注入系の注入状態等を解析するために行われた各種の実験、一次冷却水が流出し、ECCSからの注入水によつて再び炉心の水位が回復するまでの間に、燃料の冷却はどのようになるかを解析するために行われた各種の実験の結果に基づいているとともに、実験によつては確認され難い各種の複合的現象については、厳しい条件を設定した上で作成されたものであること、(9)ECCSの性能を評価するための一次冷却材喪失事故の想定としては、まず、一次冷却系配管の破断の態様として、破断の形態、破断の面積、破断の場所の三者を組み合わせたもの数種が使用されていること、(10)次に、一次冷却材喪失事故時における炉心の状態として、原子炉出力は定格出力の二パーセント増し、被覆材温度に重要な影響を与える出力密度は設計で考慮している最大値、核分裂生成物の崩壊熱は無限時間運転時の値の二〇パーセント増しとするなどの条件が設定されていること、更に、一次冷却材喪失事故時に、外部電源がすべて喪失し、かつ、非常用デイーゼル発電機二台のうち、一台しか起動しないものと仮定している。すなわち、高圧注入系及び低圧注入系は、それぞれ一系統しか動かないものと仮定していること、(11)本件原子炉ECCSの解析によれば、燃料被覆管の酸化による脆化その他いずれの観点からみても、前記一次冷却配管の破断の態様として最も厳しいものは、低温側配管が瞬時にギロチン破断する場合であること、すなわち、ECCSの性能評価を行うに際して、一次冷却材喪失事故を想定するに当たつては、一次冷却配管の破断の態様の一つとして、「破断の面積」を大はギロチン破断(DEB)に相当する約0.8平方メートルから、小は約0.05平方メートル(0.5平方フイート)まで数種想定した上解析したこと、右解析結果から、0.5平方フイートでは燃料被覆管の最高温度は低下する傾向にあること、最高温度自体も八三八度Cであつて、右解析結果のうちで最も厳しい0.6DEB(BEBの0.6倍)の場合の一一四六度Cに比べて低いこと、なお、0.5平方フイート以下の小さな破断面積で燃料被覆管温度が高くなるという理由は考えられないことから、本件原子炉で使用するECCSは、一次冷却系配管のいかなる寸法の配管破断に対しても有効であると判断したこと、なお、小破断の場合には、大破断の場合に比べて、一次冷却水の流出流量が少なく、したがつて、右一次冷却水の炉心からの流出に伴つて十分炉心の崩壊熱を除去することができ、また、一次冷却圧力がECCS注入可能性圧力以下に低下した後には、大破断の場合におけると同様にECCSが働くこと、そして、本件原子炉のECCSと全く同設計の伊方二号炉の安全審査に際し、念のため行われた配管の口径約一五センチメートル(破断面積約0.02平方メートル)の場合の解析によれば、被覆管の最高温度は七五八度Cにしかならなかつたこと、蒸気発生器細管破断事故は、破断場所及び流出流量からみて、炉心にとつて大口径一次冷却系配管破断のように厳しいものではないこと、破断による一次冷却水流出期間中も燃料の冷却は十分確保され、燃料被覆材の損傷は生じないこと、また、ECCSも有効に作用することがいずれも確認されたこと、(12)本件原子炉ECCSの性能の評価のための右解析の結果によれば、前記のように燃料被覆管の最高温度は一一四六度Cにとどまり、その最も酸化の進んだ部分においても、その厚さの九〇パーセント以上は右の酸化の影響を受けず、その延性は保たれ、その健全性が大きく損なわれることはないと評価されたこと、そのため、燃料被覆管はブローダウン時はもちろんのこと、再冠水時においても冷却可能な形状を維持できること、なお、LOCA時においても燃料被覆管がふくれて穴があき、その穴から蒸気が流入して燃料被覆管の内面から酸化する現象に関し、内面の酸化量の割合を二五パーセントと仮定した場合においても、酸化の影響をけていない部分の割合はふくれによる肉厚減少を一〇パーセントと仮定しても、その減少した肉厚の八四パーセント程度であつて、燃料被覆管が大きく損なわれることはないと評価されたこと、(13)「被覆材温度Fwのパラメーターサーベイ」の第一図によると、Fwが八〇パーセント以上の燃料棒一三本は完全に隣接しており、そのうえFwが八〇パーセントないし八五パーセントのものが右一三本を取り囲む形態で存在しているが、右「被覆材温度Fwのパラメーターサーベイ」の第三図をみると、前顕第一図のようなFwの分布となる燃料集合体は、炉心全体でみれば全一二一体のうち八体に過ぎず、しかも完全にばらばらに離れて存在していること、右資料の第一表のケース六の肉厚減少二〇パーセントの例によれば、Fwの最小値は7.6パーセントで、八五パーセント未満の燃料棒は全体で1.3パーセントであること、右の燃料集合体八体以外はすべてFwが八五パーセント以上であること、更に、炉心の横方向から見れば、右資料のB―三図により中心付近のごく一部のもののみが制限値に近づくこと、なお、オークリツジ国立研究所のホプソン等の研究で、一次冷却材喪失事故が終息する温度条件では、Fwが七〇パーセント以上であれば、被覆管を半径方向に約3.8ミリメートル瞬間時に圧縮しても多少ひび割れができるものがある程度の状態であり、更に、Fwが七五パーセント以上であれば、ひび割れもできないという実験結果が報告されていること、したがつて、本件原子炉の場合冷却可能状態は維持されるとみられること、(14)本件原子炉の場合、前記のように被覆管の内面酸化を適切に考慮した場合において、その最高温度は基準値の一二〇〇度Cを下回つたこと、なお、日本原子力研究所の実験の結果では、内面酸化割合が外面のそれに比べて平均二倍の酸化量を示したが、右実験の結果は燃料被覆管の内外面の酸化量を示しているのではなく、酸化膜の厚さの比を示しているに過ぎないこと、内面酸化については、外面酸化に比べて被覆管内外面の温度条件はほとんど同じであるにもかかわらず、酸化に必要な蒸気が十分に供給されないため、酸化の割合を一より小さいものと考えるのが妥当であること、なお、内面酸化の計算は外面酸化の計算と同様にベイカージヤストの式が用いられており、この式は反応量を多めに見積もるものであることが知られていること、なお、伊方二号炉においては、内面酸化割合を「一」として計算したが、被覆材最高温度は基準値の一二〇〇度Cを超えなかつたこと、(15)PWRIFCHT実験によれば、燃料被覆管がふくれを生じた場合には、蒸気流がかくはんされること及び蒸気流に含まれている水滴が細粒化されること等からかえつて冷却効果がよくなること、FLECHT実験においては、再冠水速度が実際の原子炉において予側される毎秒当たり一インチの値であつても、流路閉鎖による冷却効果の増大が確認されていること、ふくれによる流路閉鎖を忠実に模擬した場合とFLECHT実験のように平板で模擬した場合とでは、冷却効果の点において大きな差異がないことが確認されていること、したがつて、ふくれによる流路閉鎖はECCSの性能の減少をもたらすのではないと考えられていること、(16)前記のように、本件原子炉のECCS評価の結果、一次冷却材喪失事故期間を通して燃料被覆管が延性を維持することによつて、炉心の冷却可能形状の喪失をもたらすような大破損を起こすことはないと評価されていること、被覆管は相変態が起こるような高温では円周方向に数十パーセント伸びる程の延性を有していること、被覆管の相変態による破断の実例又は実験の結果を示す資料は提出されていないことから、被覆管の相変態により、その破断が生じて、ECCSの性能が発揮できなくなると即断し難いこと、(17)小出らが蒸気発生器の細管の内径、炉心の流路断面積、圧力容器の入口配管と炉心底部との高低差及びK値について、いずれも必要な数値を確知し得ないまま計算した結果、本件ECCSの再冠水速度は最大値として、ACC注水中毎秒当たり0.5三インチ、ACC注水後は、同1.1インチとなつたが、本件原子炉ECCS評価においては、再冠水速度は毎秒当たり0.6インチないし1.2インチとされていること、したがつて、本件ECCS評価における再冠水速度の方が若干多いが、ほぼ対応した数値であること、他方、小出らの計算は前記のとおり不確実要素に基づくものであること、したがつて、本件ECCS評価における再冠水速度が持に過大とはみられないこと、(18)本件ECCS評価に際し、ブローダウン時の解析に用いられた計算コード(SATAN―V)は、一次系を六五の小領域に区分し、右小領域においては、温度条件が同一(熱平衡)であり、かつ、蒸気と水の流れの方向及び速度が同一(均質)であるとして、ブローダウン時の熱水力計算を行うものであるが、セミスケールブローダウン実験についての右計算コードによる計算値とその実験値とは合致しており、右熱平衡、均質モデルは不当なものでないこと、(19)原子炉において使用されるECCSの性能評価においては、ブローダウン期間中に蓄圧注入系から注入された冷却水は炉心を全く通つていない評価になつていることは解析結果から明らかであり、下部プレナムに一部残存するものとしている冷却水が直接的な炉心冷却に寄与することは考慮されていないこと、また、右ブローダウン実験結果を踏まえ、ブローダウン終了時には、改めて蓄圧注入系からの注入水の全量を差し引き、炉心下端にまで水位が回復する時間を遅らせ、炉心が露出して冷却されない期間を長くすることとし、炉心バイパスの現象に関するブローダウン時の取り扱いとしては、厳しい評価をしていること、(20)LOCA時における破断口からの流出量は、ムーデイの式から求める値に放出係数と破断面積とを乗じて求めるものであること、ムーデイの式は理論的に考えられる最大流量を求める式であるため、現実的な流量を求める際には、補正係数として1.0より小さい放出係数を用いる必要があること、ギロチン破断の形態は、一次冷却系ループの主配管についてのみ考えればよく、主配管に接続している小配管が破断した場合は、主配管の側面に穴があいた場合に相当し、これは、ギロチン破断といわず、スプリツト破断として別に取り扱つていること、本件原子炉のECCS評価におけるギロチン破断の解析で、放出係数が1.0、破断面積がギロチン破断面積の1.0倍及び0.6倍としているのは、破断面積が0.6より小さい場合を見落しているのではなく、物理的にはギロチン破断は一義的に定まるもので、放出係数を1.0及び0.6として解析したものであること、また、破断面積0.6以下の解析を行つていなくとも、ギロチン破断の場合には、0.6というのは放出係数と同じことを意味するものであり、数多くの実験から放出係数は0.7ないし0.6程度であることが確かめられていること、前記のとおり本件ECCS評価は最悪のケースを見落しているとはみられないこと、(21)本件原子炉において使用されたECCS評価に当たつて求められた被覆材温度はモード1実験の結果による燃料被覆材温度より低い値となつているが、計算コードで解析したその実験についての計算結果と実験結果とを比較するのと異なり、種々の条件の異なる実験によつて求められた値と、本件原子炉において使用されるECCSの性能評価に当たつての解析結果から求められた値とを直接比較してみても、両者の間では多くの条件が異なるため、比較の意義は少ないものというべく、また、レラツプ四計算コードによる計算結果とモード1実験の解析の結果とを比較すると、計算の結果が危険側にでたが、右計算コードは、現象を現実的に解析する最適モデルであること、本件原子炉をはじめとする実用炉のECCS評価に用いられる計算コード(評価モデル)は、最適モデルに比べ各種の安全余裕を有していて、燃料被覆管温度も高めに計算されるように作られていること、したがつて 右の計算と実験の結果に若干の違いがあつたことは、本件解析が危険な側を示すものであるとは即断できないこと、(22)本件ECCS評価によれば、全燃料被覆管について、金属と水との反応割合は、0.1パーセント以下であり、水素の生成量も小さいと評価されたこと、なお、ジルカロイは滞留水蒸気にさらされると水素を吸収してその延性を著しく低下させるという実験結果があるが、日本原子力研究所で行つた右実験結果は、一一五〇度C及び一二〇〇度Cに加熱したジルカロイ被覆管を滞留水蒸気にさらしたところ、その時間が三分以内であれば急速に延性を回復する傾向を示すのに対して、三分を超えると急速に脆化することを示したものであり、LOCA期間に燃料被覆管の温度が上昇し、右実験値付近にとどまるのはごく短時間に過ぎないこと、したがって、右実験結果をもつて直ちに本件原子炉のLOCA時における燃料被覆管の強度が低下するとはいえないことがいずれも認められる。
<証拠>によれば、アメリカの原子炉メーカーのバブコツクス・ウイルコツクス社がアメリカ原子力委員会に提出した資料では、加圧水型原子炉の燃料棒については、被覆管の破裂は低温側配管破断のわずか1.3秒後に炉心の七〇パーセント以上に及ぶと予側していることが認められ、また、証人三島は被覆管のLOCA時における破裂は多くて四割ぐらいである旨証言するが、前示認定に照らし右証拠はいずれも採用しがたい。
また、原告らはLOCA時に燃料被覆管の健全性を維持するための計算根拠となつた熱衝撃荷重及びアセンブリ拘束等の数値が妥当でない旨、請求の原因第四章の第二の三の3の(三)の(1)、(2)掲記のとおり主張する。しかし、原本の存在並びに<証拠>によると、LOCA時における燃料被覆管の健全性を維持する方法としては①燃料被覆管にかかる応力と、破裂や、酸化の生じた燃料被覆管が耐え得る応力とを比較する方法(ウエスチングハウス社が提案している方法)と②燃料被覆管の最高温度と酸化による脆化から燃料被覆管が十分な延性を有しているかどうかを判断する方法(オークリツジ国立研究所のホプソンらが提案した方法)との二つがあるが、本件原子炉の安全審査では①の方法については、右応力計算の方法等が、まだ必ずしも確立されているとはいえないので、単に判断の際に参考とするにとどめ、②の方法によつてLOCA時における燃料被覆管等の健全性が保持されると判断したこと、したがつて、熱衝撃荷重、アセンブリ拘束値は、いずれも本件安全審査におけるLOCA時の燃料被覆管の健全性の判断に使用しなかつたものであることがいずれも認められる。したがつて、原告らの前記主張は理由がない。
また、原告らは、蒸気発生器細管が減肉、腐食等の損傷を受けている状態で、一次冷却材喪失事故が発生した場合には、右事故に際して生ずる外圧により、右損傷を受けている葬気発生器細管は容易に圧潰や破断を起こし、二次冷却水が高圧蒸気となつて右細管破断部に入り、更に、蒸気発生器を経て圧方の低下した炉心部は逆流するため炉心が高圧となり、ECCSによる炉心の注水が妨げられて炉心溶融に至る旨、その他請求の原因第四章の第三の二の1の(三)のとおり主張し、証人佐藤は右主張に添う証言をする。また、<証拠>も右主張に添うものである。しかし、前記のとおり本件原子炉において使用される一次冷却系配管は本件安全審査において安全性を保持できると判断されていること、そして、右判断は相当と認められることに加えて、本件原子炉において使用される蒸気発生器細管は、一次冷却系配管が破損するが如き事態においても、その健全性を保持できるように配慮されていることは前記認定のとおりである。しがつて、原告らの右主張は理由がない。
その他前示認定を左右するに足る証拠はない。
(三) 前示争のない事実及び認定事実に照らし、本件安全審査において、本件原子炉のECCSは一次冷却系配管破断による一次冷却材喪失事故時において、安全性を保持できると判断したことは相当と認められる。
(四)(1) 原告らは、LOCAの原因となる一次冷却系圧力バウンダリの破損には、配管類の破断の他に、原子力圧力容器のき裂、割れ等の破壊があり、圧力容器が破壊すると原子炉内に炉心冷却水を保持することが不可能になるので、注入方式の現在のECCSは全く役に立たない。更に、ECCSを全く無効にする一次冷却材喪失事故は、圧力容器と連結している一次冷却系配管の破断によつてもひき起される。すなわち、一次冷却系配管の破断によつて噴出する大量の蒸気の衝撃で、圧力容器の破壊や回転が誘発されるという場合である。圧力容器が回転すれば、それに連結しているECCS配管も破損し、圧力容器の破壊の場合と同様に、本件ECCSは全く無効となる。すなわち、本件原子炉にとつては、圧力容器の破壊によつて起こるLOCAに対する防護設備は何一つない旨主張する。なお、本件原子炉に設けられているECCSは圧力容器破壊によつて発生するLOCAに対しては効力がなく、本件原子炉には圧力容器破壊によつて起こるLOCAに対する防護設備がないことについては当事者間に争いがない。
しかし、前記のとおり本件原子炉において使用される圧力容器等は本件安全審査において安全性を維持される旨判断され、右判断が相当と認められることは前示のとおりである。したがつて、原告らの右主張は理由がない。
(2) 原告らは、更に、本件ECCSの効果がないLOCAとして、二次冷却系の故障によるものがある旨主張する。すなわち、一次系の熱除去は正常な時には蒸気発生器二次側の水の蒸発によつて行われているが、しかし、主給水系と補助給水系からなる二次側給水系が故障し、給水が止まると、原子炉の停止が行われても、放射性物質の崩壊熱による発熱があり、蒸気発生器二次側の水は右発熱によつて蒸発し、およそ三〇分で空になるので、蒸気発生器による一次系の冷却は行われなくなるため、一次系の温度は上昇し、一次系の圧力は高くなる。そして、一次系が過圧状態になると、加圧器にある蒸気逃し弁及び安全弁が作動して一次系の蒸気を放出することとなるが、蒸気逃し弁が開かれると、それは極小破断LOCAに相当して、一次冷却材は失われるに至る。この場合には、ECCSからの注入水が炉心で蒸発することによつて炉心を冷却することになるが、しかし、原子炉内は蒸気のため高圧(一六〇気圧以上)であるため、炉心の注水は充填ポンプによつてしかできない。しかし、充填ポンプによる注水量だけでは前記崩壊熱の除去には不十分であり、注入水も蒸発してしまうため、炉心温度は上昇し、蒸気発生器の二次側の水が空になつてからおよそ三〇分から一時間以内に炉心は溶融する。右のように、二次給水系の故障によるLOCAに対しては、本件ECCSはたとえ作動しても炉心溶融を防ぐことはできないものであり、<証拠>は右主張に添うものである。
しかし、<証拠>によれば、本件原子炉には、二次給水系の給水設備として、主給水ポンプ三台と電動の補助給水ポンプ二台及びタービン駆動の補助給水ポンプ一台とがそれぞれ設けられていること、そして、たとえ、右の主給水ポンプ三台のうち一台が故障したとしても、他の二台によつて運転を継続することができ、また、外部電源がすべて喪失して主給水ポンプのすべてが作動できなくなつたとしても、それぞれの非常用デイーゼル発電器を電源とする補助給水ポンプ二台のうちの一台あるいは蒸気発生器で発生した蒸気の一部を主蒸気管から抽気することによつて駆動することができるタービン駆動補助給水ポンプによつて、いずれも二次冷却水を蒸気発生器に給水できるようになつていること、したがつて、二次冷却水の給水が全く停止する可能性は考えられないことがいずれも認められる。したがつて、前記原告らの主張に添う証拠は採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
二万一の事故に備えての立地条件
1災害評価に基づく立地条件について
(一) 本件原子炉の安全審査において、万一の事故に備えての立地審査のための災害評価として、被告の主張第五章の第四の三の2、3のとおり想定災害の評価を行い(ただし、厳しい条件をとつたとの点を除く)、本件原子炉の立地条件が立地審査指針に適合し、周辺公衆の安全を維持できると判断したことについては当事者間に争いがない。
(二)(1) <証拠>を総合すれば、「原子炉立地審査指針の目的の一つは行政判断の一貫性を図る」という点にあること、また、「仮想事故の際は重大事故を想定した際に期待した安全防護施設のうち、そのいくつかが作動しないと仮定して、これに相当する放射性物質の放散を仮定する。しかし、この場合、どの安全防護施設がどの程度不動作と仮定するかの判断の基準は、原子炉の型式及びその設計方針により差異がある」とするのが、立地審査指針の制定者の解釈であつたこと、なお、本件原子力発電所と同型の原子炉を備えた先行炉である美浜一号炉、同二号炉、高浜一号炉、同二号炉における各安全審査の立地審査においても「仮想事故としては重大事故と同じ事故について、安全注入系の効果を無視し、炉心内の全燃料が溶融したと仮想する」とされた(以上については当事者間に争いがない)にもかかわらず、いずれも格納容器の健全性は維持されることを前提としていることがいずれも認められる。当事者間に争いのない三島良績の著書「核燃料工学」の仮想事故の内容についての記述も右認定を左右するものではなく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
そうすると、立地審査指針制定者の解釈では、仮想事故としての一次冷却材喪失事故の場合には、炉心溶融に至ることまでの想定はしているが、更に、格納容器その他の原子炉の安全防護施設がすべて健全性を失う事態までは想定事故の内容、経過として予定しておらず、従来の原子炉設置許可処分に際しての立地審査においても、右立地審査指針制定者の解釈によることが定着していたものと認められる。
そこで、立地審査指針の目的から右の解釈ないし審査実務の妥当性を按ずるに、立地審査指針は原子炉の危険性に鑑み、原子炉と周辺環境との間に適切な離隔を置くこととし、右適切な離隔を置くために想定事故という手法をとつているのであるから、想定事故の内容、経過等については原子炉における事故発生の可能性とその規模、安全防護施設の機能等を総合して慎重に検討して決めるべきことであると解され、原告ら主張の如く、想定事故の内容、経過等として安全防護施設の機能を無視した場合には事故はどのような結果になるか、又は、炉心が溶融した場合にはどのような事態に立ち至るかを推論し、その結果生ずるであろう災害の評価をし、これによつて原子炉の立地条件の可否を決めることを立地審査指針が予定しているものとは解されない。のみならず、前記のとおり本件安全審査において、本件原子炉の一次冷却系配管、蒸気発生器細管及びECCSその他の安全防護施設は、いずれも安全性の確保ができるものと判断され、右判断は相当と認められること、前記のとおり、本件原子炉と同型、同出力の原子炉はもちろん、その他の商業用原子力発電所においては、未だかつて一次冷却系配管破断事故又は蒸気発生器細管破断事故が発生したことはないこと、そして、本件原子炉において特に前記立地審査指針の解釈、実務の取り扱いを変更すべき事情が存在することを認めるに足る資料のないことに鑑み、本件災害評価において、右解釈、取り扱いを不当として改めるべき必要性は見出せない。
したがつて、前記解釈及び実務の取り扱いは本件災害評価においてその妥当性が認められるものである。
(2) 前記のとおり、立地審査指針における想定事故の意義が考えられる以上、その事故原因までも考慮すべき必要性は認め難い。もつとも、立地審査指針一の一―二基本目標によれば、想定事故が及ぼす結果を判断する要素として、「敷地周辺の事象」を考慮すべきことが掲記されているが、このことは、災害評価に敷地周辺の人口分布、地形、気象等を考慮すべきことの趣旨で、敷地周辺の地震現象をも考慮すべき趣旨とは解されず、かつ、前記のとおり、本件安全審査において、地震現象との関係でも、本件原子炉の立地選定は問題がなく、かつ、本件原子炉の耐震設計は安全性を確保できるものと判断され、右各判断は相当と認められるものであるから、本件原子炉における立地審査において、地震を原因とする事故を想定しなかつたことは、立地審査指針に違反するものではない。
(三) 本件安全審査において、本件原子炉の一次冷却系配管、蒸気発生器細管は健全であり、その安全性が確保されると判断されたこと及び本件原子炉格納容器、アニユラス空気再循環設備、格納容器スプレイ、ECCSの各構造、機能はいずれも健全であり、安全性を保持するものと判断されたこと、右各判断はいずれも相当と認められること、なお、右各機器の構造はいずれも前記のとおりである。そして、これらの事実と、<証拠>を総合すると、(1)本件原子炉の炉心から敷地境界までの最短距離は約七〇〇メートルであり、(2)本件敷地周辺の人口(ただし昭和四六年当時)は、原子炉から半径1.4キロメートル以内には人家はなく、半径三キロメートル以内には約三六五〇人、半径五キロメートル以内には約八〇〇〇人が居住し、また、本件敷地周辺の比較的大きな都市は炉心から約一二キロメートルの八幡浜市(人口約四万六九〇〇人)、ほかに大洲市(人口約三万七三〇〇人)、宇和島市(人口約六万四三〇〇人)があること、(3)本件想定事故の一つに、一次冷却系の大口径配管破断を選んだのは、従前から立地審査に当たり採られていたところを踏襲したものであること、及び右事故の発生を仮想した解析結果によれば、右は原子炉に最も苛酷な結果をもたらす事故の一つであり、ひいては周辺住民の安全確保の見地から無視できないものであるからであり、また、想定事故の他の一つに蒸気発生器破断事故を選んだのも、従前から立地審査に当たり採られていたところを踏襲したものであること、及びこの事故の発生を想定した場合、放射性物質が格納容器を通さずに直接環境へ放出され、ひいては周辺住民に多大な放射性被ばくを与えることとなるため、安全確保の見地から無視できない事故であるからであり、(4)重大事故及び仮想事故における一次冷却材喪失事故の際、炉心に内蔵されている放射性物質が、格納容器内へ放出されるとする量は、美浜二号炉、高浜一、二号炉、大飯一、二号炉と比較しても同一か、多少の差があるに過ぎないこと、(5)一次冷却材喪失事故時において、格納容器、アニユラス空気再循環設備、格納容器スプレイが、事故時に特に厳しい物理的、化学的状態にさらされることはないと見られること、また、故障等によりアニユラス空気再循環設備、格納容器スプレイが作動しないという事態が起こる可能性は少ないと見られること、しかし、本件災害評価においては、これらの設備はそれぞれ二系統のうち一系統しか作動しないとし、また、アニユラス空気再循環設備についてはフイルターの効率を設計より低く仮定していること、(6)右同事故においては、放射性物質はすべていつたん格納容器に閉じ込められ、その後、気体状の放射性物質はアニユラス部を経て前掲排気筒から放出されるものと見られること、(7)格納容器内に放出された放射性物質中半減期の短いものは短期間に減衰するが、キセノン一三三、クリプトン八五、ヨー素一三一等はほとんど減衰しないこと、そして格納容器内で浮遊している放射性物質の一部は格納容器スプレイによつて洗い落とされること、しかし、格納容器のスプレイによつて洗い落とされにくい有機ヨー素の存在割合は一〇パーセントとし、右ヨー素についてはスプレイ効果を全く無視していること、なお、右有機ヨー素の存在割合等は前顕各原子炉の災害評価と変わらないこと、(3)右同事故の場合の格納容器からの漏洩率は事故発生後二四時間は格納容器の設計漏洩率の三倍に、その後三日間は一日当たり1.35倍とそれぞれ仮定し、また、気密構造の格納容器ドーム部からも、格納容器内にある放射性物質の三パーセントが直接大気中へ漏洩するものと仮定していること、(9)右同事故時において大気圧よりも高くなつたアニユラス部の内圧を大気圧以下に低下させるために要する時間(負圧達成時間)は、アニユラス空気再循環設備が一系統しか働かないものと仮定しても、本件災害評価で仮定した一〇分間よりは少ないものと見られること、(10)右負圧達成時間中は、格納容器からその設計漏洩率の三倍の量の放射性物質がアニユラス部に漏洩するものとし、かつ、その放射性物質はすべてフイルターを通らず外部へ出るものと仮定し、また、負圧達成後も二〇分間は全量排気を継続し、その後も負圧維持のため必要な量以上の排気量があるものと仮定していること、(11)固体状放射性物質は、アニユラス空気再循環設備の除去率九九パーセント以上のフイルターによつて除去されるため、外部への放出は極めて微量なものであり、無視することができること、なお、格納容器に閉じ込められている放射性物質から出る放射線が、格納容器を貫通して直接的に、あるいは間接的に人体に達することによる被ばく評価には、格納容器に浮遊している固体状放射性物質による寄与分を考慮していること (12)重大事故及び仮想事故における蒸気発生器細管破断事故においては、右事故が、一次冷却水中の放射性物質量が、燃料被覆管の破損率五パーセント(平常運転時の破損率の評価の五倍に当たる)の状態で原子炉を運転しているときの量にあるときに発生するものと仮定していること、(13)右同事故の場合には、蒸気発生器細管の破断部から一次冷却水が流出し、原子炉停止系によつて、原子炉の停止がなされた後、原子炉内の放射性物質から出る崩壊熱は二次系の安全弁から放出された蒸気によつてその熱が除去され、更に、ECCSのうちの高圧注入系が作動してこれを冷却する。その結果、一次系の圧力は減少し、約三〇分後には主蒸気安全弁の設計圧力以下となり、その閉鎖が可能になること、(14)右同事故において、外部へ放出される有機ヨー素は第一次冷却系から二次冷却系へ放出された有機ヨー素の一〇分の一と仮定されている(右については当事者間に争いがない)が、有機ヨー素は熱的に極めて不安定なものであり、高温条件下では加水分解する性質を有しているため、加圧水型原子炉の一次冷却水等の温度である三〇〇度C又はそれ以上では急速に分解し、その量を減少するが、短時間のうちに生成と分解との反応が平衡状態に達し、有機ヨー素の量は一定となる。そして、有機ヨー素の量は全ヨー素に対する比率で見て、当初でも0.2パーセント以下であり、平衡状態に達したときは0.1パーセント以下に過ぎなくなること、(15)右同事故で外部へ放出される無機ヨー素は一〇〇の一と仮定している(右については当事者間に争いがない)が、右事故が発生した場合、無機ヨー素はまず一次冷却水とともに右破断部から蒸気発生器二次側の液相部に流出した後、右液相部から蒸気発生器の気相部に移行する。この事故時の温度条件では、無機ヨー素はそのすべてが水に溶けており、直接揮発して気相部へ移行するものはほとんどない。このため無機ヨー素は液相部から気相部へ移行する場合には、蒸気に巻き込まれた微細な水滴に溶けたままの形態で移行するが、気相部に移行した無機ヨー素は、更に、蒸気発生器出口を通り、主蒸気管に設けられている大気放出弁へと移行していく。そして、右蒸気発生器出口付近には気水分離器が設置されていて、蒸気の湿分調節がなされるため、水滴に溶けたままの形態で気相部へ移行した無機ヨー素が外部へ出る割合は、蒸気発生器出口の湿分含有率によつて決まることになり、本件原子炉の場合、右湿分の含有率は0.25パーセント以下に保持されるので、最大の場合でも四〇〇分の一になること、(16)本件災害評価においては、本件敷地の地形等を考慮すると地表四〇メートルの高度に逆転層が存在し、四〇メートル以下のみ放射性雲が均一に分布するとするヒユーミゲーシヨンによる評価よりも、事故時に放出される放射性雲の中心に人がいるとの仮定を用いるパスキル式による評価の方が厳しい評価結果となること、そのため本件原子炉設置許可申請書添付書類の記載を訂正し、申請当初のヒユーミゲーシヨンによる評価をパスキル式に変更したこと、(17)本件災害評価における大気安定度は一番厳しい評価となるFとし、風速は現地で年間に観側された風速の九七パーセントの所にある2.5メートルとし、その他拡散条件を現地での観側より厳しく設定したことがいずれも認められる。
次に、蒸気発生器細管破断事故の想定において、一次冷却材中の希ガスの初期放射能濃度及び事故後に追加放出される希ガスの放射能の量が、本件原子炉の場合と玄海一、二号炉、美浜一、二号炉、高浜一号炉等の場合とでは異なり、また、一次冷却材中のヨー素濃度については、本件原子炉の場合と玄海一号炉の場合は等しいが、高浜一号炉の場合は異なることはいずれも当事者間に争いがない。右につき、被告は、希ガスについて、本件原子炉の場合と九州電力玄海一号炉の場合とで差があるのは、安全審査会が昭和四六年七月六日付で最近の知見をまとめて作成した「被ばく計算に用いるエネルギー計算について」と題する資料のデータを本件原子炉で用いたからであり、本件原子炉の場合と玄海二号炉の場合とで差があるのは、玄海二号炉の場合には従来被ばく評価に際し、被ばく線量がごく小さいから考慮する必要がないとされていた核種まで考慮したためである旨、また、ヨー素については、原子力委員会月報一四巻一二号に掲記された高浜一号炉の安全審査報告書において、同報告書中のヨー素の濃度を、印刷ミスにより、8.5とすべきところ誤つて八五と記載したものであり、実際には本件原子炉の場合と同様である旨主張するが、右主張事実を直接認めるに足る証拠はない。しかし、一次冷却材中のヨー素の濃度が本件原子炉と玄海一号炉とで違わないことについては当事者間に争いがなく、右事実及び<証拠>に照らすと、高浜一号炉の一次冷却水中のヨー素濃度に問題があることがうかがわれる。
次に、<証拠>によれば、希ガスの追加放出放射能量は、発電所の出力にほぼ比例するものであること、美浜二号炉、高浜一号炉等でもこの放出は考慮されていること、昭和四六年七月六日にエネルギーの計算方法を計算の結果が小量になる方法に変更したことがいずれも認められ、右事実及び特に本件原子炉で希ガスの初期的及び追加放出濃度を恣意的に又は誤つて評価したことを認めるに足る資料のないことに照らせば、本件原子炉においては、他の原子炉と異なるデータを用いて評価したものと推認される。右認定を左右するに足る証拠はない。
したがつて、前示争いのない事実は前示認定を左右するものではない。
そして、前記各認定事実と<証拠>を総合すると、本件災害評価における被ばく線量は相当と認められる。
ところで、原告らは、蒸気発生器細管の複数本破断及びそれによる炉心溶融を考慮して災害評価をなす必要がある旨主張する。しかし、本件安全審査において蒸気発生器細管は健全であり、安全性は維持されると判断されたこと、右判断は相当と認められることは前記のとおりであり、これと前記立地審査指針の目的とを併せ考えれば、蒸気発生器細管の複数本破断まで考慮して災害評価をなすべき必要性は見出し難い。のみならず、前記のとおり、蒸気発生器細管破断事故が発生しても、炉心の状態は一次冷却系の大口径配管破断の場合に比べて厳しいものでないと評価されていること、<証拠>によれば、蒸気発生器細管破断の場合には高圧注入ポンプ(定格作動圧力約七六気圧)によつて、七六気圧以上の圧力にも対抗して炉心内に注水することができるものと認められることに照らし、蒸気発生器細管の破断により炉心溶融に至ることはないと認められる。右認定を左右するに足る証拠はない。したがつて、前記原告らの主張は理由がない。
また、原告らは、今までの原子炉の安全審査における災害評価において、格納容器の漏洩率、大気中への放射能の拡散条件がまちまちであり、安全審査のずさんさを示す旨主張する。右原告ら主張の如く各安全審査における格納容器の漏洩率、大気中への放射能の拡散条件が各発電所で異なることについては当事者間に争がないが、しかし、格納容器の漏洩率や気象条件、放射性物質の放出高さ等は各発電所で異なることは、各発電所の設計、気象等に差異がある以上、各発電所によつて右の点について相違するのが通常であり、かつ、原子炉立地審査指針一の―二のaの定めも、このことを予想している趣旨と解される。のみならず、原告らの右主張事実は直ちに前示認定を左右するものではない。
更に、原告らは、本件災害評価において、食物連鎖による被ばく評価をしていない(右については当事者間に争いがない)のは不当である旨主張する。たしかに前記指針二の二―一は「人がいつづけた」場合の居住者の被ばくに線量によつて、非居住区域の範囲を定め、同二―二には「何らの措置も講じない」場合の居住者の被ばく線量によつて低人口地帯の範囲を定めているが、右指針の定めるところが、居住者が通常の生活をしている場合をいう趣旨であると解すると、個々の居住者によつて被ばく線量が異なることとなり、ひいては、地域により、画一的に右離隔を図ろうとする立地審査指針の目的を達することができなくなる。したがつて、右指針二―一の「人がいつづけた」場合とは単に人がそこにとどまつていることをいう趣旨と解すべきであり、右指針二―二の「何らの措置も講じない」場合とは積極的に事故に対する防災対策を採らない場合をいう趣旨とのみ解すべきで、いずれの場合も食物連鎖による被ばくまで考慮することを要求する趣旨と解することはできない。以上により前記原告らの主張は理由がない。
なお、原告らは、本件安全審査における想定事故の内容、経過の仮定が不合理であるとして、請求の原因第五章の第四の四の3掲記のとおり主張する。しかしながら、原告らの右主張は前記立地審査指針の解釈と異なる見地に立つものであり、かつ、原告らの主張する想定事故の内容、経過についての仮定が、本件災害評価における仮定と比べて合理性があることを裏付ける事実を認めるに足る資料はない。したがつて原告らの右主張は理由がない。
その他前示各認定を左右するに足る証拠はない。
(四) 以上により、本件安全審査において、前記のとおり災害評価をなしたこと、右災害証価に基づき本件原子炉の敷地は万一の事故の場合にも、周辺、公衆の安全を確保できるものであると判断したことは、相当と認められる。
2推定事故について
原告らは、本件敷地については、後藤マツプの七五年期待値により、卓越周期を0.3秒とすると三九〇ガルという高い地震動が予想され、四国沖、南海トラフを震源地とする巨大地震では、三七一ガルないし一〇六三ガルという巨大な地震動が予想され、また、中央構造線の活断層部分の長さを一〇〇キロメートルとすると、マグニチユード8.2の巨大地震の発生が予想され、その震源地が本件敷地から五〇キロメートル離れていても卓越周期0.5秒とすると三一〇ガルの地震動が推定され、また、被告が採用している一七四九年(寛延二年)五月二五日の伊予宇和島沖地震において、飯田式により震源の深さを求めると約一〇キロメートルとなり、金井式によつて本件敷地の地震動を求めると約三四〇ガルとなり、更に、震央距離を用いた金井式によると、約四二八ガルの地震動となる。したがつて、本件原子炉の主要施設の耐震設計では右いずれの地震動にも耐えられず、破滅的な大災害に至る旨請求の原因第五章の第四の五掲記のとおり主張する。
しかし、後藤マツプの地震の規模は、本件敷地に適用し難いものであること、四国沖、南海トラフを震源地とする巨大地震が本件敷地に影響を及ぼす程度は小さいものであること、中央構造線による地震の規模も、仮にあつたとしてもマグニチユード七程度であること、右原告ら主張の地震について金井式で震央距離により計算し、又は軟弱地盤に適用すべき方式の金井式で計算し、本件敷地における地震動を求めることはいずれも妥当でないことは、すでに認定したとおりであり、前顕乙第六一号証及び証人垣見の証言によれば、原告らのいう「飯田の式」は原告らが主張する地震の震源の深さを求めるための公式ではないことが認められる。前示「原子力発電所における設計地震の策定に関する研究」で、この公式により震源の深さを定めていることは右認定を左右するものではなく、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
そうすると、その余の点について判断するまでもなく原告らの右主張は理由がない。
第六 本件許可処分の違法性の問題について
1手続上の違法性の問題について
前顕第二掲記のとおり本件原子炉の設置許可処分手続には、これを取り消すべき違法は見出し難い。
2本件許可処分の内容上の違法性の問題について
(一) 本件安金審査において、本件原子炉施設の位置、構造及び設備が、安全設計審査指針、立地審査指針等の審査の基準に適合すると判断されたことについては当事者間に争いがなく、前示第三ないし第六の認定、判断及び弁論の全趣旨に照らすと、本件安全審査において、本件原子炉の基本設計が安全設計審査指針、立地審査指針その他の原子力発電所設置における審査の基準に適合するとした右判断は相当と認められ、ひいては本件原子炉施設は規制法二四条一項四号に適合するものとした被告の判断及び四国電力の技術的能力が同条一項三号に適合するとした被告の判断はいずれも相当と認められる。
(二) いわゆる「めやす線量」については、すでに述べた立地審査指針における想定事故が、原子炉と周辺環境との離隔を図るための手法として利用されているものに過ぎず、当該原子炉の規模、型式、周辺環境等具体的な事実を判断の要素として取り込むものの、事故の原因、経過等は仮定的なものであつて、現実に原子炉事故が発生した場合の現象を想定するものではないことはもちろん、事故そのものの発生を想定するものでもないから、想定事故が現実に発生した場合を考えて、その被ばくをうんぬんすることは意味がない。そして、立地審査指針に定める「めやす線量」の意義は、上記の各条件を基として、原子炉と周辺環境との距離関係を定める因子でしかなく、現実に周辺住民がこの線量の被ばくをすることは全く予想されていないものであるから、その危険性を理由として違法性を判断すべき筋合のものではない。
(三) 以上認定のとおりとすると、更にその余の点について判断するまでもなく、本件原子炉の設置を認めることは原告らの基本的人権を侵害するから、基本法及び規制法は憲法一三条、一四条、二五条、二九条に違反するとの原告らの主張は理由がないものというべきである。
第七 結語
よつて、本件許可処分は、これを取り消すべき違法は認め難いから、同処分の取り消しを求める原告らの請求は理由なきものとしてこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用し、主文のとおり判決する。
(柏木賢吉 金子與 岡部信也)
別紙一 当事者の表示(前掲・以下、別紙省略)